そもそも車って。
グーグルが完全自走車のプロトタイプを発表しました。これでいつか交通事故がなくなるかも!人間は運転の作業から解放されるかも!と夢はふくらみますが、米Gizmodoの兄弟サイト、Indefinitely Wildのウェス・サイラー記者は、そんな夢に疑問を呈しています。以下、サイラー記者どうぞ。
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自走車って、夢みたいですよね。欲しくならない人がいるんでしょうか? でもグーグルが目指すところを知ると、そんなに良いアイデアとも思えなくなります。理由はこうです。
グーグルが自走車を作ったのは、ある大きな理由のためだと言います。それは、安全性です。車の運転に関わるチェーンから「人間」という一番低性能なリンクを取り除くことで、道路の安全性を劇的に向上できるとグーグルは信じているのです。
兄弟サイトJalopnikのエディター、デモン・ラヴリンクは希望を込めてこう書いています。「米国では毎年交通事故による死者が3万3,000人いる。グーグルがこれを減らせるとしても最初は全体の0.01%程度かもしれない。でも20年後にはもっと普及しているとすれば…」
交通事故原因について非常に深く分析した米国の1979年の論文によれば、「人間のミスや無能さ」が交通事故原因の90%を占めています。英国で行われた研究でも「交通事故原因の88~89%が人為的ミス」とされているので、米国人だけが無能なわけじゃないと考えられます。結論は明らかで、道路においては、人間こそ人間の敵なのです。
今月、グーグルの自走車プロジェクトリーダーのクリストファー・アームソン氏が、プロジェクトのゴールについて個人的な考えを明かしました。ニューヨーク・タイムズの取材に対し、彼は自分の息子が16歳(米国の多くの州で運転が許可される年齢)になる2019年までに、自走車を販売できればと語ったんです。
でもアームソン氏が息子の安全を考えるなら、そもそも車に乗らないのが一番です。そうすれば、彼の車の周りにいあわせるであろう歩行者とか自転車などなどの人も安全でいられます。車とは根本的に危険なもので、それは自走車にはどうしようもない問題なんです。これこそ、自走車が失敗するであろう理由です。
グーグルはこのプロジェクトに関し、投資した累積金額とか今後の見通しを明らかにしていません。でもJalopnikデモンによれば、今回発表された10台ほどあるプロトタイプは、レクサスやアウディ、トヨタの既存の自動車をレトロフィットしたもので、それぞれ「25万~30万ドル(約2,500万~3,000万円)相当の設備」を搭載しています。つまり車だけで見ても最低250万ドル(約2億5,000万円)の価値がそこにあって、コンシューマー向けに発売されるまでにはこれからも数千万ドル、数億ドル単位のお金が投じられるのでしょう。
それだけのお金があれば、公共交通機関に大きな投資ができます。電車やバスといった公共交通機関は、自動車よりはるかに安全です。
米国で毎年3万3,000人が交通事故でなくなっていて、そのうち90%が人為的ミスによるものだと考えると、残りは3,300人です。なのでもしすべての人が自走車を買って、それらに何の欠陥もなく、誰もその前を横切って歩いたり、自転車がぶつかったりすることがなかったとしても、年間3,300人くらいはやはり亡くなってしまうんです。
一方、電車事故の死亡者数は年間106人です。しかもそのうち18人は、線路と道路が交差するところで起きた事故による死者でした。バスの事故による死亡者数は54人です。つまりグーグルの自走車がすべての人為的ミスを絶滅させたとしても、自動車による死者数は電車とかバスによる死者数よりもまだはるかに多いんです。数字で見ると、自動車に乗ること自体、公共交通機関に乗るよりもずっと危険なんです。たとえそれが、グーグルの自走車であっても。
グーグルの自走車は、すべての事故をなくせるわけではありません。メディアではその安全性を伝えていますが、すべての交通事故が人間のミスによるものでもありません。「ドライバー」と「人間」が違うことにも注意が必要です。どんなに高性能の自走車だって、歩行者を道路からどけることはできないし、周りの状況からの連鎖事故にも対処できません。車が歩行者を認識できて、人間と同じようによけようとしても、歩行者の飛び出しを防ぐことはできません。車のドアを開けずにいることはできないので、それをよけた自転車は他の車が通るレーンに寄らざるを得ません。混みあった道に、ボールを追いかけた子供が出てくるのを防ぐこともできません。
でももし、そもそも道が混んでいなかったらどうでしょう? 子供が道路に出られなかったらどうなんでしょう? 自転車と自動車が、同じ道を走らなくてもよかったら? その点については別途進んでいる研究があります。歩行者や自転車の死亡者を減らしたり、なくしたりするのに一番良い方法は、歩行者や自転車と車の道を分けること、または車自体をなくしてしまうことです。
排出量ゼロ、全電気で動く自走車といっても、米国で一番緊急の交通問題には対応していません。それは、道が混みすぎてることです。自走車がいたってただ車が増えるだけで、減りはしません。でもこの問題だって、公共交通機関を使うことで街の中心から車を排除することで解決できるはずです。車がないところでは、ひかれる心配もありません。
僕は今、サンフランシスコのベイブリッジがドライバーレスの自走車でいっぱいになるディストピアを思い描いています。そこではみんなスマートフォンをいじり、今までなら運転という作業に生産的に取り組んでたはずの時間をつぶすようになります。
もっと短期的なことを考えてみます。自走車を使ったって、たとえばグーグルが少々の税金を払っているマウンテンヴューから、彼らの社員が住みたがるサンフランシスコへの通勤には長時間かかります。サンフランシスコに着いてからも、駐車場を探すのが大変です。自走車1台あるだけでも車全体の流れを遅らせるし、他のドライバーにぶつけらたり、道路のへこみで傷を作ったり、パーキングチケットが必要だったりするのは従来の車と何ら変わりません。
クレイジーだと感じるのは、自走車なんかなくたってこんな問題は解決できるってことです。それはアームソン氏の息子さんを安全にするのと同じ技術、つまり公共交通機関です。それはすでに存在していて、安全性も折り紙つきだし、他の国も含めて広く普及しています。
今サンフランシスコ周辺エリアでは、既存の鉄道システムのBARTをシリコンバレーの南にまで延ばそうとしています。それはサンフランシスコ住人の便利な通勤手段となるはずですが、完成予定は2025年と10年以上先のことです。でもそこに、グーグルが自走車に投資する金額のほんのちょっとでも振り向けられたらどうなるでしょうか?
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以上サイラー記者でした。自動車自体に否定的な立場なのでかなりの極論ですし、米国じゃ電車・バスの利用者数と車の利用者数は全然違うだろうとか突っ込みたくなるポイントもあります。
でもたしかに、事故の可能性がゼロではないのに車を使ってるってことは、自覚しないうちに安全よりも利便性を優先してるってことなのかもしれません。安全性と利便性のトレードオフは交通手段に限らずいたるところにありますが、グーグルを始めとする自走車がそのトレードオフをどこまで小さくできるのか、これからも興味深く見て行きたいです。
Wes Siler-Gizmodo US[原文]
(miho)