■医療情報を患者と専門家が適切に共有する… 世界の趨勢 豊島義博(第一生命保険相互会社・日比谷診療所主任診療医長) 1 コクラン共同計画 コクラン共同計画(The Cochran Collaboration)は、1992年にイギリスの国民保健サービス(National Health Service: NHSと略す、日本の厚労省と社保庁を合体したような組織)の事業として始まりました。故アーチボルト・コクラン(内科医)の、臨床試験で確かめられた治療法を患者に提供したいと願い続けた意思を継いでいます。彼は、第二次世界大戦中より、当時は正しいと信じられた治療で目の前の患者が悪化し死亡することを体験していました。以後、彼は臨床試験を重視して診療を行うことを提唱しつづけたのです。現在の歯科診療でもそうですが、きちんとした臨床試験の成果が無いのに治療法として行われていることは多いのです。臨床試験の成果を医療に生かそうというコクランの思想は多くの賛同を得、コクラン共同計画として結実しました。現在、世界的に協力体制が組まれ、治療、予防に関して効果を確認していくプロジェクトとなっています。具体的には、世界中のランダム化比較試験(randomized controlled trial: RCT)を中心に、臨床試験(clinical trial)を集めてデータベース化し、更にシステマティック・レビュー(sytematic review; 臨床試験の質を評価し、結果を統合して再現性、客観性の高いレビュー作る)を作成しています。これが、コクラン・レビューです。 コクラン・コラボレーション
コクラン・ライブラリー
各専門医学領域で、作成グループが作られています。歯科関係はOral Health Groupが担当しています。
http://www.ohg.cochrane.org/
Oral Health Groupには全てのレビューのアブストラクト(要約)の他に、現在取り組まれているタイトルや、今後予定されているものも公開されています。 CCNET(コクラン・コンシューマーネット)
2 「コクラン・レビュー」の日本語訳(歯科関係) 4月1日より「Minds」(http://minds.jcqhc.or.jp/ 日本医療機能評価機構が運用)に口腔保健に関するコクラン・レビュー80編のAbstract(要約)の和訳が公開されました。コクラン・ライブラリーの版権を保有するWILEY社は日本語の版権を全てMindsに委託しています。 コクラン・オーラルヘルス・レビューを継続して翻訳していこうというボランティアグループ、Japanese Collaboration for Oral Health Review(JCOHR:ジェイ・コール)により翻訳作業が完了し、Mindsに掲載されました。 「Minds」は日本の診療ガイドラインを集めて公開する計画で、日本医療機能評価機構が運営しています。残念ながら、ガイドライン収集の基準が不明瞭であり、歯科に関しては収集が遅れているのが現状です。
コクラン・レビューへのアクセスの手順を以下に示します。 (1)「Minds」を開く(http://minds.jcqhc.or.jp/)。 80のレビューの概要(abstract)の和訳を読むことができます。 3 こう使おう コクラン・レビュー ともすれば、こういうレビュー(総説)は結論だけを見て利用しがちです。しかし、多くの臨床課題にはいつも適切な研究があるわけではなく、曖昧な結論しか出せない場合が多いのです。ですので、各臨床課題について、主な結果に書かれた論文数がどれくらいあるのか、結論が曖昧になっている理由は何故か、などを見ながら利用して欲しいと思います。コクラン・レビューでは「小児う蝕予防のためのフッ化物洗口」などのように、対象者の年齢や、フッ化物の使用方法などが細かく分けられて評価されています。小児で効果的なら、大人でも効くというものではありません。小児を対象とした臨床研究の成果は、小児には使えますが、大人には使えるか不明です。同じことは、疾患の重症度についても言えます。年齢、性別、重症度、治療期間など細かなことを意識して読んでいただくと、コクラン・レビューの利用価値が高まると思います。 Copyright © The Japan Health Care Dental Association. ALL RIGHTS RESERVED. |