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『ニーズ中心の福祉社会へ――当事者主権の次世代福祉戦略』

上野 千鶴子・中西 正司 編 20081001 医学書院,296p.
[Korean]


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■2009/01/20 書評セッション 於:東京大学(本郷)

上野 千鶴子中西 正司 編 20081001 『ニーズ中心の福祉社会へ――当事者主権の次世代福祉戦略』,医学書院,296p. ISBN-10: 4260006436 ISBN-13: 9784260006439 2310 [amazon][kinokuniya] ※ a02 a06 d00

『ニーズ中心の福祉社会へ――当事者主権の次世代福祉戦略』

■医学書院のHP http://www.igaku-shoin.co.jp/bookPrint.do?book=30101

「当事者主権」を実現するためのデザイン! ビジョン!! アクション!!!
「こうあってほしい」という構想力をもったとき、人はニーズを知り、当事者になる。この《当事者ニーズ》こそが次世代福祉のキーワードだと考える研究者とアクティビストたちが、安心して「おひとりさまの老後」を迎えられる社会を目指して、具体的シナリオを提示する。時代は次の一歩へ。

■はじめに 誰のための、何のための福祉か?(全文)

 どんなサービスもニーズを満たすためにつくられる。制度や政策の効果は当事者ニーズによって最終的に判定されなければならない。そうでない制度や政策は無益なだけでなく、ムダで有害でさえある。
 「当事者」の「ニーズ」を満たすことのできる福祉社会は可能か?
 「ニーズ中心の福祉社会」と、今さらのように言わなければならないのは、制度と政策とが「当事者ニーズ」をおきざりにして進んでいるように見えるからである。
 共編者の上野千鶴子と中西正司は二〇〇三年に共著で『当事者主権』(岩波新書)を著した。それから五年。わたしたちはその後、「当事者主権」の理念にもとづく、次世代型の福祉戦略を構想しようとしてきたが、二〇〇五年には障害者自立支援法が成立し、さらに二〇〇三年と二〇〇六年には介護保険法の改定が行われ、社会保障費の総量抑制の政策方針のもとに、状況はその当時よりもむしろ悪化している。この流れを押し戻し、ほんとうに当事者にとってほしいサービスが手に入る社会をつくるために一歩をすすめることは、重要でかつ喫緊の課題である。この福祉社会への転換期をどう乗り切るかは、今後三〇年間の日本社会のシナリオを決めるであろう。すなわち現在壮年期にあるひとびとが、高齢期に入ったときの、運命を決めることになるだろう。
 ニーズ中心の福祉社会を、できないと悲観する前に、わたしたちは、それが必要だし可能だと宣言したい。そしてたんに希望的な観測を述べるのではなく、どのような理念にもとづいて、何を、どうして、どこに配慮しながら、どうすれば、実現できるか、の道筋を示そうとした。そのための理念と制度のデザイン、経験的エビデンスにもとづく問題点と実行可能性、実現のためのビジョンとアクションのシナリオを示した。
 共著者には、そのために今日得られる最適の人材を結集した。本書の共著者は、「ニーズ中心の福祉社会」が必要であり、かつ可能であることに共感した研究者とアクティビストの集まりである。
 本書は数次にわたるインテンシブな研究会の過程で、お互いのアイディアを示しながら、相互に批判的に検討しあう生産的な過程から生まれた協働の産物であり、たんなる依頼原稿の集積ではない。本書の共著者は、みずからの経験的研究と理論的探究の成果をおしみなく提示し、デザインとビジョンとを世に問おうとした。そのうえで、それを実現するためのアクションのシナリオも提示した。
 選択肢はある。それを選ぶかどうかは、あなた次第である。

 共編者識す

■目次

はじめに

理念

第1章 当事者とは誰か?―ニーズ中心の福祉社会のために(上野 千鶴子

ニーズとサービス

第2章 ケアサービスのシステムと当事者主権(笹谷 春美
第3章 高齢者のニーズ生成のプロセス
 ―介護保険サービス利用者の語りから(齋藤 曉子
第4章 ニーズはなぜ潜在化するのか
 ―高齢者虐待問題と増大する「息子」加害者(春日 キスヨ

事業

第5章 福祉多元社会における協セクターの役割(上野 千鶴子
第6章 福祉事業における非営利・協同セクターの実践
 ―生活クラブ生協千葉の事例から(池田 徹)

制度

第7章 三つの福祉政府体系と当事者主権(大沢 真理
第8章 これからの社会保障政策と障害福祉
 ―高齢者ケアとの統合を含む社会サービスの可能性を視野に(広井 良典

