無料でゲームをプレイでき、アバターを使ったコミュニケーションが行える携帯電話向けサイトが注目を浴びている。600万会員を突破した「モバゲータウン」が市場を切り開き、続いて携帯専用SNS「EZ GREE」もゲームとアバターを導入。mixiの携帯サービス「mixiモバイル」も、ゲームやアバターの導入を検討している(関連記事参照)。
「ゲームとアバターの組み合わせは、われわれが元祖ではない」――モバゲータウンを運営するディー・エヌ・エー(DeNA)モバイル事業部長の守安功さんは言う(関連記事参照)。グリーの田中良和社長がこのモデルのルーツと考えているのも、モバゲータウンではない。
2人が「参考にした」と話すのは、2000年にスタートした、NHN JapanのPC向けオンラインゲームサイト「ハンゲーム」だ。登場当初からゲームとアバターコミュニティーを融合。10代を中心に人気を集め、登録会員数は2000万人を超え、最大同時接続数は12万4000人に上る。
ゲームとアバターコミュニティー。一見つながりが見えにくいこの2つはどのように結びついたのだろうか、また、アバターはなぜ人気で、アイテムはなぜ売れるのか。NHN副社長の森川亮さん、ゲーム事業部長の梶原秀樹さん、サイト運営事業部長の日高和俊さんに聞いた。
ハンゲームは韓国出身だ。韓国NHNが1999年12月、チャットもできる無料ゲームポータルとして「Hangame」をスタート。ネット黎明期だった韓国で「ネットだからこそ価値が出るものは何だろう」と考えた結果が、コミュニティーとゲームの組み合わせだったという。
「ネットはコミュニケーションの価値を高めるが、単純にコミュニケーションの場だけを用意してもうまくいかない。ゲームがあればコミュニケーションのきっかけになり、オフラインと違う価値が出ると思った」(森川さん)
選んだゲームは、韓国では国民的人気の花札。オンラインで花札をプレイでき、チャットで交流できるようにしたところ大ヒットした。ただ「どうやってお金にするかが課題だった」(森川さん)といい、無料版はプレイ回数制限、有料版は制限なし――といったモデルを試したがうまくいかなかった。
そこで考え付いたのが、ゲームアイテムの販売だ。基本プレイは無料を続けながら、悪い戦績を消せる機能や、プレイのヒントがもらえる機能などを有料で販売。これがヒットし、ビジネスが軌道に乗った。いまでも韓国NHNのゲーム収益の数十%を花札が占めているという。
その後、他社サービスでヒットしたアバター機能を導入し、アバターアイテム販売も開始した。「アバターは名刺のようなもの。人と仲良く楽しむためのゲームは、自分のアイデンティティを示せるアバターと相性がいい」(森川さん)
ただ韓国では、アバターアイテムよりもゲームを有利に進めるためのゲームアイテムの方がよく売れるという。韓国人は勝負重視で、仲良くプレイすることよりも、相手を負かすことを最優先するためだ。
韓国のシステムをそのまま移植する形で2000年11月に日本に進出したが、日本ではアバターアイテムがよく売れている。日本人はコミュニケーション重視。勝ち負けよりも、時には手加減しながら楽しくプレイすることを楽しむ人が多いためという。
アバターのさりげない自己主張も、日本人に合っている。「韓国人や米国人は、自分の写真や本名をネットに掲載したり、書き込みを積極的にするなど自己主張が強いが、日本人だと恥ずかしがったり遠慮して、ネット上でも自己主張しない人が多い。アバターならさりげなく自己アピールできる」(梶原さん)
コミュニケーション重視の日本人に合わせ、日本のハンゲームはサークル機能や掲示板機能などコミュニケーション機能を充実させている。「ゲームはスポーツのようなもの。みんなでスポーツする前後に集まって話せる場にニーズがある」(森川さん)
ユーザーは、アバターやコミュニティー、マイページに、ゲームの“自分史”を積み重ねていくという。「アバターやマイページはゲーム内のIDのようなもの。ゲームの経験値やプレイ史が蓄積されていき、いっそう愛着がわいてくる」(日高さん)
