◎ 虐待の動機と誘引
児童相談所で受け付ける児童虐待の件数は年々増加している。この要因には、
@ 子育ての背景となる社会状況の変化(子どもの権利保障への意識の向上、社会が豊かになり即時欲求充足を求める傾向の増大など)
A 家庭の形や質の変化(核家族や離婚家庭の増加・少子化・家事の効率化により子どもと向き合う時間が長くなる・女性の社会進出・家庭の養育機能の低下など)、
B 地域社会の変化(近隣とのつきあいの疎遠化・孤立化、子どもの遊び場の減少、自然の減少など)などがあります。
社会全体の養育の水準が上がったために、これまで虐待とは考えなかった事例も虐待という視点から援助を行うようになったことや、養育を負担に感ずる家族が出てきたことなども考えられます。最近では上記に挙げた要因による現代的な子育てに対するプレッシャーに耐えられず起こってくる虐待が増加しているものと思われ、「いつでも」「どこでも」「どんな人でも」起こりうるという認識が必要なのです。「ひと」を育て上げるという作業(子育て)は大変な困難さを持っています。もたらされる喜びも大きい反面、苦しみ、苦労も絶えません。社会全体が少ない子どもを大切に育てるようになっている中で、普通に育てるのが当たり前という風潮になってくると、親の心理的負担が増加し、うまくいかない子育てが起こってくる可能性が高くなります。
また大阪府が行った調査によると虐待の主な動機・原因は次の8種に分類される。
@ 養育拒否による虐待
A しつけの行き過ぎによる虐待
B 酒乱による虐待
C 優越性誇示による虐待
D やけ、うさばらし、とばっちりによる虐待
E 嫉妬、恨みによる虐待
F 人格障害による虐待
G その他
また虐待をする親の共通点として児童虐待研究者である東洋大学の池田由子教授は以下の項目を挙げている。
@ 彼らは子供時代に親から優しく愛され、保護された経験がない。
A 彼らは我が子に対して不正確な認知の仕方をしている。
B 家庭内にストレスがある。
C 体罰が適切な躾の手段と誤解している。
また米国のスティ―ル(Steele)は虐待が起こる条件として以下の項目を挙げている。
@ 親が幼少期に拒否、虐待されていた。
A 生活上のストレスがある。
B 社会的孤立。
C 満足できない子供。
また上記の意見や筆者が実務経験をとうして集約をしなおすと虐待が起こる条件として以下の項目があげられる。
@ 親自身がふぐうな児童期を過し、被虐待体験を有したり充分なマザーリング体験をもたないことが多い。
A 親の人格特徴として未成熟・被害感・劣等感・攻撃性・自己中心等の要素をもっていることが多い。
B 児童についての理解が充分でなく、過剰な期待をかけたり・放置したり・自己本位に操作しようとする。
C 養育技術がつたなく、往々にして力の養育に頼り、柔軟性に乏しい。
D 乳幼児期に親子の分離体験があり、親子双方が情緒的に不安定である。
E 家庭の中に多様なストレストラブルが起こり、夫婦の相補性も低い。
F 児童自身の誘因としても、なつかない・ききわけがない・そだてにくい・発達の遅れ等があり虐待の悪循環を形成している。
G 親族や近隣との関係が険悪であったり、疎遠であったりで、社会的に孤立していることがおおい。
しかしこれまでも述べてきたように児童虐待は決して単一の要因で生じる物ではなく、複合的要因が力動的に作用して生じると理解すべきである。
◎ 虐待の実態
児童虐待がどの程度の頻度でおきているのか、その実態は必ずしも明確でない。だが過去に何度か児童虐待に関する調査が全国規模あるいは地方規模で実施されている。ここではその調査について述べられている。
@厚生省児童家庭局の調査例
A全社協養護施設協議会の調査例
B日本児童問題調査会の調査例
C全社協養護施設協議会の調査例二回目
D 全国の主要病院小児科を対象とした調査例
E 大阪児童虐待調査研究会の調査例
F 全国児童相談所長会の調査例
しかしこのような調査では虐待が表に出てこないことがほとんどで、全国には少なくとも万単位で児童虐待が生じていると考えたほうがよいだろうと記してある。