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アンプ実例


 ギターの出力信号を増幅し、音響出力に変換す る役割を果たすギター・アンプは、音楽的要素や 演奏形態など使用条件の多様さから、さまざまな 形態のアンプが作られている。それらの内で、最 も標準的と思われるアンプとして、フェンダー・ ツイン・リバーブ・モデルを、大型アンプの例とし てマーシャル・ユニット3を取り上げ、その構成 について述べる。

●フェンダー・ツイン・リバーブ   ツイン・リバーブの構成      a)入力回路      b)トーン・コントロール回路      c)リバーブ回路      d)ヴィブラート回路      e)パワーアンプ      f)スピーカー部

●マーシャル・ユニット・3   マーシャル・モデル1959アンプ      a)入力回路      b)プリアンプ部      c)電圧増幅段      d)トーン・コントロール回路      e)パワーアンプ部      f)出力回路

  マーシャル・モデル1960,1960Bスピーカー

●フェンダー・ツイン・リバーブ

 米国フェンダー社のギター・アンプであるツイ ン・リパーブは、ギター・アンプとしては最もポ ピュラーなアンプであり、その適用範囲の広さが ら、あらゆる演奏スタイルの音楽で使用されてい る。また、その大きさ、形状、機能、音色なと常 に範とされ、各社から同様な製品が多数出されて いる。ギター・アンプを考える上で常に基準とさ れ、ギター・アンプの一つの方向性を示し、最も 完成度の高いアンプとされている。  ツイン・リバーブは2つのスピー力ー・ユニッ 卜とリバーブ回路を備えたビルドイン・タイプの アンプである。大ささは1人で運べる限度と言 る大きさであるが、30cm径のスピー力ー・ユニッ 卜2個を、100WRMS出力のアンプを内蔵させドライブ している。重量はかなり重いため、キャスターを 付属させ、運搬を容易にしている。比較的小型な がら大出カアンプを内蔵させることによりかなり の大音量を発生さぜることができるため、適用性 は広い。また、トーン・コントロール機能付属回 路などは、ギター・アンプの標準的なものとして 扱われている。


●ツイン・リバーブの構成  アンプ部はエンクロージャー 上部につり下げられる形でマウントされておリ、 前面に入力端子とコントロール用ノプ類、後面に 出力端子及ぴ電源系統のスイッチがまとめられて いる。発熱の激し い真空管類は、放熱条件のよい後面部に一列に並 べられている。  図III‐54は全体の回路構成を示すブロックダイヤ グラムである。増幅素子は全て真空管で構成さ ている。入力部はノーマル・チャンネルとヴィブ ラート・チャンネルの2系統からなつている。各 チャンネルに2つの入力端子があり、入力信号を プリアンプで増幅し、トーン・コントロール回路、 ボリューム、電圧増幅回路を経て次段に送る。以 上の回路は2チヤンネルとも全く同一の回路で構 成されている。ソーマル・チヤンネルでは、その 後信号は直ちにマスター・ボリュームを経てバワ ーアンプ部に導かれるが、ヴィブラート・チャン ネルでは、リバーブ回路、ヴィブラート回路を経 てマスター・ボリュームに送られる。リバーブ回 路はスプリング・リバーブ・ユニットを用い、ヴ ィブ・ラート回路は低周波による位相変調回路によ リ構成されている。 パワーアンヴでは信号を電力増幅し、スピー力 をトライづ・する。内蔵のスピー力一・インピ ダンスは、8Ωのものが並列接続され、トータル ・インピータンスは4Ωとなつている。 また、リパーブとヴィブラート回路はフット・ スイッチにより、リモート・コントロールできる ようになっている。


a)入カ回路
 ギターのピックアップの出力インピーダンスは 一般に高く、特に高域周波数においては数百kΩ以上 に達する。ピックアップ出力の負荷となるアンプ の入力インピーダンスによって、信号レベルや周 波数特性に大きな変化を与えることは、前述のと おリである。 図III-55はツイン・リパーブの入力部分である。
 1はハイゲイン、2はローゲイン入力であり、ハイ ゲイン入力では入力インピーダンスは1MΩ、ロ ーゲイン入力では136kΩでゲインは約半分である。 一般に出力電圧の低い楽器は1入力に、高いもの は2入力を使うようになッているが、ディストー ション・サウンド、外部エフェクタ類が多用さ れる現在では、1入力を使うことが多い。ローゲ イン入力は抵抗分割され、レベル・タウンして、 プリアンプ部に入るようになっているが、この入 力はアンプを複数台使用する場合の出力端子とし ても使用できる。ハイゲイン入力信号は、ほとん どそのままローゲイン入力端子に現われるため 他のアンプの入力信号として使用できる。ローゲ イン入力端子の他のアンプの入カ端子を結線すれ ぱ、2台のアンプは並列動作する。ローゲイン入 力どうしの結線の場合は、ギター出力はローゲ ン入力に入れられた場合と等価となる。

