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「人は宝」「企業は人こそすべて」――これに異を唱える経営者はいないだろう。しかし、ビジネス環境の急激な変化に際し、人材育成の仕組みは後れを取ったままである。いまこれから必要な人材を、どのように育成していくべきか。そのためにどのような仕組みを整えていくべきか。グローバル人材育成のエキスパート、シュロモ・ベンハーIMD教授に聞いた(全2回)。
いまなぜ、企業内学習が必要なのか
人材育成は今も昔も重要ですが、これまでと何が変わってきたのでしょうか。
ある調査でCEOに経営上の悩みを聞いたところ、その中の大きな一つに「人材をどのように見つけ、育て、活用していくか」が挙げられました。経営者がいくらグローバル化や成長、利益創出といった大きな目標を掲げても、その実現を担う高い能力を備えた人材がいなければ絵に描いた餅で終わってしまうからです。企業は物理的な資本というより「人間資本」から成り立っており、個人がどのように学んでいくか、組織がシステムとしてどのように学びを提供するかが、競争優位に極めて重要な影響を及ぼします。
少なくともこの10年、いわゆる欧米社会では、社内に人材がいなければ外部に取りに行けばいいと考えられてきました。その草刈り場となったのがアジアです。しかし、グローバル化の進展によってグローバル企業間の人材獲得競争が激しくなり、有能な人材がなかなか獲得できなくなってきました。
しかも、中国は一人っ子政策による高齢化が見込まれるにもかかわらず、中国国内における人材ニーズは極めて高い状態が続くため、もはや人材の輸出国にはなりえないでしょう。2030年まで人材の輸出国であり続けるのは、インドだけではないでしょうか。10億人という人口を抱え、大半の人が英語を操るなど教育水準が高く、しかも理系教育の質は目を見張るものがあり、世界が求めるニーズに応えられるからです。とはいえ、国内産業も育ってきており、多国籍企業が人材を引き抜くことは難しくなるでしょう。
また、外から人材をかき集めるやり方が、実は機能しないのではないかという疑念もあります。あるビジネススクールが行ったいくつかの調査では、ミドルマネジャーやさらに上級レベルの管理職が他社に転職してもなかなか成功しないという結果が出ています。転職先の企業文化に馴染むことや、新たなステークホルダーとの関係をバランスよく管理するのが並大抵のことではないからです。