春のイベントとして定着しつつある「ニコニコ超会議」の目玉企画「大相撲 超会議場所」が、今年も「ニコニコ超会議2015」(千葉・幕張メッセ、4月25〜26日)で開催される。若者を中心に10万人を集めるネットユーザーの祭典と相撲では“土俵が違う”ようにも見えるが、昨年初めて開催したところ大人気に。「お祭だからこそ真剣に」──日本相撲協会で巡業部長を務める尾車親方に狙いを聞いた。
昨年開かれた初の「超会議場所」には、白鵬、日馬富士、鶴竜の3横綱をはじめ幕内力士250人以上が参戦。幕張メッセの中央に設けられた本格的な土俵で、トーナメント形式で取り組みを披露した。横綱の土俵入りや現役関取と相撲が取れる「わんぱく相撲」、ハイタッチ会なども行い、同イベントで1番の人気を集めた。
企画の発端は、ドワンゴ側から相撲協会への打診だったという。現役時代は大関・琴風として活躍した、現在57歳の尾車親方は「まぁこの年だからねぇ……最初は何の話をされてるのかさっぱりわからなかった」と笑う。
2日間で10万人を超える来場者とネット視聴者の前で相撲を取る――数のインパクトはもちろんだが、普段のお客さんとまったく違う層に届けられること、若い人の目に触れる機会になることが何よりも大きな魅力だったという。
八百長問題が大きく取りざたされた2011年、テレビ中継が中止になった苦しい時期にニコニコ動画で生配信が行われ、延べ160万人に視聴されたという反響の大きさも念頭にあった。「通常の巡業とはもちろん違うが、やる意義は確実にある」──と参加を決めたのは2013年冬のことだった。
年が明けた1月、「超会議場所」の実施を発表した会見には白鵬関も登場し大盛り上がり。土俵際で至近距離で楽しめる「砂かぶり席」「椅子席」も限定販売したところ、即座に完売するなど開催前から注目を集めた。
「やるなら“本物”を見せたい」とこだわり、海外巡業などで使用する組み立て式の土俵を幕張メッセに持ち込むことに。土台部分は木材だが、表面20〜30センチにかぶせる土は総量15トンにもなる。普段と同じように丁寧に土を固め、立派な土俵が完成した。これで胸を張ってお迎えできる、本物の迫力を感じてもらおう――。
しかし当日、会場に着いた親方が入場を待つ行列を見てまず頭によぎったのは「これは、だめかもしれない」。国技館では見ない年齢層の若い男女がスマホやゲーム機を片手に並んでいる姿に「きっと相撲以外が目当てだろうし……」と諦めの気持ちが生まれたという。
だが、その心配は杞憂に。会場中央に設けられた土俵の周りには常に人が絶えず、立ち見が難しいほどの盛況だった。会場だけでなく、生中継に流れるコメントも活発だ。勝敗が付いた瞬間、人気力士が映った時、画面が見えないほどの弾幕に包まれた。
親方が力士に伝えたのは「お祭だからこそ、真剣にやれ」。いつもと異なる環境になるがトーナメント形式の取り組みはふざけず気を抜かず、本気でぶつかれと何度も言ったという。「『相撲初めて見たけど、こんなもんか』と思われたら失敗。本人たちにとっては集中しにくい環境だったと思うが、よくやってくれた」(尾車親方)。
隣ではステージに向かって男の子たちがペンライトを振っていて、遠くからはボーカロイドの曲が聞こえてくる。力士も初めての環境で最初は戸惑っていたそうだが、スクリーンに流れる「かっこいい」「強そう」などのコメントを見ながら、笑顔を見せたりサービスしたり、いつもより和やかな雰囲気で進んでいった。
「コスプレ姿で土俵際に座っていた女の子が、正座して真剣な顔で取り組みを見つめていた光景が目に焼き付いている。異文化だなと思うと同時にすごく感動した。こちらから歩み寄れば楽しんでくれるんだ、攻めていけばまだまだ魅力は届くんだ、といい意味で予想が裏切られた。『この子たちはどうせ興味なんてない』と決めつけていたのはこっちだった」(尾車親方)
「力士たち自身が楽しんでいたのも印象的」と親方が話す通り、「お相撲さん歩いててシュール」「アパッチ見に来てる」「コスプレじゃなくて本物だった」――当日はそんなツイートもあふれ、取り組みを終えた力士たちが会場を回っているのも話題になった。
「よく考えたらちょんまげを付けてるだけで、彼らもこの場に集まってる子たちと同じような世代だという当たり前のことに気が付いた。そうかこんなものに興味があるんだなぁ、と弟子のことも再発見できた」(尾車親方)
力士のために幕張メッセへの往復バスを協会が用意していたが、帰りはガラガラ。今年もまた目いっぱい楽しんで帰る力士が多いだろうと、今回は帰りのバスを手配しないことに決めたそうだ。
2回目となる「ニコニコ超会議2015」では、前回を踏まえてさらにパワーアップする。力士と直接触れ合える企画のほか、往年の名力士にも現在出演を打診中だという。
ネットユーザーの間では人気MAD動画シリーズ「SUMOU」が“無修正”で完全再現されるのも話題だ。親方は「よく分からないんですが何かやってくださるようで」と断りながら(あるいは「国家最高機密」を隠しながら)「こんな楽しみ方もあるとは驚きました。こちらはドワンゴさんにお任せ、お祭なので積極的に面白く見せてもらえれば」と笑う。
本場所、巡業に並ぶ新たなイベントとなった「超会議場所」。最後に、初めて相撲を見る人に向けた生の取り組みの楽しみ方を聞いてみた。
「まずは立ち会いの激しい当たりに注目してほしい。体がぶつかる音、足元の振動を生で体感できるのは、テレビや中継を通して見るのとはやはり大きく違う。目の前でこの迫力を見れば、力士は“ただのデブ”じゃない! ということが見れば分かってもらえるはず」(尾車親方)
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