b)トーン・コントロール回路
 入力信号は、3極管力ソート接地回路1段で、 約35dB増幅された後、CRパッシヴ型トーン回路 を通過する。ツイン・リバーヴのトーン回路は、 トレブル、ミッド、ベースの3レンジを各々の〕 リュームでコントロールすることができる。 図III-56はその回路構成で、動作原理は次のようになる

@Treble‐min.Mid‐max.Bass‐mln
 この状態での等価回路は、図III-57のようになり、 回路は単純な抵抗分割によるアッテネーターと見 なせる。周波数特性はフラットな特性を示し、 帯域に渡って-20dBの減衰状態である。オーディ オ機器等で通常使用されるトーン・コントロール では、各コントロール・ボリュームのセンター位 置でフラットな特性が得られるが、このタイプの トーン回路は、ミッド・レンジのみmaxとした 状態でフラットになる。

ATreble‐max、Mid‐min、Bass‐min
 当然高域上昇の特性を示すが、等価回路は図III-58 のようになる。これは1次のハイパス・フィル ターであり、6dB/octの低域減衰特性となり、 力ットオフ周波数は
(56式)
である。


BTreble-min、Mid-min、Bass-max
 図III‐59に示す等価回路の状態である。周波数特 性は6dB/octの高域減衰特性となる。


CTreble-max.Mid‐min、Bass-max
 中域だけを絞り切った状態では図III-60に示す ように、Tブリッジ回路を形成するため、中域に鋭 いディップを示す。
 これらの周波数特性の変化の様干を図III-61に示 す。一般にオーディオ機器等で使用されるトーン・ コントロールは、ボリュームのセンター位置でフ ラットな特性となり、プースト、力ットの特性が 対称的なシェルビング特性を示すが、ギター・ア ンプに一般的に使われているこの形式の卜ーン回 路では上記のような変化特性を示す。





c)リバーブ回路
 リパーブ回路は、ギター信号にリバーブ信号を 付加することにより残響効果を作り出す。ツイン・ リバーブでは、ヴィプラート・チャンネルにリバー ブ回路が設けられている。2段目の電圧増幅段 の出力信号を、リバーブ・ユニット・ドライブ回路 により増幅し、スプリング・リバーブ・ユニット に与えている。スプリング・リバーブ・ユニット の動作原理はエフェクターの項で詳しく述べる。  ユニットにより作られたリバーブ信号は、電圧 増幅された後、リバーブ調整ボリュームによって レベル・セットされ、原信号とミックスされる。 ユニット・ドライブ回路は電力増幅を必要とする ため、12AT7を並列接続した力ソード接地回路で あり、出カトランスによリインピーダンス・マッ チングを行なつている。リバーブ信号増幅回路は 7025による力ソード接地回路である。原信号との ミキシングは、抵抗ミキシング回路で、リバーブ 効果を深めるため、原信号側のミキシング低抗の 抵抗値を非常に高く設定している。このため、原 信号のレベルは大さく減衰する。信号レベルの低 下を補うために、ヴィブラート・チャンネルでは 再度7025による電圧増幅を行なっている。

