2ちゃんねるの管理人・西村博之(ひろゆき)氏が監修した動画サービス「ニコニコ動画」β版が人気を集めている。YouTubeなどの動画に、ユーザがー字幕でコメントを付けられるというもの。1月15日にオープンしたばかりだが、1日あたりのページビュー(PV)は400万を突破し、1月30日までに投稿されたコメント数は380万件以上、投稿された動画URLの数は2万4000件を超えた。
音楽プロモーションビデオやつまらない芸人のネタ、ミュージカル映像――ごく普通の笑えない映像が、ユーザーの突込みを得て爆笑コンテンツに変わる。「面白くないものを面白いものに変えられるのがサービスの価値かな」。ひろゆき氏はそう語る。動画の上で、新しいコミュニケーションが生まれている。
ニワンゴは、2005年11月に設立したドワンゴの子会社で、ひろゆき氏が「取締役兼管理人」を務める。ニコニコ動画は、携帯メールの情報サービスに次ぐ、同社サービス第2弾だ。
動画にコメントすると、そのコメントを動画に重ねてリアルタイムで表示。文字の色や流れ方、流れる位置も選べる。以前に視聴したユーザーのコメントもタイムラインに沿って表示される仕組みで、動画上にさまざまな人のコメントがずらりと並ぶ。
動画にテキストを重ねる技術はもともと、ドワンゴの携帯動画サービス「パケラジ」向けに開発されたもの。ドワンゴが作成した動画に携帯からコメントを付けられる、というものだった。
「でも、YouTubeとかAmebaVisionに面白い動画がすでにあるんだから、それを借りちゃった方がラクじゃん、と」。既存のサービスから動画を引用することで、独自コンテンツや動画サーバを不要に。1日400万PVものトラフィックがあっても、負荷は比較的低いという。
「動画自体を置いてないので。ユーザーの滞在時間に比べるとコストパフォーマンスはいいんです。それもYouTubeとAmebaVisionのおかげ。“便乗モデル”です(笑)」
「テスト段階ではみんな、動画の感想みたいなのを書いていました」。当初は、字幕がここまで面白いものになると想定していなかったが、正式公開してユーザーが増えると、想定を超えるコミュニケーションが生まれ、日々進化している。
「動画に対する“突っ込み”が生まれて、突っ込んだ人に対してさらに突っ込む人も現れ――どんどん段階が増えていく。盛り上がり所の前に、『みなさんご一緒に』『数秒後にすごいの来ます』と指示する人が現れ、数秒後にみんなで一斉に書き込んだり。滑舌が悪い人のせりふを解説する人もいる」
画面上では「こんなのつまらない」「いや面白い」と言い争いも起き、それを仲裁する人も現れる。前の人のコメントを見た上で新しいコメントが入るので、コミュニケーションがどんどん深化していく。コメントは最新200件しか表示されないので、深すぎて何が起きているか分からない――というところまでは行きにくい。
「テレビだと『職業:ボケ』『職業:ツッコミ』の人がいて、突っ込んだ時点で初めてそこが面白いと分かり、テロップで『ここが笑う所だよ』と教える。ニコニコ動画は、テレビとしての完成品の上にさらに『ここが面白いんだよ』とやる」
「ユーザー同士でコメントすることによって、面白くないものを面白いものに変えられるというのが、サービスの価値かな」
企業としてサービス展開している以上、収益化も考えている。売りは、YouTubeの映像に突っ込むことによって生まれる新しい価値、だ。
「YouTubeは、他の著作権者の著作物をそのまま劣化させ、広告モデルにしようとしている。それはそれでビジネスと思うけれど、元の作品の権利の奪い合いになっているような状態。そこはあまりやりたくない。YouTube上の素材にユーザーが突っ込むことで新しい価値が生まれていると思うので、その部分を売りにしたい」
「例えば、ミュージシャンのプロモーションビデオ(PV)は、サイトに載っていても、ファン以外はまず見に来ない。だが『こういう突っ込みをするとこのPVが実は面白い』という視点があれば、ファンとは別の視点から面白がってもらえて、見に来てもらえるかなと」
ニコニコ動画で最初に再生回数・コメント数ともトップに君臨したのは、YouTubeに投稿された有名ミュージシャンのミリオンセラー曲のPVだ。普通に見れば笑いどころはないはずの普通のPVだが、ニコニコ動画で大量のツッコミが入り、爆笑コンテンツに変身した。
「この曲、ぼくもニコニコ動画で初めて知りました。これまで知らなかった人が楽曲を知り、うち何人かがCDを買ってくれれば、元の権利者も幸せになるのでは」
面白いコンテンツの多くは、権利者に無断でYouTubeにアップされている。ニコニコ動画はそれにリンクしているだけ。「『ここにこれがあるよ』とリンクで伝えること自体に、違法性はないと考えている」
ただそれでも、元の権利者にとっては不快かもしれず、割り切ってプロモーションに活用するには勇気がいるだろう。
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