その昔、機械工学の修士とった僕が、ガラスの靴の謎解きをしてみようと思います。
シンデレラの靴の形とサイズは知りようもないことですが、大体こんなところを想像するんじゃないでしょうか。
まず最初に考えなきゃならないのは、機械不良です。僕らが何か設計する時には必ず、かかる力に耐えられるものを設計します。力がかかるシナリオを何通りも想定し、そのすべてに耐えるものをデザインするわけです。
ハイヒールの場合、シンデレラの体重でかかる圧縮応力で割れるシナリオがまず考えられますが、果たしてそれは起こるのか?
シンデレラは、たぶん50 kgはしなかったんじゃないかと思うので、50kgが靴全体に均等にかかるとしましょう。Yehong Zhuさんがコメントで指摘しているように、つま先はかかとの3倍近く圧力がかかりますが、ここでは関係ありません。
靴のサイズを大雑把に見積もって出した、足の面積は大体こう。
体重50 kgsがこの全体に均等にかかるとすると、 素材内部に生まれる圧縮応力はこうです。
圧縮応力で普通のガラスに生まれる降伏力は約50 MPaで、シンデレラの体重で生まれる力より3桁大きいので…どんなガラスでも体重には耐えられるという結論になります。体重で生まれる力はとても微小なので、靴にかかる力が均等でなくても関係ありません。
ただ、シンデレラは歩きますよね。歩く時には体が斜めになって、いちいちかかとに力がかかりますから、これも考えなきゃならないシナリオです。
たとえばヒールの直径が2cm、高さ6cmとすると、こんな円形断面のカンチレバーみたいなものに図式化できます。
ちょっと今読みかけの本があるので、曲げ応力の最大値の計算ではここの計算ツールを使うことにしますね。
歩行するときの足の角度が30°だとすると、かかとに通常の方向からかかる体重は全体重のたったの半分(500sin 30)です。曲がる力は250N。残りの数値を含めて考えると、かかとが耐えうる曲がる力の最大値は19 MPaとなり、壊れるギリギリ近くなります。かかとを太くしても、足の角度を小さくしても、これではあまりにも危険。
安全確保の観点からは、最低でも75 MPaまでの曲げに耐えるようにしなければならず、それを倍掛けすると、ガラスの強度は最低でも150 MPa欲しいところです。
となると、素材は安全ガラス(熱強化ガラス)が理想ということになります。強度が200 MPa以上あるので、王子様と踊っても平気です。欲を言えばガラスに何か混ぜ込んで脆さを補強するのが理想ですが、あんまりそれやっちゃうとガラスと違う何かになって本題から逸れてしまいますからね。
走るシーンは?
Steve Davisさんが指摘しているように、真夜中に城から駆け出すところも考えなきゃなりません。
シンデレラが走ってる時には普通に歩いてる時の3-5倍の圧力が足にかかります(論文より)。それにも耐えられる靴じゃないと。
ただ、シンデレラはドレスがドレスなのであんまり大股では走れません。つまり足の角度は安全圏のままなので、ここでもやっぱり割れないという結論になります。
それに普段からつま先で着地するよう所作が身についてると思うんですね。長距離はムリでも、舞踏会の間ぐらいは言いつけを守るんじゃないでしょうか。
「ガラスじゃあツルンツルンで、転んで割れてしまうんじゃないか」(Bharat Jakatiさん)という疑問点もありますが、当時の床は石か絨毯。石とガラスとの摩擦力は約0.42です。あんまり高くないですが、転ばない程度には摩擦力あります。絨毯は計算してませんが、大差ないと思いますよ。
シンデレラの靴は原作では毛皮だったのに誤訳か何かでガラスになってしまった、という説もありますけど、それじゃ面白くもなんともないですもんね。
Image: Shutterstock/MR Shining
*本稿はQuoraに初出の回答に若干の修正を加えて再掲しました。
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Antariksh Bothale - Quora - Gizmodo US[原文]
(satomi)