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『ジェンダーで学ぶ社会学』

伊藤 公雄・牟田 和江 編 19980320 『ジェンダーで学ぶ社会学』,世界思想社,244p.


このHP経由で購入すると寄付されます

■伊藤 公雄・牟田 和江 編 19980320 『ジェンダーで学ぶ社会学』,世界思想社,244p. ISBN-10: 4790706745 ISBN-13: 978-4790706748 1890 [amazon][kinokuniya] ※ b f03 s00

■内容(「BOOK」データベースより)
「生まれる」から「死ぬ」までの身近なできごとを問いなおし、そこにひそむ「性差」の圧力を浮かび上がらせる。ジェンダーの視点による斬新な社会学のテクスト。

内容(「MARC」データベースより)
「男はこう」「女はこう」という固定的な枠づけが社会や文化の産物だというジェンダーの視点による斬新な社会学の入門書。「生まれる」から「死ぬ」まで、身近な人間の一生を通して現代社会を読み解く。〈ソフトカバー〉

伊藤公雄(いとうきみお) 大阪大学人間科学部教授、文化社会学専攻
牟田和江(むたかずえ) 甲南女子大学文学部助教授、歴史社会学・女性学専攻

 この本の紹介の作成:TT(立命館大学政策科学部4回生)

■目次

0 ジェンダーの視点から現代社会を読む  伊藤公雄
 社会学とは 社会学における3つのパースペクティブ 自殺の背景にも社会的要因が存在する 男性のほうが女性より自殺しやすいのはなぜ? セックスとジェンダー ジェンダーと セックスの多様性 ジェンダーにセックスが規定される? 現代のジェンダー構造、その問題点 ジェンダー・フリーの社会に向かって 本書の成り立ち

1 生まれる つくられる「男」と「女」  伊藤公雄
 社会化とジェンダー化 文化と歴史のなかのジェンダー 「子ども」の誕生 母性愛の神話 幼児体験とジェンダー(つくられる男の子・女の子) 社会的自我形成の仕組み(コミュニ  ケーションと社会的自我) 子どもの発達と役割取得 家庭教育のなかのジェンダー意識 

2 学ぶ 学校にひそむセクシズム  木村涼子(きむらりょうこ)
 共学論争 「学校知」とジェンダー かくれたカリキュラム 教師と生徒の相互作用 性によるトラッキング 知識・言語とジェンダー

3 愛する 恋愛というトリック  牟田和江
 女性にとっての恋愛 解放としての恋愛 恋愛という投資 恋愛の「わな」 性と身体 性愛一致のイデオロギーの意味

4 行為する 行為とジェンダー  田崎英明(たさきひであき)
 社会的行為とは何か 行為とルール ジェンダーと行為 パフォーマンスとしてのジェンダー 社会というゲームとジェンダー

5 働く ジェンダーと労働  金谷千慧子(かなたにちえこ)
 「男は仕事、女は家庭」 歴史のなかで変化するジェンダーと労働 女子学生を一人前に扱わない企業風土 世界の女性労働 M字型就業形態 パートタイマー差別の4点セット 103万円の壁 男性の働き方が問題(仕事社会の中の男たち) 女性差別撤廃条約と均等法 

6 家族する マニュアル家族を超えて  田間泰子(たまやすこ)
 家族とは何か タテマエ的家族と慣習的家族 慣習1(年上男と年下女) 慣習2(仕事男と家事・仕事女) 慣習3(仕事男と育児女) 多様な家族に向けて

7 演技する 役柄としての〈男〉と〈女〉  松田恵示(まつだけいじ)
 ジェンダーの演出 演技と身体の社会性 秩序の維持とファッション 流行現象と性差の演出の再帰性 ジェンダーと遊戯性

8 悩む 個人の悩みと社会問題  中河伸俊(なかがわのぶとし)
 あらゆる悩みは社会的 ジェンダーと悩み 女の悩み・男の悩み 悩みから社会問題へ 社会問題とポリティクス 逸脱者のカミング・アウトとセルフ・ヘルプ 新しい男の悩みと男性 問題の可能性

9 伝える オルターナティブなメディアへ  小川真知子(おがわまちこ)
 ジェンダーの視点でメディアを考える メディアの4つの問題 マスメディアへの抗議活動 フェミニズムとメディア研究 オルターナティブ・メディア メディア組織の改革

