TSUBAME2.0 は、2006 年 4 月に我が国最速のスパコ ンとして稼働し 4 年以上に渡って本学および国内外の産学官の種々の研究開発を支えてきた TSUBAME1.0 の後継機種。本学の学術国際情報センター(GSIC)が中心となって TSUBAME1.0 をベースに高性能科学技術計算(HPC)のシステム構築研究を進め、その成果をもとに国内外のコンピュータメーカーと 2 年近く共同開発してきた。
具体的な構築について、共同開発各社の中で NEC・HP 連合が政府調達による入札で 25 日に落札した。その理論最高性能は 2.4 ペタフロップス(1 秒間に 2400 兆回の浮動小数演算 が可能)と世界最高レベルであり、TSUBAME1.0 に比べ 30 倍、我が国で現在最高速の独立行政法人 日本原子力研究開発機構の新スーパーコンピュータシステム比で約 12 倍の性能 を誇る。
TSUBAME2.0 は GPGPU、大容量 SSD、クラウド仮想化など数多くの最先端技術を採用 している。そのため世界のスパコンランキングの指標として用いられるThe Top 500でトップクラスのランキング性能を得る見通しである。それだけでなく最先端スパコンとしてより重要な DARPA HPC Challenge ベンチマーク、大規模スパコンの省電力性能の世界ランク(The Green 500)、およびスパコンを用いた実用的な科学技術計算で最も優れた性能を達成したグループに与えられる ACM Gordon Bell 賞などにおいて、世界一を目指す予定で ある。
また、この膨大な計算パワーを少数の限られたユーザだけでなく、東工大の学生教育から先端研究まで広く提供する計画。TSUBAME1.0 で培われた「みんなのスパコン」の精神をさらに推し進め、我が国のリーディングスパコンセンターとして国内外の産学官の多くのユーザに世界有数のスパコン設備を提供し、科学技術の推進に邁進する所存である。
TSUBAME2.0 は次のような最先端のスーパーコンピュータ技術を備えている。
TSUBAME2.0 の技術的詳細に関しては、6 月 16 日(水) 午前 11:00 より東工大学術国際情報センター情報棟・2F 大会議室において記者会見を催す予定です。
Tokyo-tech Supercomputer and UBiquitously Accessible Mass-storage Environment の略
高性能科学技術計算、つまりスーパーコンピューティングの一般名称
フロップスは一秒間で何回浮動小数点の演算ができるか、という性能指標で、ギガ(10 の 9 乗)、テラ(10 の 12 乗)、ペタ(10 の 15 乗)など。これ以上は 絶対に出ないという「理論値」と、実際にアプリケーションを動かして得られ変動する「実測値」があり、常に理論値>実測値である。2009 年 11 月に理論値・および Top500 ベンチマークの実測値が共に世界一なのは米国 Oak Ridge(オークリッジ)国立研究所にある Cray Jaguar システム(理論値/実測値 = 2.33/1.76 ペタフロップス)。
データの演算処理を行うときに、一つ一つ個別に行うのがスカラ演算、幾つかのデータをまとめて(ベクトル)一度に演算するのがベクトル演算。一見後者が有利そうだが、まとめて演算出来ない場合や、データ供給が間に合わない場合はかえって 性能ロスにつながる。
大規模な計算資源を多様な形で、ユーザのニーズに応じて即時に提供する技術。仮想化により、複数の OS(Linux、Windows 等)を動作させたりすることが可能。
本来はコンピュータグラフィックス専門のプロセッサだったが、グラフィックス処理が複雑化するにつれ性能および汎用性を増し、現在では実質的には HPC 用の汎用ベクトル演算プロセッサに進化している。 TSUBAME2.0 で用いるのは米国 NVIDIA 社製 Tesla M2050 で、一台あたり 515 ギガフロップス。
コンピュータにおいて命令を受けて演算処理を行う単位・それを CPU と呼ぶ 流儀もあるが、近年は一つの CPU の中に複数のコアを内包する「マルチコア」が普及してきたので、一つの VLSI チップ単位を「CPU」や「ソケット」とし、中のそれぞれのコアを「コア」あるいは「CPU コア」と区別する場合が多い。
現在のスパコンは並列機で、多数の計算ノードをネットワークで相互接続するが、全ての計算ノードが全力で通信した時にシステム全体で達成しうる通信性能の下限をいう。「フルバイセクション」ネットワークの場合は、 どういう通信をしても下限が一定、つまり、特定の通信パターンで通信性能が大幅に下がることがないが、構築コストが高く、一部のスパコンでしか使われない。
スパコン等で用いられる 高速ネットワークの規格。一本あたり、パソコンで用いられるギガビットネットワークの 40 倍の毎秒 40 ギガビットの性能があり、TSUBAME2.0 ではノードあたり二本ずつ用いて、 かつ上記のフルバイセクションネットワークを形成するためのネットワークスイッチ群に接続される。
フラッシュメモリを用い、ハードディスクのように可動部品のない記憶装置。ハイエンドなモデルは高額だが、I/O 性能がハードディスクと比較して大幅に向上するので、大規模データベースやスパコンでの利用が注目されている。
データセンターやサーバ室のエネルギー効率を示す指標の 1 つで、(冷却等を含めたセンター全体の消費電力/マシン自身の消費電力)である。多くのスパコンセンターやデータセンターは PUE が 1.7~2.0 で、グリーン化の障壁となっている。
それぞれ実測値のフロップス等の性能指標でスパコンの世界的ランキングを行う公的なリスト。
もっとも有名なリストで、通常「スパコン世界一・ 日本一」と評するのは、上記の理論値ではなく、Top500 で用いられる Linpack というベンチマークの実測値によるランキング。年 2 回(6 月と 11 月)に、それぞれ欧州の International Supercomputing Conference と、米国の IEEE/ACM Supercomputing Conference にて発表される。
http://www.top500.org
Top500の性能指標は一面的だという批判 を受け、より総合的にスパコンの性能指標を判断するリスト。科学技術アプリケーションの代表的な「性質」に合わせて、幾つかのベンチマークがある。技術的には正しいが、複数のランキングができるので、プロ向けの指標と言われている。
http://icl.cs.utk.edu/hpcc/
グリーン化の潮流を受けて、スパコンのエネルギー効率をランキングするリスト。Top500 のマシンの(性能値/消費電力)をランキ ングする。IBM の省電力型スパコンの Blue Gene が近年リストを独占してきた。一方我が国のスパコンはこのリストではどれも下位に沈んでいる。
http://www.green500.org/
スパコンの実際のアプリケーショ ンの性能で画期的な成果を出したものに毎年与えられる賞。主催は計算機の国際学会の ACM だが、毎年 IEEE/ACM Supercomputing で賞が授与される。最高性能など幾つか部門がある;昨年は長崎大がコストパフォーマンス賞を受賞した。我が国で過去に 性能賞を受賞したのは地球シミュレータと天文台・東大のGRAPE 上のアプリケーシ ョン。
http://awards.acm.org/bell/
東京工業大学 学術国際情報センター 研究・教育基盤部門 問題解決支援環境分野 教授 松岡聡 E-mail: matsu(@)is.titech.ac.jp TEL: 03-5734-3881 FAX: 03-5734-3881