新たなビジネスモデルは家庭用ゲームを変革するか!?
“基本プレイ料金無料+アイテム課金”、いわゆる“フリートゥプレイ”(以下、F2P)は、PCのオンラインゲームでは2000年代半ばごろから採用されていたスタイルだ。それがソーシャルゲームの隆盛によって一気に一般化し、最近では家庭用ゲーム機向けのタイトルや、ゲームファンに馴染み深い人気シリーズでも、F2Pスタイルを採用するケースが増加してきた。これは、近年のゲーム業界の変化を象徴するトピックのひとつと言える。
本稿では今年からサービスインした、“大型F2Pタイトル”の代表格とも言える『ファンタシースターオンライン2』(以下、『PSO2』)と『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』(以下、『バトルオペレーション』)の制作チームによる対談から、F2Pの可能性や、今後の課題などを探っていく。
※この記事は、週刊ファミ通2012年12月20日号(2012年12月6日発売)に掲載された記事に加筆したものです。
※このインタビューは、2012年11月末に収録したものです。
【ファンタシースターオンライン2】
【写真左】セガ プロデューサー 酒井智史氏
【写真右】セガ ディレクター 木村裕也氏
2012年7月4日よりPCでサービススタートした、オンラインRPGの元祖とも言える人気シリーズ作品の最新作。公式サイトからゲーム本体を無料でダウンロードして遊ぶことができる。
★公式サイト→【コチラ】
【おもな課金ポイント】
●プレミアムセット
マイルームやマイショップの使用権など、ゲームの利便性を上げる要素がセットになったもの。有効期間は30日単位で選択でき、月額課金に近い感覚で利用できる。必要な要素のみの購入も可能。
●スクラッチ
服などのアバターアイテムや、ゲーム内で使用できるアイテムなどが当たるくじ。
【最新情報】
2013年2月28日にサービス開始予定のPS Vita版は、2013年1月中旬から、参加者50000人規模のクローズドベータテストが実施される予定で、12月4日より参加者を募集中。PS VitaからPS Storeにアクセスすれば申し込むことができる。ベータテストをプレイしておくと、サービス開始時に多彩な特典がもらえるので、ぜひ参加しておこう。応募締切は2013年1月7日23時59分まで。サービス中のPC版では、12月に大型アップデートを実施。新たなボス"ダークファルス"が登場する各種クエストなどが実装されるほか、クリスマスイベントも実施される予定だ。
※PS Vita版ベータテストの詳細は→【コチラ】
※大型アップデート第2弾“闇の集いし場”の詳細は→【コチラ】
【機動戦士ガンダム バトルオペレーション】
【写真左】バンダイナムコゲームス プロデューサー 桑原顕氏
【写真右】B.B.スタジオ 制作プロデューサー 大野聡氏
2012年6月28日からサービスを開始した、PS3向けオンライン専用ガンダムバトルアクション。PlayStation Storeから無料でダウンロードして、プレイすることができる。
★公式サイト→【コチラ】
【おもな課金要素】
●出撃エネルギー
1回のプレイ(出撃)につき、1個のエネルギーを消費する。ただし出撃エネルギーは一定時間ごとに無料支給され、1日最大12回までは無料でプレイできる。
●MS、武器、パーツの強化制限解除
規定レベル以上に強化する際に必要。
●ブースト系カスタムパーツ
経験値などの報酬を増加させるアイテム。
【最新情報】
12月のアップデートでは、従来までは課金でしか入手できなかった一部の上位LV機体や兵装が、開発ポイントでも購入可能となる。また、モビルスーツのコストを制限してバトルができる"コスト制限"の設定が追加。従来以上に、機体性能差よりもプレイヤーのテクニックが重視される戦闘を楽しめるようになる。さらにリザルト画面で"与ダメージTOP"や"被ダメージ最小"などが表示され、個人の活躍度合いがより詳しく見られるように。新機体はブルーディスティニー2号機、ブルーディスティニー3号機が登場。そのほか多彩な新機能、改良が実施される予定だ。
間口を広げるためのチャレンジ……しかし正直、根拠はなかった!(笑)
――まず、それぞれのタイトルで、F2Pというスタイルを採用するに至った経緯を、改めて教えてください。
『バトルオペレーション』桑原 顕氏(以下、【G】桑原) ひとつは、間口を広げたいということです。ご存じのように、ガンダムのゲームはいろいろ出ていますが、ターゲットが固定化しているところがあって。もっとユーザーの間口を広げたいという思いが、非常に大きなポイントでした。
――ガンダムという巨大なIP(知的財産)での挑戦ということで、ゲームファンも驚きましたが、社内での反応はいかがでしたか?
