2011年5月28日8時3分
東日本大震災の被災地の高校の先生が生徒たちの就職先を探して、東京で企業回りを始めた。地元企業が大打撃を受ける中、必死の行脚が続くが、厳しい状況にある企業側の反応も芳しいとはいえないようだ。
福島県立小高商業高校(南相馬市)で進路指導を担当する木幡尚子先生(48)と菅野幸一先生(58)は16〜19日の4日間、東京都内の企業12社を回った。
訪問先の警備会社で木幡先生が「震災の影響はなかったですか」と尋ねると、採用担当者が「(被災地では)避難所から通っている社員もいます」と応じた。雑談で場はやや和んだが、採用の話に入ると「東北だから採る、ということはしません。人物次第です」。被災地だから優遇する、と言ってくれた会社は一社もなかった。
2日目の午後訪れた食肉販売会社では「採用数は検討中」という担当者が、「我々も厳しい状況にありましてね」。2人は「何とかお願いしたいと思っています」と食い下がる。社を出た2人は「求人票が出ないと分からないが、例年よりはっきり言わないかも。ごり押しはできないし」。
生徒の多くは地元での就職を希望する。しかし同校は東京電力福島第一原発事故に伴う警戒区域にある。現在は原発から避難して福島、相馬両市の他校に間借りし、先生たちが両市を行き来している。
地元企業は、原発事故の影響で例年通りの採用は望み薄だ。県内の他地域の企業もそれぞれの地元の高校とのつながりが深く、どこまで採ってもらえるか分からない。そこで例年より長い4日間を割き、東京に活路を求めた。2人は「厳しさは想像通り。それでも、できるだけ広い選択肢から選ばせてやりたい」。6月からは県内の企業を回る。
今回は「求人票をもらえるようお願いし、採用数やどんな人材が欲しいのかを探るのが目的」という。高校生の就職活動は、7月に学校に求人票が届かないと始まらない。生徒の希望と先方の求める人材像を踏まえて校内で選考し、採用試験を受けさせる。今回の行脚には、直接足を運べば何かの配慮があるかもしれないとの期待もあるという。
現在の苦境が生徒の成長につながってくれれば、とも期待している。ここ10年ほど、自分の将来を自分で描けない生徒が少なくないと感じていた。「被災して避難先から通う生徒たちの中に、将来への自覚が育つのではないか」
被災した他県でも同様の動きがある。岩手県立遠野高校は、6月の東京での企業回りには、教師に加えて遠野市の担当者に同行してもらい、採用を強く働きかけることも検討している。
宮城県一迫商業高校(栗原市)は、卒業生の就職先の企業が学校側を東京に招いて卒業生と懇談する会が6月に催されるのに合わせ、上京した先生が他の企業を訪問することも考えている。田中康義教頭は「地元が苦しく先は見えないが、新規開拓を含めて積極的に就職先を見つけたい」と話している。(川見能人)