本書は、付録を除いて、下記のような3部構成になっています。プラトンの対話篇のように、先生役の「老生」と生徒役の「A君」が対話を重ねながら、非ユークリッド幾何学の世界へと入っていきます。
- 第1部 ユークリッド幾何から非ユークリッド幾何へ
- 第2部 非ユークリッド幾何の発見
- 第3部 非ユークリッド幾何のモデル
第1部では、ユークリッド幾何学から出発し、やや長ったらしい公準5については、「直線上にない点を通って、その直線と平行な直線はただ1つである」と言い換えてもよいことを確認します。平行線の問題を突き詰めると、非ユークリッド幾何の理解に通じる道は、遠近法で現れる焦点の問題や、地球という球体上の直線の性質など、意外に身近なところに潜んでいるかもしれないという話になります。老生とA君の対話篇として見た場合、第1部は非常に知的興奮に満ちています。第2部以降では、A君はほぼ聞き役に回ります。
第2部では、非ユークリッド幾何の発見に貢献してきた数学者たちについて語られます。ボヤイ・ヤーノシュとロバチェフスキーは、それぞれ独立に、曲率がマイナスの空間における幾何学について発表します。ところが、当時数学界の大御所であり、2人の論文を理解できる唯一の数学者であったガウスが、自らも新しい幾何学の可能性についてとっくに気が付いていたにもかかわらず、両人の論文に対して沈黙を守ったため、3人の死後に至るまで、非ユークリッド幾何学が日の目を見ることはありませんでした。ボヤイ・ヤーノシュの悲劇的な人生が印象的です。
第3部では、半球面上に、非ユークリッド幾何学のモデルを作成します。第3部の後半で明かされているように、この半球面のモデルは、円の中に作られるクラインのモデルと深い関係があります。この半球を地球の北半球とみなしたとき、北半球上の図形を赤道面へ正射影すれば、クラインのモデルになります。このようなモデル上であれば、公準5について、直線外の点から、この直線に対して、1本ではなく、2本の平行線が引けることを、いとも簡単に確認することができます。
本書の魅力は、非ユークリッド幾何学へのアプローチの仕方にあります。ある思考の体系に「なじむ」には、必ずしも厳密な公理主義的方法が有効であるとは限りません。例えば、子どもが自然数を学ぶにあたって、厳密だからと言って、いきなりペアノの公理を持ち出すのはナンセンスです。論理的な筋道と、発見への思考の軌跡は別のものであり、本書で重んじられているのは後者です。実際、非ユークリッド幾何学について、もっぱら論理的に語ろうとするのであれば、第3部さえあれば十分であり、第2部以前は不要です。
本書は、数学を専門に学んだことのある者だけではなく、むしろ数学が好きでさえあれば、高校生ぐらいあっても読むに値する書物です。もしかしたら、第3部あたりは、技術的な操作が主となるために、全てを理解するというわけにもいかないかもしれません。それでも何か物語でも読むように、議論の輪郭だけでもつかんでおき、いつかまたさらに勉強を重ねた時にでも本書に帰ってくれば、きっと新たに得られるものがあるでしょう。
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非ユークリッド幾何の世界―幾何学の原点をさぐる (ブルーバックス) 新書 – 1977/1/1
寺阪 英孝
(著)
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平行線とは同じ平面上にあって互いに交わらない二直線のことである。ではこの平行線はどう見えるだろう?たとえば東西に真っすぐ延びた線路――この平行な二直線は地平線の一点に集まっているように見える。東を見ても西を見ても……。それでは平行線とは2つの無限遠点で交わっている直線なのだろうか?本書とともにこんな素朴な疑問を追っているうちに、いつの間にか、あなたは、幾何学とはどんな学問かを悟り、非ユークリッド幾何の世界に踏み込んでいる自分に気づくことだろう。
平行線とは同じ平面上にあって互いに交わらない二直線のことである。ではこの平行線はどう見えるだろう?たとえば東西に真っすぐ延びた線路――この平行な二直線は地平線の一点に集まっているように見える。東を見ても西を見ても……。それでは平行線とは2つの無限遠点で交わっている直線なのだろうか?本書とともにこんな素朴な疑問を追っているうちに、いつの間にか、あなたは、幾何学とはどんな学問かを悟り、非ユークリッド幾何の世界に踏み込んでいる自分に気づくことだろう。
- 本の長さ239ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日1977/1/1
- ISBN-104061179128
- ISBN-13978-4061179127
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商品の説明
著者について
1904年、東京都に生まれる。1928年、東京大学理学部数学科卒業。大阪大学、東京女子大学、上智大学各教授を経て、現在大阪大学名誉教授。理学博士。幾何学基礎論のほか、1957年以来、結び目の問題に取り組んでいる。絵画を鑑賞し、植物を育て賞でることを趣味としている。主な著書には『初等幾何学』(岩波書店)などがある。
登録情報
- 出版社 : 講談社 (1977/1/1)
- 発売日 : 1977/1/1
- 言語 : 日本語
- 新書 : 239ページ
- ISBN-10 : 4061179128
- ISBN-13 : 978-4061179127
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,161,154位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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カスタマーレビュー
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- 2023年10月21日に日本でレビュー済みAmazonで購入実際に存在する形からは、私の力では迫れなさそうだなと思いました。犬がそっぽを向きました。
- 2013年10月2日に日本でレビュー済みAmazonで購入絶版になっていて、古くさいところや、まだまだ難しすぎるところも、多多ある。寺阪先生の情熱を持って、中高生に興味をいだかせる、新しくて、わかりやすい新書を期待する。
- 2008年8月29日に日本でレビュー済みAmazonで購入三角形の内角の和は180度。小学校で当たり前のように教えられてきたこの事柄はユークリッド幾何の第5公準(平行線公準)があるからである。もしこの第5公準が成り立たないとしたら…、そこには非ユークリッド幾何学という新しい幾何学が誕生する。
この本の前半は、非ユークリッド幾何学誕生までの歴史的経緯を先生と生徒の対話の形式で書かれている。ボヤイ父子、ガウス、ロバチェフスキーがいかに苦労して非ユークリッド幾何へアプローチしていったかということがドラマチックに展開されており、数学史的な読み物としても大変おもしろい。
後半は半球面上に非ユークリッド幾何のモデルを構成している。予備知識は初等幾何だけであり、高校生でも十分に理解できる内容である。ページを開くたびに目の前で非ユークリッド幾何学を手作りで作り上げていくのを見ているようであり感動的である。
今まで多くの人に読まれてきたのであろう。私の購入したものは発行を重ねて第30版となっている。この本は、非ユークリッド幾何学の入門書なので、本格的に勉強したい人はこの本をステップとして他の本を読まれるとよいだろう。
- 2008年9月4日に日本でレビュー済み平行線を紙に定規で引くのと、地平線まで伸びる真っ直ぐな線路を描くのとでは随分違うが、その違いを明確に問題と考えれば、ユークリッド幾何学よりも非ユークリッド幾何学の方が自然でもあると述べられている。また、直線の意味をガラスの擦り合わせと対応させるのも興味深い。補講に非ユークリッド幾何学を半球のモデルで実現し、ロバチェフスキーの平行角の関係式を簡単に導くところは筆者のアイデアである。これを元にして、改めて全体を読み直せば、ロ氏やガウス、ボヤイ、三者三様の苦労が少しは分るような気がする。