◆(共著)「Should a Physician Withdraw Ventilation Support from a Patient with Respiratory Failure When the Patient Prefers not to Undergo a Tracheotomy?」
『Eubios Journal of Asian and International Bioethics』13号、2003年、147頁-151頁。
◇イギリスにおける『最善の利益』基準の展開
1.判例法とそれに対する学説
「イギリスの判例法は、成人の精神無能力者の医療上の処置のための基準を、『代行判断』基準に求めず、『最善の利益』基準を採用し、その基準の実質的判断をBolam testに求めてきた。Bolam testとは、医師が『医療上の見解をもつ責任ある集団(a responsible body of medical opinion)』がその当時受容していた慣行にしたがって行動したことを立証すれば免責されるBolam事件で示された治療および診断の過失の判断基準である。」170
→しかし、明確な定義・基準がないため、「エホバの証人」の輸血拒否、精神障害者の不妊手術、PVS(植物状態)患者の生命維持処置の打ち切り、臓器移植の判例でばらばらの判例が示される。170
2.法律委員会報告書231号「精神無能力」
「・・・『最善の利益』基準に基づく判断において、代行意思決定者等が考慮すべき4要素を提示し、法律草案の形で『最善の
利益』基準を初めて明確化した。・・・4要素とは、第1に、本人の過去と現在の希望・感情・もし能力があったら考慮したであろう要素、第2に、本人の参加の促進、参加能力を向上させる必要性、第3に、本人にとっての『最善の利益』について相談すべき他者の見解、第4に、ある行為または決定が、本人にとって最も制限的でない選択(the least restrictive option)により達成されるか、という要素である。」171
→第3の相談すべき他者として、@本人に指名された者、A配偶者、友人等ケアに参加する者、B本人より継続的代理権を授与された者、C裁判所に任命されたマネージャー