【G】桑原 非常にインパクトがありましたね。すでに『ガンダムロワイヤル』や『ガンダムカードコレクション』といったF2Pモデルのサービスはありましたが、PS3というプラットフォームでは業界でも前例がなく、収益の見込みがまったく読めない点をどうするかということが最大のポイントでした。ですが、そこは社内のさまざまな方のお力を借り、慎重に検証や説明を重ね、最終的には弊社副社長の鵜之澤の決断と版元様のご理解をいただき、いまの形を実現することができました。
『バトルオペレーション』大野聡氏(以下、【G】大野) 企画を通すのが、まずもの凄く難度が高かったですよね。
【G】桑原 企画が通ったあとも「本当に大丈夫か?」というのは、ふたを開けるまで、社内でずっと心配され続けるような状況でした。
【G】大野 会社に計画を提出しようにも、根拠がない状態ですから、「本当にこの計画でいけるの?」と聞かれても、「大丈夫です」とはなかなか言えないという部分もあって。でも我々としては、PS3のハイエンドなF2Pのゲームを、一番乗りでやりたいという思いがあって、チャレンジしました。
――『PSO2』ではいかがでしたか?
『PSO2』酒井智史氏(以下、【P】酒井) やはり『バトルオペレーション』と同様に、間口を広げたいというのが、いちばんの狙いでした。『PSO』自体、日本でオンラインゲームを広めたいという目的で始まったタイトルですし、オンラインゲームに対する挑戦を続けてきたシリーズです。今回、その集大成として、新たに『PSO2』を立ち上げるにあたって、間口を広げるうえでも、今後オンラインゲームを広げていくためにも、こういうスタイルでやるのがよいのではないかと判断しました。
――『PSO』も非常に大きなIPですが、社内からの反対はなかったのですか?
【P】酒井 もちろんある程度はありましたが、F2Pがこれから主流になるのではないかということと、『PSO』というIPを広げていくためというところで、予想していた以上に理解が得られましたね。ただ、開発費を本当に回収できるのかなど、そういった面で心配されたというのはありました。
『PSO2』木村裕也氏(以下、【P】木村) 数字的な根拠がないという部分も、『バトルオペレーション』と同様でした。我々はずっとオンラインゲームをやってきて、月額課金タイトルも経験しているので、「これくらいなんじゃないか?」という大まかな予想はできますが、「本当のところどうなんだ?」となると……。「一般的なオンラインゲームだとこれくらい」といった数字など、できるだけいろいろな情報をかき集めて、予想の数字を作ってはみましたが、根拠はなかったですよね、正直(笑)。
【P】酒井 誰もやったことがないことをやろうとしているわけだから、根拠を示せと言われても、わかるわけがないじゃないですか(笑)。
順調にプレイヤーは増加中、そしてアップデートに追われる日々
――それでは、サービスがスタートして、現時点での状況はいかがですか?
【G】桑原 『バトルオペレーション』は、先日ユーザー数が70万人を突破して、おかげさまで、いまも毎日増えている状況です。運営については、リリース後に小さいものでは毎月2週間に1回程度、大型アップデートは計5回行っていて、12月の上旬には6回目の大型アップデートを実施する予定です。アップデートでは不具合を直すと同時に、新規の機体を追加したり、マップやルール、要素の追加などを行っています。今回のバージョンアップでも、新しい要素を追加して、楽しんでいただけるようにしたいと思っています。
【G】大野 おかげで毎月マスターアップ作業をするようなもので、とてもたいへんです(笑)。
【P】酒井 『PSO2』も、先日100万IDを突破して、現在は120万IDくらいになっています。アクティブユーザーは、マンスリーで約30万人で、フリートゥプレイのゲームとしてはかなり継続率はいいほうだと思います。アップデートごとにタイトルをつけて、月に2回くらいのペースで、ひとつのアップデートを2~3回くらいに分けて、毎月実施しています。
【P】木村 隔週で何らかのコンテンツが追加されるイメージですね。
【P】酒井 やはり、つねに、マスターアップし続けている状態です。まさに自転車操業状態ですよ(笑)。
【P】木村 本当はもっと余裕を持って開発していきたいんですけどね……結果的にそうなってしまっています(笑)。アップデートがないときでも、前週に実施したアップデートの不具合修正や、改善要望への対応などを実施しているので、何らかの形でバージョンを上げるという意味では、最近はほぼ毎週やっていますね。
「ゲーム性と切り離したからこそ」課金収入は計画通りに推移
――現時点で、プレイしているユーザー層をどのように分析されていますか?
