まさかの漫画雑誌の付録に「ロボット掃除機」が付いて、それにはなんと落下防止センサーまで付いているなんて…。そんなにわかには信じられないことが2017年3月3日に起こりました。
この日発売された小学館の『ちゃお』に付録していたロボット掃除機「ぷりちぃお掃除ロボCH-01」はどんな性能なのか? そして買うべきものなのか?をレビューしていきましょう。
まさかロボット掃除機が付録する時代になるとはねぇ
数年前から雑誌の付録にはプレミアム化の傾向が見られます。たとえば、女性誌では化粧品やポーチが付属。デジタル誌では格安SIMが付属するなんてものもありましたよね。
僕らが子どもの頃は雑誌の付録というと、本当に小さな玩具や紙や木でできた工作程度しかありませんでしたが、2001年ごろから業界の自主基準が見直されたため、さまざまな付録をつけられるようになりました。また、2007年には景品表示法が改正、付録として付けられる金額も引き上げられ、1,000円未満の商品に対しては200円までの景品類を用意できます。
そんな付録類の中には電池やバッテリーで動くものもありますが、今回はそれらとはわけが違います。ずばり「家電」、ロボット掃除機です。2017年4月号の『ちゃお』では、連載中の『プリプリちぃちゃん!!』のアニメ化を記念して、付録史上初となる自走式のロボット掃除機「ぷりちぃお掃除ロボCH-01」が付録されたのです。
子どもでも組み立てられるサイズでもお掃除ロボットは作れる
『ちゃお』とほぼおなじ大きさの付録となり、ボックスを開けるとお掃除ロボットが分解された状態で格納されています。組み立てはドライバー不要で、必要なパーツをはめ込んでいくだけです。『ちゃお』読者でも簡単に組み立てることができます。それにしても電子機器は一切無いという、ここまで完璧なダウンサイジング、構造の簡略化は今まで見たことがありません。
こちらが吸引力を生み出すモーターファン。モーターはミニ四駆でよく見かけるアレ、電源は単4電池2本です。
組み立てるとこのようになります。モーターはうまい具合に「ちぃちゃん」が隠しています。デザインとしても非常に良くできていて可愛らしいですね。なお、前面の「足」部が落下防止センサー。
付録のロボット掃除機の構造には驚くばかり
「ぷりちぃお掃除ロボCH-01」はあくまでも卓上掃除機で、吸引できるものは「消しゴムのカス」サイズまでとなります。まずは実際にお掃除する様子をどうぞ。
平面での走行性能に関しては非常に高く、思った以上にキビキビと走行することに驚きます。一般的なサイズの学習机でスタートしたとするならば、ちょこまかと走り回る姿に子どもたちは大いに喜ぶに違いありません。
落下防止センサーも完璧に動作します。前面のツメ部が段差で沈み込むと方向転換し、机から落ちることはありませんでした。また、ツメ部に衝撃が加わることでも方向転換します。信じられませんが、このような動作をギアの切り替えだけで行なっているのです。
前面のツメ、あえてセンサーと呼びましょう。センサーの両面の高さがつり合っている時は前進用ギアに入ります。これが段差などでセンサーの高さが釣り合わなくなると、ギアがスライドして左車輪だけがバックギアに入ることで方向転換をしているのです。
ロボット掃除機各社がさまざまなセンサー類を苦労して開発している中、こんなにもシンプルかつアナログな方法で落下防止機能と転回機能を搭載したその発想力に、ただただ驚きます。この走りを見たいがためだけで580円で『ちゃお』を買うだけの価値はあるのかもしれません。
ただしゴミの集塵性能は芳しくありません。
推奨される使い方に習い、消しゴムのカスを用意したのですが、一度通っただけではかなりの吸い残しがあります。その後2度3度消しカスの上を追加するも、全てを吸い上げることはできませんでした。
メンテナンス性、すなわちゴミ捨ての構造もよくありません。ゴミは本体底部の吸い込み口パネルに貯まるのですが、吸引口とダストボックスが一緒になった構造はどうしてもゴミがたまると吸引力の低下に繋がります。また、ここにたまったゴミを払い落とすのが大変なのです。
中にある不織布フィルターに消しカスやホコリが詰まってしまい、その部分はおそらくもう二度とキレイにすることはできないでしょう。長く使いたいのであれば、フィルター自作も視野に入れる必要があります。また、長期利用を想定するとバッテリーの劣化なども気になりますが、こちらは単4電池2本で駆動するため心配は不要ですね。エネループなどの充電池が利用できるため非常にエコなシステムです。
付録のロボット掃除機が、世界(我が家)に挑む
推奨とされる利用環境は卓上です。そのため、「ぷりちぃお掃除ロボCH-01」は一般的なロボット掃除機のようにフローリングや絨毯といった床面のお掃除を想定していません。しかし、できないというわけではないのだろう? と和室に設置してみました。
すごいオープンワールド感。広がる草原(絨毯)、彼方にそびえる山々(ソファ)、謎の建造物(空気清浄機)。ちぃちゃんにはこれからどんな冒険が待ち構えているのでしょうか!?