d)ヴィプラート回路
 ヴィブラート回路は、ヴィブラート・チャンネ ルの3段目の電圧増幅段の出力側に構成された時 定数回路の定数を、低周波発振器による変調信号 により変化させることでヴィブラートを行なって いる。ヴィブラート効果は、正確には低い周波数 信号による周波数変調効果であるが、電子回路的 に構成するためには非常に複雑な回路となる。こ のことはエフェクターの項で詳しく述べるが、ツ イン・リバーブでは、トレモロ効果とヴィブラー ト効果の中間的な動作をする回路を採用して、 ヴィブラート回路としている。
 3段目の電圧増幅段の出力部にはCR結合によ るハイパス・フィルターが構成されている。ハイ パス・フィルターの抵抗値を変化させると、ハイ パス・フイルターの力ットオフ周波数が変化する とともに、位相特性も変化する。抵抗値の変化は CdSの光抵抗変化特性を利用している。CdSは12 AX7によって発振・増幅された低周波信号で点 滅するネオン管の光によって変化する。この ヴィブラート回路は、ギター信号の低い周波数成分 みに作用し、高い周波数は変化しない。
e)パワーアンプ
 ツイン・リバーブのパワーアンプは12AT7 よる位相反転、増幅回路と6L6GCによるパラ レル・プッシュプル増幅回路により構成されている。 この回路構成は真空管の数が少なく、ゲインも高 くとれるため真空管タイプのギター・アンプの大 半に使用されている。
 位相反転段は力ソード結合型位相反転回路で、 一種の差動増幅器として動作している。完全な差 動動作をしないため、2本の負荷抵抗を補正する ことにより平衡出力を取り出している。また増幅 度を高く設定できるため、電圧増幅段を省略して いる。
 出力段はBクラス・プッシュプル増幅器で、 6L6GCを4本用い、パラレル接続することで100 WRMSの出力を得ている。出力トランスは100W 出力ながら比較的小型のものである。ギターの周 波成分の下限は約80Hzで、低い周波数まで増す る必要がないため、前段でロー力ットを行ない、 出力トランスを小型化している。
図III‐62にツイン ・リバーブの全回路図を示す。

f)スピーカー部
ツイン・リバーブは、アンプ部とスピー力部が 一体となったビルドインタイプのアンプであるが、 そのキャビネットは写III-17に見られるように 後面開放型のエンクロージャーとなっている。 外形寸法は51×66×27cmで、30cm径のスピーカー を2本マウントするのにギリギリの寸法である。 図III-63はスピーカー部の無響室における周波数 特性である。800Hz付近から低い周波数に渡って なだらかな減衰特性を示している。これは後面 開放型エンクロージャーの特徴で、低い周波数ほど 後面から放射される音による打ち消しが起るためで ある。高域は2kHz付近に鋭いピークを持ち、音色 を特徴づけている。4kHzより高い周波数では 急激な減衰特性を示している。能率はかなり高く ピーク付近では、106dB/W/mで得られている。 図III-64、65は、ほぼ同じ形状のキャビネットを持つ アンプのスピーカー部の周波数特性である。 これらはすべて、800Hz以下の周波数では同様な 特性を示しており、低域の周波数特性はキャビネット 形状に依存している事が解る。


●マーシャル・モデル1959アンプ  アンプ部は、モデル1959、100Wリード・ユニット で、増幅素子は全て真空管で構成されている。74× ×29×21cmとかなり大型の木製キャビネットは 納められており、重量も23kgとかなり重い。1959は、スピーカー ボックス2段の上に積み重ねて使用するため、 コントロール・パネルは全面下部に設けられ、2系 統4個の入力端子、2系統のボリユーム、トレブ ル、ミドル、ベースのトーン・ボリューム、プレ ゼンス・コントロール、パワー・スイッチ、スタ ンバイ・スイッチ、パイロット・ランプが横一列 に並んでいる。  アンプ部のブロックダイヤグラムを図III-66に 示す。1959は大音量演奏を主体に設計されている ため、トーン回路は1系統に省略され、トレモロ、 リバーブなとのエフェクト機能も付属されていな い。入カ端子はノーマル・チャンネルとブライト チャンネルの2系統に分けられておリ、ノーマル・ チャンネルは通常の増幅作用を行ない、ブライト・ チャンネルでは高域の増強が行なわれる。各チャ ンネルともハイゲイン入力とローゲイン入力の2 端子を備えている点はツイン・リバーブ等と同じ で、標準的な構成である。入力信号は1段増幅さ れた後、直ちに各チャンネルのボリュームでレベ ル調整され、2チャンネルがミキシングされて、 2段目の入力となる。2段目の増幅段は力ソード・ フォロワーによるバッファ段を備え、負荷となる トーン回路や、ワイヤリングの影響を防いでいる。 トーン回路を通った信号はパワーアンプで電力増 幅される。パワーアンプではNFB回路を利用し て高域を増強するプレゼンス・コントロールが付 属している。出力回路には負荷インピーダンス切 換スイッチが装備され、広範囲のスピー力ーに対 応できるようになっている。以上のように1959は 全体的に簡略化された構成で、必要な機能をシン プルにまとめている。また、全体的に増幅度が大 きく設計され、がなり高感度なため、オーバード ライブも容易である。


