木も草も、小さな花や虫も、おひさまのやわらかな陽射しのなかでうれしそうな春。
たんぽぽやシロツメクサの咲く草の中から、ぴょこんと顔を出したのは、かあさんうさぎ。
そしてつづいて小さな鼻をひくひくさせてあらわれたのは…かわいいこうさぎでした。
「かあさん、これが はるの におい?」
「そうよ、とっても いい においでしょう?」
こうさぎは、かあさんうさぎに優しく誘われて、春の野原へ踏み出します。
あっちへぴょん、こっちへぴょん。
おいしい葉っぱを探したり、のねずみやバッタと出会ったり。
土を掘ったり…ちょうちょを追いかけて高いところから落っこちたり!
さこももみさんが描く、春爛漫の景色の中、こうさぎが春のよろこびに浸る姿が心にひたひたと幸せをくれます。
危険なこともあるけれど、うさぎには強い牙も、するどい爪もないけれど…。
「うさぎで うれしい わたしたち
わたしは うさぎ うさぎは うさぎ」
野原や森での素敵な時間にさよならを告げて、おうちに帰るとき。
夕暮れの光の中を、うさぎのお母さんとこうさぎは走ります。
「うさぎは はしる はしる はしる
わたしは うさぎ うさぎは うさぎ」
うさぎの春の一日があざやかに描かれた絵本。
危険を避けて逃げこんだ暗い森の中、こうさぎのおびえた様子から、暗さに目と耳がだんだん慣れ、森に親しんでいく変化の場面も素敵です。
うさぎがうさぎであるよろこび、いのちが輝く一瞬、一瞬が描かれた、愛らしくもうつくしい絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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