と、スイッチをONにしたところ、絨毯では一切前進できませんでした。そこまで毛足の長いものではありませんが、どうやら左右のセンサーの並行が取れていないのが原因のようです。
段差乗り越え能力は絶望的です。このような1cmに満たない絨毯を乗り越えられないのは当然。わずか1〜2ミリの段差でも引っかかって動けなくなってしまいました。卓上、それもキレイに整理された卓上が必要です。「ぷりちぃお掃除ロボCH-01」を効率よく動作させるには、まず勉強が終わったら机の上の物を全て片付け、障害となるものは一段上に起き直し、一切物が無い状態にしてからスイッチをオンにしましょう。それが効率の良いお掃除の方法です。
効率なんて投げ捨てれば良いんです
「ぷりちぃお掃除ロボCH-01」性能面としては必要最低限。いや、「お掃除」「ロボット」という2つの必要最低限を満たしていないのかもしれませんが、ただお掃除ロボットらしいことをしてくれるものであることは違いありません。
近年のお掃除ロボットは、非常に複雑な構造になっています。さまざまなセンサー類が搭載され、AIで動いたりカメラで空間を認識してマッピングするSLAM機能搭載機種も増えてきました。しかし、とことんシンプルにしようと思えば、ロボット掃除機はこんなにもシンプルにできるのだ。という事実に本当に驚かされます。
さて、では実際利用してみてどうかというと、一般的なロボット掃除機が便利なシーンは「自分は他の作業をしている間に掃除をしてくれる」という点にあります。自動オフ機能の無い「ぷりちぃお掃除ロボCH-01」この条件は満たせず、お掃除する様をずーっと眺め続けておく必要があるのです。スイッチを入れて食事をする、リビングでテレビを見る、『ちゃお』を読む。という他の時間に消費するとしても、左転回しかできない構造と、集塵効率の悪さにより戻ってみても机の上はキレイになりきれていないということもあるでしょう。
ぶっちゃけ言うとですね、消しゴムのカスのゴミを捨てるなんて…
これのほうが早いに決まっているわけです。ではこの「ぷりちぃお掃除ロボCH-01」は失敗作なのか?というと、答えはNO。おわかりかと思いますが、そもそも実用性とかいうステージに挑んではいないのです。
これは付録です。なにを付け、なにを録しているのかというと、実用性は二の次で「夢」や「憧れ」や「プレミアム感」を付録しているのです。近年の女児の憧れがロボット掃除機にあるのかどうかは僕には知りえませんが、「なんとロボット掃除機で机の上をお掃除できちゃう!」というワクワクした感覚は子どもたちにとって代替品の無いものなのではないでしょうか。
そういう意味では、おそらく世界で初めて「ロボット掃除機」という家電を付録に付けたことには、非常に大きな価値がありますし、今後こういった家電ジャンルの製品がミニマライズされて付録として登場し、気がつけばコンパクトサイズの住環境が再現できるようになるのかもしれないといった期待感さえあります。
買うべきか買わないかで言うなれば、大人が列をなして買い求めるものではありませんが、『ちゃお』世代なお子さんがいらっしゃる家庭であれば4月号は買っておくことをおすすめします。
子どもが飽きたら、ハイパーダッシュモーターに載せ替えた魔改造…。いや、遊びのクリエイトも面白いかもしれませんね(自己責任で)。
all images: 小暮ひさのり
source: ちゃお
(小暮ひさのり)