日本人はアバターファッションにもこだわる。「アバターでも人と同じ格好をしたがらない。自分らしくカスタマイズするためのアイテムが売れる。ブログのスキンのようなものだが、ブログより積極的にアピールできる」(森川さん)
リアルの世界では男性よりも女性のほうがおしゃれ好きだが、アバターだと男女ともにおしゃれになるという。「男性は、女性に良く見られたいと思う気持ちがあってアバターをおしゃれにするようで、女性が少ない場では男性もあんまりおしゃれじゃない。また、男性はコレクション好きな人も多く、レアアイテムを集めたりアイテムをコンプリートしたりして楽しんでいる」(森川さん)
アバターがおしゃれかどうかは、ゲームによっても異なる。「コミュニケーション重視のゲームは、着飾ったアバターを着用している人の率が高い。勝負重視で高年齢層が多い麻雀ゲームなどは、アバター着用率が低い」(梶原さん)
ハンゲームで積極的にアバターを利用しているユーザーは、10代が中心。高年齢層はアバターに抵抗感がある人も少なくない。だが、ハンゲームの世界に一度入り込むと、アバターがないとむしろ恥ずかしいと感じるというという
「年齢層が上の人は、ネット上のコミュニケーション自体に抵抗がある人も多い。だが1度コミュニティーに参加すると、アバターが必要だと感じ始める。アバターを着飾っていないと参加しにくい雰囲気のコミュニティーもある」(森川さん)
「ハン彼」「ハン友」「ハン家族」――ハンゲームには、ゲーム内“人間関係”がある。リアルでは会ったことのない人がネット上のバーチャル彼氏、バーチャル友人、バーチャル家族などになり、掲示板やサークル、メール上などで“人間関係ごっこ”に興じる。こういった文化はモバゲータウンやEZ GREEにも波及。「モバ彼」「グリ家族」など、それぞれで同様の現象が起きている。
「ゲームがまさに、実際のスポーツや学校のクラブ活動のようになっている。最初はゲームを教え、教えられる子弟関係があり、師匠役がハンゲママになったりする。そこにマネージャーのような感じの女の子が入ってきて恋心が生じたり……」(森川さん)
「アバターというフィルターが1枚かかってることで、リアルの友人などよりも本音を出しやすくなる部分もあるだろう」と梶原さんは言う。「わたしも『娘に嫌わてるんだけれど……』という相談を、ユーザーにしたことがある」(森川さん)
アバターを活用したコミュニティーサービスはさまざまあるが、ユーザーが集まらなかったりアイテムが売れなかったりしてうまくいっていないものも多い。森川さんによると、同じアバターアイテムでも、売れるかどうかは“場”によるという。
「ユーザーは“場の価値”にお金を払う。平和で仲良くしたいと思える場を作り、『他人に良く見られたい』という気持ちにさせることが必要。山奥や戦場ではアバターは売れない」(森川さん)
ハンゲームには130種類以上のゲームがあり、それぞれのゲームに異なるルールと文化――それぞれに異なる場がある。「ゲームは街のようなもの。渋谷も新宿も秋葉原もある」(森川さん)。渋谷には着飾った若者が集まり、新宿にはビジネスマンが、秋葉原にはこだわり派が集まる。アバターの個性も街によって異なり、できるコミュニティーも異なる。
PC上で多様なコミュニティーを作り、さまざまな個性を持ったユーザーが居心地良く過ごせる場を提供するのが、ハンゲームが目指す姿だという。「ゲームの設計は街作りに近い。ユーザーが持つ文化に合った場を作るのが大事」(森川さん)
最近の中高生は、携帯電話向けのモバゲータウンやEZ GREEでアバターやゲームを楽しんでいる。ハンゲームは携帯向けサービスをまだ本格化していないが「そろそろ携帯にも本腰を入れたい」(森川さん)という。
ただ、携帯ネットをメインで使う世代は、自分用の携帯を持っていて、PCを使い慣れていない中高生から20代前半まで。20代後半以降と小学生以下はPCを中心に利用しているという。「リアルイベントを行うと、親子連れの参加者も多い」(梶原さん)。ハンゲームは親世代も楽しめる本格MMORPGの導入を進めており、世代を問わず楽しめる場を提供していきたいという。
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