ウイルス感染は朝が危険=英研究
ジェイムズ・ギャラガー ヘルス担当編集委員(BBCニュース)
ウイルスは朝に感染した方が危険――。英ケンブリッジ大学の研究者らによる調査でこんな結果が出た。
米国科学アカデミー紀要(PNAS)にこのほど掲載された研究論文によると、朝に感染したウイルスは増殖が10倍になったという。また、夜間シフト勤務や時差ボケが感染のリスクを高めることも分かった。
研究者らは調査結果について、感染症の世界的流行を効果的に防ぐ新たな方法を発見する助けになるかもしれないと指摘している。
ウイルスは細菌や寄生虫と違って、宿主の細胞の働きに頼る以外に増殖する手段を持たない。一方で細胞の活動は、体内時計が持つ約24時間の周期に沿って大きく変化する。
実験ではマウスを、インフルエンザかヘルペスのいずれかのウイルスに感染させた。その結果、朝に感染させたマウスの方、夜に感染させたマウスよりも、体内のウイルス水準が10倍高かった。
夜に感染した場合を工場に例えると、仕事を終えた従業員がみな帰った後に工場を乗っ取るようなものだという。
研究チームのアクヒレシュ・レディ教授はBBCの取材に対し、時間が大きな影響を及ぼすと述べた。「ウイルスは全ての仕組みが適切なタイミングで働くことを必要とする。そうでないと持続しない。しかし、朝の小さな感染は、持続的な状況に早く達し体を乗っ取ってしまう可能性がある」。
レディ教授はさらに、「感染症が大流行している時に、日中は家から出ないのが非常に重要で、人々の命を救える可能性がある。試験が裏付けられれば、大きな効果が出るかもしれない」と述べた。
研究では、動物の体内時計の周期を乱すことで、ウイルスが増殖しやすい状態が続くことが示された。
論文の筆頭著者レイチェル・エドガー教授は、「ある夜は働き、ある夜は休むといったシフト制で働く人々は、体内時計が乱されるためウイルス感染しやすくなると示唆される」とし、「もしそうなら、毎年のインフルエンザ・ワクチンを一番受けるべきかもしれない」と述べた。
研究ではインフルエンザとヘルペスの2種類のみを使っているが、インフルエンザがRNAウイルスなのに対し、ヘルペスはDNAウイルスで非常に異なるため、研究者らは、朝の感染リスクが幅広い種類のウイルスに当てはめることができるのではないかと考えている。
人間の体の働きを決める遺伝子のうち約10%は、体内時計の影響を受けて1日の間に活動を変化させる。
今回の研究では「Bmal1」と呼ばれる遺伝子に注目した。Bmal1は、マウスでも人間でも午後に一番活発になる。
レディ教授は、「Bmal1との連関が重要だ。早朝の活動水準が低い時に感染しやすくなるためだ」と述べた。
興味深いことに、人間のBmal1は冬に活動が鈍くなる。このため、冬の感染リスク拡大にも関係しているかもしれないと言われている。
感染しやすさに体内時計が関係しているという指摘は、これまでもあった。インフルエンザ・ワクチンは朝に注射した方が抗体を作りやすいという研究結果や、時差ボケにしたマラリア原虫の感染力が落ちたという研究成果が、以前にも報告されている。