10 遊ぶ スポーツがつくる「らしさ」  西山哲郎(にしやまてつお)
 遊びからスポーツへ 「男」をつくるスポーツ ノーペイン・ノーゲイン ジェンダーの「自然化」 性の「逸脱」の排除 遊びへの回帰を目指して

11 闘う フェミニズムの思想と運動  伊田久美子(いだくみこ)
 フェミニズムとは? 第一波フェミニズムと社会主義婦人解放論 初期フェミニズムの「壁」 第二波フェミニズム〈1960年代からの新しい女性運動) ふぇにみずむのその後の展開

12 越境する 国際社会とジェンダー  大橋由香子(おおはしゆかこ)
 地球規模の人口・環境問題 人口政策にひそむ女性差別 リプロダクティブ・ライツ 世界システムとジェンダー構造 開発と援助 不払労働と近代化 人口移動と性差の売買構造

13 老いる 高齢者問題と女性問題  筒井琢磨(つついたくま)
 老いの2つの意味 エイジング ライフコース 男性のライフコースと女性のライフコース 高齢化社会って何? 高齢者問題とジェンダー 高齢者問題〈病と孤独〉 これからの高齢者

14  死ぬ 人生のターミナル  井上治代(いのうえはるよ) 
 揺らぐ死の定義と社会的死 死の看取り ターミナル・ケア 人口に見る生と死のジェンダー 家意識を残す墓 少子化が墓を変える

■要旨

0 ジェンダーの視点から現代社会を考える

0−1 社会学とは
 ・社会が研究対象となる、「社会」とは人と人の相互関係のプロセスや関係のつくられ方。それがどんなふうにできあがり、維持され、変化してきたかが研究テーマになる
0−2 社会学における3つのパースペクティブ
 ・社会学での、「社会」の捉え方は3つある。
 (1)個人から出発して社会を考える・・・他者の存在を考慮しながら、いかに人間が社会生活を送るか、そうして出来上がった社会がどのような仕組みで成り立っているかという視点
 (2)社会を個人を超えたものとして考える・・・社会は個人に先立って存在しており、個人の意識や行為を外部から拘束し規定しているという視点
 (3)社会は人間の相互作用の網の目によって作り出されている・・・他者や自分自身とのコミュニケーションにおけるプロセスやパターンを探る視点  
   おそらく(2)が一番分かりずらく、(2)についてもっとも鮮やかな説明をして見せたのがエミール・デュルケームという社会学者だ
0−3 自殺の背景にも社会的要因が存在する
 ・デュルケームの書いた『自殺論』・・・自殺という個人的な現象のように見える行為の背景に、社会的要因が存在していることを証明〈カトリック系住民の多い地域とプロテスタント系住                        民の多い地域での自殺率の比較)→社会が個人の自殺を規定するという観点
0−4 男性のほうが女性より自殺しやすいのはなぜ?
  ・どの国でも、女性に比べ男性の自殺率が2倍から3倍・・・デュルケームの説明、女性が男性に比べて社会的生活に参加することが少ないためストレスを免れやすいため〈社会的
   要因)。デュルケームによるもう一つの説明、一般的に女性は精神レベルが低く、そのため男性ほどにはストレスにさいなまれることがなく結果として自殺しにくい〈生物学的要因)
  ・そうした生物学的なオス・メスの区分を前提にした社会活動における男女の差についての「きめつけ」は最近まで多くの学者たちの間では常識だった。
0−5  セックスとジェンダー
  ・性をめぐる「きめつけ」の背景には、男女に関する固定的な意識の問題があり、ジェンダーという視点を通してその問題点をあきらかにする。
  ・ジェンダーとは、生物学的な性のあり方を意味する〈SEX〉に対して、文化的・社会的・心理的な性のあり方をさす言葉、社会や文化によって構成された性。
0−6 ジェンダーとセックスの多様性
  ・『男らしさ、女らしさ』は絶対的なものではなく、文化によって変化することが、マーガレット・ミードの研究であきらかに。
  ・両性具有者、または染色体レベルでの多様性。必ずしも、2つに分けられるものではない。
0−7 ジェンダーにセックスが規定される?
  ・多くの文化は、男女という二元論で者を考える仕組みを持っていて、個々の存在の性的な多様性は見失われ、すべてが男女の枠組みの中にまとめられてしまう。
  ・セックスがジェンダーを規定しているのではなく、ジェンダーがセックスを規定している。
0−8 現代のジェンダー構造、その問題点
  ・男性による女性支配の構図・・・この構図があらゆる教育の場やメディアを通じた意識形成の場で繰り返し表明されている。つまり社会生活の中で再生産されている。
0−9 ジェンダー・フリー社会に向かって
  ・女性たちが多様で個性的な能力を十分に発揮できる社会をつくりだすためには、ジェンダーにとらわれない社会つまりジェンダーフリー社会が前提となる。
  ・男性がジェンダーによって背負わされる重荷があり、女性だけでなく、男性も固定的なジェンダー意識にとらわれた社会から自由になることが求められている。
0−10 本書の成り立ち
  ・ジェンダーの視点によって、「当たり前」の世界に亀裂を入れる
  ・社会学がジェンダーの視点と結びつくと、いっそうのおもしろさと輪郭がはっきりし始める
  ・身近な人間の一生をジェンダーの視点・社会学の視点から読み直す