アクション

第9章 楽観してよいはずだ(立岩 真也
第10章 当事者主権の福祉戦略―ユーザーユニオンの結成へ(中西 正司

索引
あとがき



上野 千鶴子 20081001 「当事者とは誰か?――ニーズ中心の福祉社会のために」,上野・中西編[2008:10-37]
笹谷 春美 20081001 「ケアサービスのシステムと当事者主権」,上野・中西編[2008:40-68]
齋藤 曉子 20081001 「高齢者のニーズ生成のプロセス――介護保険サービス利用者の語りから」,上野・中西編[2008:70-90]
春日 キスヨ 20081001 「ニーズはなぜ潜在化するのか――高齢者虐待問題と増大する「息子」加害者」,上野・中西編[2008:92-124]
上野 千鶴子 20081001 「福祉多元社会における協セクターの役割」,上野・中西編[2008:126-153]
◆池田 徹 20081001 「福祉事業における非営利・協同セクターの実践――生活クラブ生協千葉の事例から」,上野・中西編[2008:154-175]
大沢 真理 20081001 「三つの福祉政府体系と当事者主権」,上野・中西編[2008:178-199]
広井 良典 20081001 「これからの社会保障政策と障害福祉――高齢者ケアとの統合を含む社会サービスの可能性を視野に」,上野・中西編[2008:200-218]
立岩 真也 20081001 「楽観してよいはずだ」,上野・中西編[2008:220-242]
中西 正司 20081001 「当事者主権の福祉戦略――ユーザーユニオンの結成へ」,上野・中西編[2008:244-276]



立岩 真也 20081001 「楽観してよいはずだ」,上野・中西編[2008:220-242]

 注・文献等

  *見出し(項)の題は編集者による
1 何が起こってきたのか?
 高齢者の制度vs.障害者の制度
2 人の心配について
 「負担が増える」はほんとうか
 人は足りている
3 金の心配について
 まずは累進性をもとに戻す
 心配するより分配せよ
4 細切れの不合理
 不合理な「合理化」
 「人や金を増やす」という合理化
5 「過小申告」と家族のこと
 家族を正しい位置におく
 当事者の権利を擁護する組織を
6 「過大申告」と基準について
 「最低限度」「人並み」は自明ではない
 上限はおのずと決まってくる
 それでも基準が必要ならば…

 *この章に記したこと(のかなりの部分)をより詳細に論じたものとして、立岩『良い死』(2008、筑摩書房)第3章「犠牲と不足について」があります。読んでいただけたらありがたいです。(立岩)

■引用

◆はじめに

 「共編者の上野千鶴子と中西正司は二〇〇三年に共著で『当事者主権』(岩波新書)を著した。それから五年。わたしたちはその後、「当事者主権」の理念にもとづく、次世代の福祉戦略を構想しようとしてきたが、二〇〇五年には障害者自立支援法が成立し、さらに二〇〇三年と二〇〇六年には介護保険法の改定が行われ、社会保障費の総量抑制の政策方針のもとに、状況はその当時よりもむしろ悪化している。この流れを押し戻し、ほんとうに当事者にとってほしいサービスが手に入る社会をつくるために一歩をすすめることは、重要でかつ喫緊の課題である。」(p.3)

大沢 真理 20081001 「三つの福祉政府体系と当事者主権」,上野・中西編[2008:178-199]

 「OECD諸国の状況を見渡すと、一九九〇−二〇〇二年に一貫して租税負担率が顕著に低下したのは、日本だけである[…]
 その租税負担率の低下はほとんど国税で起こった。金額では租税収入のピークは一九九一年度の九八兆二八〇〇億円であり、それが二〇〇三年度には八割弱の七八兆円あたりまで低下した。国税収入では、ピークの九一年度の六三兆円あまりが二〇〇三年度には四五兆三七〇〇億円まで収縮した(地方税収は三四兆円前後で推移、二〇〇三年度以降国税は増収)。[…]
 ようするに、九〇年代末から企業と高所得者・資産家への課税を軽減することにより、国税のなかでも直接税収が削減された。[…]一九九〇年代なかばの日本の税・社会保障の再分配効果は、OECD主要国のなかで際立って小さかった[…]。
 […]八〇年代およびとくに九〇年代に税制の再分配効果が相当に低下した[…]。最高税率の引き下げなど所得税の累進性が弱められたこと、逆進性をもつ消費税の比重が増したことなどが背景にある。いまや国税収入を凌駕する比重をもつにいたった社会保障負担には、所得比例の拠出ながら最上限(雇用者社会負担の標準報酬月額)があること、国民年金第一号被保険者の保険料や国民健康保険の均等割のように、所得によらない定額部分があることにより、逆進的になっている。日本の小さな福祉政府のわずかな所得再分配機能は、社会保障の給付面に不釣合いなまでに依存しているのである。」(大澤[2008:188-189]、使われている文献は生活経済研究所[2007]、橘木[2006])