a)入カ回路
 モデル1959の入力部は、管球式アンプの標準と もいえるもので、先に述べたツイン・リバーブの ものと同一である。入力端子Iはノーマル・チャ ンネル、IIはブライト・チャンネルで、それぞれ の上部端子はハイゲイン入力、下部端子はローゲ イン入力である。ローゲイン入力は抵抗分割によ るアッテネータを通り増幅部に入る。

b)プリアンプ部
 初段増幅はECC83/12AX7力ソード接地回路に よる1段増幅である。ブライト・チャンネルはカソード ・バイパス・コンデンサーを小容量とし、 電流帰還により低域での増幅度を低下させること で、等価的に高域をブーストしている。(図III‐67)。  初段増幅後、信号は各チャンネル・ボリューム でレベル調整される。ツイン・リバーブでは、各 チャンネルに独立したトーン回路があるが、1959 では2チャンネル共通となっておリ、2段目増幅 後コントロールされる。ボリューム・コントロー ルはブライト・チャンネル側が高域上昇特性を示 すようになっている。ブライト・チャンネルはツ イン・リバーブのブライト・スイッチに相当する 回路で、ボリュームの1-3端子間にコンデンサー を接続することにより、高域の減衰量を抑えて いる。ボリユームmaxではフラットであるが、絞 リ込むに従い高域上昇特性を示す。  さらに、ノーマル・チャンネルとのミキシング 回路においても、ブライト・チャンネル側のミキ シング抵抗にコンデンサーが並列接続されており 全体的に極度な高域増強が行なわれている。ノー マル・チャンネルは、やや高域減衰特性を示し、 両入力チャンネル間の周波数特性は大幅に異なっ ている。


c)電圧増幅段
 合成された信号は、さらに1段増幅される。カ ソード電流帰還をかけ、増幅度を20dB程度にして いて、次段のカソード・フォロワーによるバッ ファーと直結されトーン回路をドライブしている。 この部分では、インピーダンスを下げることにな り、ワイヤリングと高域で容量性負荷となるトー ン回路の影響を防いでいる。

d)トーン・コントロール回路
 トーン回路はハイ、ミッド、ローの3ポジション のコントロールからなる。回路構成はツインリバーブ のものとほとんと同じであり、ミッドレンジのボリューム の使用法が異なるたけである。 回路定数はツイン・リバーブのものよリややハイ インピーダンスに設定されており、高域の時定数 もやや大きいが、動作はほぽ同様である。

e)パワーアンプ部
 パワーアンプ部はECC83/12AX7とEL34/6C7 で構成されている。電圧増幅、位相反転段は ECC83/12AX7による力ソード結合型で、かなり 増幅l度を高く設計されている。電力増幅段はEL34/6CA7 によるパラレル・プッシュプル回路で、 EL34L6GCやKT88/6550等のビーム出力管と違い 5極出力管であるEL34/6CA7を使用している が特徴であり、電原電圧も500Vと高く設定され ている。
 NFBはアウトプット・トランスの2次側から 位相反転段にかけられている。NFB回路に高域 減衰特性をもたせることにより高域でのフィード バック量を減らせば、アンプの周波数特牲は高域 が上昇する。マーシャル・アンプの特徴となって いるプレゼンス・コントロール回路は、この高域 でのフィード・バック量を変化させることにより 高音を強調している。

f)出カ回路
モデル1959の出力端子は4個あり、並列接続されている。 出力回路には負荷インピーダンス切換スイッチがあり、 4個の出力端子につながれたスピーカーの合成インピー ダンスに合わせられるようになっている。インピーダンス 切換えは4、8、16Ωの3段切換えである。出力端子の多いこと、 負荷インピーダンスの適応性が広いことは、セパレート・タイプ のアンプとして重要な事である。
 ユニット3を構成するスピーカー・ボックス1960と1960Bは、 それぞれ16Ωのインピーダンスを持っていて、通常の使用では トータル・インピーダンスを8Ωとして使うようになっている。
1959の回路図を図III-68に示す。回路は全体に低域をカットし、 高域をブーストした周波数特性を持ち、 特にブライト・チャンネルでは、著しい。これは、 ギターの特性を補う事ももちろんであるが、 後に述べるスピーカーの特性も考慮されているためである。


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