【P】木村 『PSO2』でいちばん多いのは、20代後半から30代前半くらいの方ですね。つぎに10代後半から20代前半の大学生くらいの方で、つぎが30代後半です。F2Pにすることで10代の方が増えるかと思っていたのですが、まだ若い方はそれほど多くないです。
【P】酒井 現状、7~8割くらいは、『PSO』シリーズ経験者の方が占めている状態なので、まだまだ開拓できる余地はあると思います。
――PlayStation Vita版の発売日が2013年2月28日と発表されましたが、コンシューマ版を待っている人も多そうですね。
【P】酒井 そうですね。別の機種で出るというのは、新しく始めるすごくいいきっかけになると思います。そういう意味では、PCでやって、家庭用でも、スマホでもやる、というところで、いくつかの盛り上がりを作っていきたいと考えています。オンラインゲームを広げていくためにも、そのあたりの“ユーザーの融合”を目指している部分もありますので。
――融合と言いますと、具体的にはどういうことですか?
【P】酒井 オンラインゲームって、本当にユーザーが固定化しているんですよ。そこに、コンシューマでオンラインゲームをやりたいと思っている人が入ってくることで、新しい流れ、新しい“血”みたいなものが入ってくるのではないかと。そこで、固定化されている概念や“しきたり”のようなものを、崩してもらいたいと思っているんです。壊れていくことで新しいおもしろさが生まれると思いますし、それもオンラインゲームの楽しい要素だと思っています。
――なるほど。では、『バトルオペレーション』のユーザー層はいかがですか?
【G】桑原 『バトルオペレーション』でも、いちばん多いのは20代から30代の方です。つぎに多いのは、”ファーストガンダム世代”と言われる、30代後半から40代の方々。お子さんの持っているPS3だったり、メディアサーバー的に使うだけだったPS3で、たまたまバナーを見て、無料だからやってみた、という方が意外に多いんです。それもあって、比較的高年齢の方からの支持も大きいですね。
【G】大野 とくに、PCのオンラインゲームをあまりやったことがなかった、という方が多いですね。PS3なら、スペックも気にせず、みんな平等に遊べるという安心感があると。そういう意見は、けっこういただいています。
【G】桑原 とにかくPS3とネット環境があれば遊べるという、その敷居の低さは、非常に認識していただけていると思います。
【G】大野 ですから『PSO2』も、PS Vita版が発売されたら、そういう“PCを怖がっている層”がたくさん始めると思いますよ。
【P】酒井 それは確実にあると思います。僕らも間口を広げる意味で、いろいろなPCでできるような努力はしていて、普通のノートPCでも遊べるところまで落とし込んでいるんですが……それでもやっぱり、まだまだ敷居が高い部分はあるのかなと。
【P】木村 ダウンロードとか、インストールとかという時点で、もう……当然PS3でもあるのですが、意識するかしないかの違いがあるんですよね。
【P】酒井 そもそも用語がね。
【P】木村 「クライアントって何?」みたいなところからですよね(笑)。
【P】酒井 そういうところも気を使って、“ゲームクライアント”と言う言葉は使うな、という具合にやっているのですが、あまり置き変えると今度は詳しい人がわからなかったりと、なかなか難しいところはあると思います。家庭用ゲーム機ってスペックがひとつなので、それでやりやすいという部分はあるんですよね。
――間口を広げるとなると、そういう部分も難しいのですね。ではつきに、収益面でとくに貢献している要素について教えてください。
【G】桑原 『バトルオペレーション』では、おもに出撃エネルギーです。出撃エネルギーは、課金しなくても2時間で1個回復するので、無料で遊び続けることもできるのですが、無料でも継続してプレイしていただけていれば、将来的にどこかで課金していただける可能性がありますよね。この狙いは、いまのところうまくいっていると思います。
【P】木村 コアなユーザーの方は、どれくらい出撃するものなんですか?