生活経済研究所 2007 『税制改革に向けて――公平で税収調達力が高い税制をめざして』、生活研ブックス25
橘木 俊詔 2006 『格差社会――何が問題なのか』、岩波新書

広井 良典 20081001 「これからの社会保障政策と障害福祉――高齢者ケアとの統合を含む社会サービスの可能性を視野に」,上野・中西編[2008:200-218]

 「基本認識として、@高齢化等を背景に保険原理(拠出と給付の均衡)が成り立ちにくい層が増えているという点からも、A社会保険が前提とする共同体的基盤や企業(雇用)・家族の画一性が揺らいでいるという点からも、社会保障財源における「税」の比重を高めていかざるを得ないと考えられる。
 実際、ヨーロッパ諸国においても社会保険財源→税財源へのシフトの傾向が見られる[…]。
 検討されるべき税財源としては、所得税の累進性の強化と並び、@消費税、A相続税、B環境税、C土地課税等を重要な財源として議論し実現していくべきである。」(広井[2008:210])

立岩 真也 20081001 「楽観してよいはずだ」,上野・中西編[2008:220-242]

 「とりあえずすぐにできることとして累進課税の累進性をもとに戻すことがある。多くの人は知らないか忘れていることだが、多く受け取った人からは多く(高い割合で)税をとるというその度合いを小さくして、そのままになってしまっている。だからそれをやめよう、まずは、すくなくとも、もとに戻そうということだ。」(立岩[2008:226])

中西 正司 20081001 「当事者主権の福祉戦略――ユーザーユニオンの結成へ」,上野・中西編[2008:244-276]

 「高額所得者の累進課税、企業税を一九九〇年当時に戻す。これだけで二二兆円が生まれる。相続税、固定資産税、企業資産税とその所得への課税を強化したうえで、基本的生活物資に課税しない方向で消費税<0267<を検討する。ちなみに一五〇〇万円を超える金融資産に課税すると課税ベースは一〇〇〇兆円となり、それに三%の税率を課すと三〇兆円がえられる(神野・宮本[2006]でのデータをもとに試算)。」(中西[2008:267-268])
 「それではわれわれが求めるサービスを実施するのに必要な額は、いったいいくらなのであろうか。」(中西[2008:268])
 「すべてを合計しても三兆四〇〇〇億でしかない。われわれの試算では九〇年代税制に戻すだけで二二兆円、金融資産課税を税率三%とすれば三〇兆円も生み出せた。四兆円というのはその一〇分の一にもならないささやかな額ではないか。できないはずはない。」(中西[2008:269])

■書評・紹介

◆2008/10/12 http://blog.goo.ne.jp/midorinet002/e/971029ca7abc654ec22840cfc6beae11
◆2008/10/13 http://yaplog.jp/nakanishi-t/archive/69
◆2008/11/30 http://d.hatena.ne.jp/schizophrenic/20081130/1228054404
川口 有美子 2008/12/31 「書評:上野千鶴子・中西正司編『ニーズ中心の福祉社会へ』」
 KINOKUNIYA 書評空間BOOKLOG http://booklog.kinokuniya.co.jp/kawaguchi/archives/2008/12/31/
◆立岩 真也 2009/01/25 「『ニーズ中心の福祉社会へ』」(医療と社会ブックガイド・90),『看護教育』49-(2009-1):-(医学書院),
◆立岩 真也 2009/02/25 「『ニーズ中心の福祉社会へ』続」(医療と社会ブックガイド・91),『看護教育』49-(2009-2):-(医学書院),

■言及

◆立岩 真也 2008/09/05 『良い死』,筑摩書房,374p. ISBN-10: 4480867198 ISBN-13: 978-4480867193 2940 [amazon][kinokuniya] ※ d01. et.,
◆2008/10/13 http://plaza.rakuten.co.jp/ayayamoon/diary/200810310000/
◆立岩 真也 2008/11/01 「税制について――家族・性・市場 38」,『現代思想』36-(2008-11):- 資料
◆立岩 真也 2009/02/01 「二〇〇八年読書アンケート」,『みすず』51-1(2009-1・2 no.569):-
◆立岩 真也 2009/03/25 「『現代思想』特集:ケアの未来――介護・労働・市場」(医療と社会ブックガイド・92),『看護教育』49-3(2009-3):-(医学書院),
◆立岩 真也 20140825 『自閉症連続体の時代』,みすず書房,352p. ISBN-10: 4622078457 ISBN-13: 978-4622078456 3700+ [amazon][kinokuniya] ※


UP:20080925 REV:20081010,13, 1126, 1213, 15, 1227 20090110, 29,0801, 20140825
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