1 生まれる つくられる男と女

1−1 社会化とジェンダー化
  ・ボーボワール「第二の性」・・・人は女に生まれない。女になるのだ。
  ・「社会化」・・・社会や集団に適合的な行動パターンを身につけ社会の一員になっていくプロセス、子どもたちは社会のなかに投げ込まれ、そこで既に社会化された人々とのコミュニ   ケーションを通じて、「人間の男・人間の女」へと社会化されていく
1−2 文化と歴史のなかのジェンダー
  ・人間は産み落とされた社会の枠組みにしたがって社会化される、ジェンダーの枠組みも社会化の枠組みの一つといえる、うまれた社会や文化・育った歴史的段階によってもそれ    ぞれの「男」「女」としてのあり方に違いが生まれる。
1−3 「子ども」の誕生
  ・子どもを「子ども」としてあつかい始めたのは17世紀以降、それまでは小さな大人としてあつかわれた。当然、遊びも仕事も大人と一緒だった。子供服は17世紀以降に誕生した。
1−4 母性愛の神話
  ・「子どもをいつくしむのは女性の本質的な性質に基づく」という発想が歴史に登場したのは、18世紀・・・産業社会の登場と男女の性別役割分業の固定化といった事態
1−5 幼児体験とジェンダー
  ・ジェンダー意識の形成は、幼児期のコミュニケーション・プロセスのなかで分かりやすく説明される。母親への依存度
1−6 社会的自我形成の仕組み
  ・「鏡の中の自己」という概念 社会的自我の根本的な部分は、他者とのコミュニケーションの中で培われる。第一集団〈家族・子どもたちの仲間集団・近隣集団)の形成
1−7 子どもの発達と役割取得
  ・子どもたちは両親などの身近な重要な他者の役割を模倣することで自分の位置を少しづつ定めていく。
1−8 家庭教育のなかのジェンダー意識
  ・重要な他者である親の側が持つ子どもへの役割期待が子どものジェンダー意識に影響を与える・・・男の子には責任感やたくましさを、女の子には、素直さや思いやりを求める日本   の親
  ・ジェンダーの縛りから自由になるためには、現在の自分のジェンダー意識を培ってきた、子ども時代からの社会化のプロセスをじっくり振り返り見直すことが必要となる。

2 学ぶ

2−1 共学論争
  ・アメリカでの女子大の人気・・・今日の学校文化が内包するセクシズムについての問題提起
2−2 学校知とジェンダー
  ・ステレオタイプ化されたジェンダーイメージに満ちた教科書
  ・家庭科・・・男女別学の実質的容認
2−3 隠れたカリキュラム
  ・隠れたカリキュラムとして提示されるジェンダー秩序に適応していかざるを得ない
2−4 教師と生徒の相互作用
  ・学校は子どもたちを平等にあつかう場であり、その一方で性別によって異なる処遇をする場でもある。
2−5 性によるトラッキング
  ・日本の教育システムでは教育段階が上がっていくにつれて男女別学の領域が増加する。
  ・高校間格差に代表される学業成績に基づくトラッキングとともに、男女という性別によって進路選択の可能性を規制する性によるトラッキングを内包している