【G】大野 本当にコアな人は、「ずっと出撃しているんじゃないか?」というくらいです(笑)。経験値がたまって階級が上がっていくのですが、その階級が上がる速度が、我々が想定していたよりも遥かに速いんですよ。とくに最初のころは、寝ていないか、複数の人数で回しているのか、ぐらいの感覚でしか考えられない速さでしたね。
【P】木村 24時間空いているゲームセンター感覚ですね(笑)。
――そういえば、ゲームセンターで遊び慣れている人ほど、違和感なく課金ができる、というお話はよく聞きますね。
【P】木村 F2Pはゲームセンターとすごく近いというのは言われていますよね。我々もコンシューマゲームを作ってきた人間なのですが、『PSO2』に関しては、コンシューマ部門のスタッフよりも、AM(アミューズメント用ゲーム)を手掛けているスタッフのほうが、話が合ったりするんですよ。AMではゲームスタートしてどれくらいでゲームが始まるか、何回決定ボタンを押すか、といった要素をすごく気にするのですが、我々も同じところを気にしないといけない。ましてや『バトルオペレーション』のように、出撃回数でインカムを得る、という感じのスタイルだと、まさにAMですよね。
――『バトルオペレーション』では、出撃エネルギー以外に、機体の限定解除や、ブースターなどの課金要素もありますが、そちらはいかがですか?
【G】大野 階級の高い人がだんだん増えてきて、ようやく最近になって利用され始めています。当初は誰もそこまでたどりついていなかったので、あまり需要がなかったんですよ。いまはそこが増えている段階ですが、これも柱のひとつであることは間違いないです。
――『PSO2』ではいかがですか?
【P】木村 メインは、スクラッチという、服などが当たるクジです。『PSO2』はキャラクタークリエイトが特徴的なゲームで、ユーザーさんのキャラクターへの愛着が強いので、服やアクセサリーなどアバター要素のニーズは高いですね。また、『PSO2』ではアイテムを集めるという遊びも柱となりますが、スクラッチには、アイテムを強化したり、特殊な能力をつけたりする際に使用する補助アイテムも入っていて、それを欲しがる人も多いです。もし自分は欲しくないものが出た場合でも、ユーザーさんが出店してトレードできる”マイショップ”によって流通するので、全体としてうまく機能しています。
【P】酒井 もうひとつはプレミアムセット。これは倉庫やマイルームなどの基本的な部分を機能的に広げるもので、ある意味、月額課金に近いサービスです。これによって底上げをしたうえに、スクラッチの収入、という形で、収益を上げています。
――そのあたりは、サービス開始前からの計画通りに推移しているのでしょうか?
【P】酒井 そうですね。ゲーム性の部分に課金をしないというのは当初からのポリシーでしたし、そのためにアバターで収益を、というのは計画通りです。アバターで課金してもらう仕組み自体は、『ファンタシースターユニバース』(以下、『PSU』)でもやっていましたし、ある程度予測はついていました。
【P】木村 『PSO2』もそうですが、『PSU』でも、服に能力を付与することはしなかったんですよ。ほかのタイトルですと、見た目プラスパラメーターの魅力でコスチュームを商品にするケースが多いですが、我々はそれをやらなかった。「コスチュームにパラメーターも付ければいいのに」といろいろな方に言われましたが(笑)。でもそこは逆で、やらなかったからこそ、成功したのだろうと考えています。そういえば『バトルオペレーション』も、ふつうに考えれば「MSをガチャで」となりそうですが、それがないですよね。
【G】桑原 たしかにユーザーさんが欲しいのは、やはりMSだと感じています。そこをガチャでというのも、ひとつのアイデアだとは思いますが、僕らはむしろそれをゲームサイクルの中に組み込んで、エネルギーなどの消費の活性を促そうと考えました。つまり「課金しなくても、遊んでいればいつかは必ず手に入る」という発想です。結果的に、それが受け入れられているのだと考えています。
★対談はいよいよ核心へ……
『PSO2』vs『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』 開発者が白熱対談! F2P最先端事情を激白【後編】に続きます!
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