3 愛する

3−1 女性にとっての恋愛
  ・子供向けコミックの世界においては、少女向けのものは恋愛が中心となる。一方男の子向けは、怪獣物からスポーツ物と多ジャンルにわたる。
3−2  解放としての恋愛
  ・女性にとっての恋愛とは、しばしば日常、しかも拘束の大きな日常からの解放・脱出として映る。
  ・若い女性にとって、男性と1対1の親密な関係を持つことは親の支配からの一種の独立である、しかし、独立・脱出は夫という新たな保護者の支配下に、従属的地位に自らをおく結果にいたることがしばしばである。
3−3 恋愛という資質
  ・つまり女性にとっては、恋人・夫を通じた自己実現の契機であることが、恋愛をより魅力あるものにしている。
  ・女性にとって、「愛する」「本当の相手」に自己投機し、男性を通じて自己実現することは情緒的にあるべき女性役割的規範を満たすと同時に自身を厳しい競争の場におく必要もなく、しかも眼精の達成する成功の果実の分け前を自分も受け取ることができるという二重三重においしい戦略であり、理にかなった投資である。
3−4 恋愛のわな
  ・現代の女性が男性を通じた自己実現や上昇婚に固執することは、みづから恋愛の市場を狭めるばかりでなく、現代の女性がやっと実現できるようになった幅広い人生の可能性を捨てることになる。
3−5 性と身体
  ・性の自由化が進み、社会の文化全体が性的な表現や性の価値をアピールすることに許容的・肯定的になった。
  ・近年の女性に拒食症や過食症が増えた理由とは
3−6 性愛一致のイデオロギーの意味
  ・性規範のダブルスタンダード
  ・女性のセクシュアリティの「モノ」化

4 行為する

4−1 社会的行為とは何か
  ・社会的行為とは、他者の行為と何らかの意味で「接続」された行為である・・・行為の接続を安定させるためには共有されたルールが必要である。あるルールのもとで相互作用・相互依存する仕組みが社会システムである
4−2 行為とルール
  ・ルールは、必ずしも行為者が自覚しているとは限らない。そしてルールは記述されているわけではなく、行為のなかから確認することで形になる。
4−3 ジェンダーと行為
  ・私たちの感覚の中では、「性差」というものが「自然」な「存在」にぞくするものであって「行為」の領域に属するものではないと捉えられている。
4−4 パフォーマンスとしてのジェンダー
  ・近年の英語圏のフェミニズム・レズビアンセオリー・ゲイセオリーでは、ジェンダーやセクシュアリティをパフォーマンスとして捉える理論が展開され、広く支持を受けている。
  ・「男である・女である」ことは存在ではなく、「男であれ・女であれ」という行為の結果としてある
4−5 社会というゲームとジェンダー
  ・ゲームをプレイするとき、いくつかのルールを無前提に「自然」なものとして受け入れる。社会というゲームに存在するルールブックとしてのジェンダー。このルールブックは日々、書き直されている、 

5 働く

5−1 「男は仕事・女は家庭」
  ・労働に関して、性にかかわりなく、すべての人に平等な機会と待遇を保障することは社会の公正かつ健全な発展の基礎であるが、現代社会においては「男は仕事・女は家庭」というジェンダーによる労働の分業がまだ根強く残っている。
5−2 歴史のなかで変化するジェンダーと労働
  ・現在「自然なもの」として考えられている「男は仕事・女は家庭」というj性による分業は、近代産業社会成立以後に成立したものである。そこにある問題点は、男性に対して女性が与えられた労働は「私的」であり、より社会的価値の低いものとされたことだ。
5−3 女子学生を一人前にあつかわない企業風土
  ・女性を周辺労働力としていちづけ、基幹となる社員の対象として見ていない企業。
  ・学校教育や家庭教育のなかで女性の職業意識の向上や職業能力の開発や向上を目的とした教育がなされていない。
5−4 世界の女性労働 
  ・世界全体で考えた場合でも、労働の面で明らかなジェンダーによる格差が存在し、構造化している
5−5 M字型就業形態

コメント

 この本は、全体的に易しく入門書に適していると感じました。各章が区切られながら、かつ全体がライフコースの流れに沿ったかたちでまとめられているので、比較的読みやすいような 気がしますが、実は分かりにくいです。各章で筆者が違うせいで、微妙にずれがあるからだと思います。 内容としては、ジェンダーを学ぶ本としての役割より、ジェンダーを切り口にし て社会問題を学ぶ本です。ですので、レベル的には入門書ですが、これ一冊だけ読むのはお勧めできません(二冊目以降に買うべき本だと思います)。各章の間にコラムがあり、その一つを立命の教授が書いていますので興味のある方はどうぞ。

UP:20020810
  ◇フェミニズム  ◇家族  ◇女性の労働・家事労働・性別分業  ◇2002年度講義関連  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
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