【インタビュー:チームラボ 猪子寿之氏】デジタル表現を支える哲学――生命は生命の力で生きている

チームラボ代表取締役社長 猪子寿之(いのこ・としゆき)


――ヴェネツィア・ビエンナーレに「生命は生命の力で生きている」を出展し、反響はいかがでしたか。

チームラボ代表取締役社長  猪子寿之 (いのこ・としゆき)チームラボ代表取締役社長  猪子寿之 (いのこ・としゆき)

チームラボ代表取締役社長 猪子寿之(いのこ・としゆき)
チームラボは2001年に東京で活動をはじめたウルトラテクノロジスト集団。プログラマー、ネットワークエンジニア、デザイナー、ロボットエンジニア、建築家、CGアニメーター、数学者など、様々なスペシャリストからチームが構成され、テクノロジー、アート、デザインの境界線をあいまいにしながら、ウェブか らインスタレーション、ビデオアート、ロボットなど、メディアを超えて活動。

生命は生命の力で生きている生命は生命の力で生きている

「生命は生命の力で生きている」
第54回ヴェネツィア・ビエンナーレ「Future Pass - From Asia to the World」出展作品


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海外からの反響は日本以上にすごくよかった。ヴェネツィア・ビエンナーレの前に、4月9日から5月8日まで、カイカイキキ ギャラリー台北でチームラボの個展『生きる』を開催し、その後6月にはスイスのバーゼルで行われたアートフェア、『VOLTA7』にも出展し、予想を遥かに超える高評価を得た。絵画のようでもあり、アニメーションでもある、アニメーションと絵画のクロスボーダーな世界を新鮮に感じてくれたのかもしれない。デジタルクリエイティブの時代には、こういう既存のカテゴリーの境界を超えた表現の可能性が開かれている。

近代西洋文明のなかでは、絵画や彫刻と文学はそれぞれ明確に切り分かれている。一方、日本画や「書」の世界は、文学と絵画が一体で表現されている。誰がどういう状況で何を描(書)いたか、それらの情報が一体となっている作品世界のなかに入り込んで思いを膨らませるのが日本画の世界だ。近現代には、西洋絵画の影響を受けてきたが、基本的にマンガの世界は、昔の絵巻物の世界と同じで、絵画と文学が分かれていない。見るほうは絵画を鑑賞しながら、文学作品を読んでいる。切り分けられていないのが特徴だ。

――絵画と文学の隔てのない表現が、デジタル時代においては日本人アーティストの強みになるということでしょうか。

十二幅対の光の掛軸十二幅対の光の掛軸

『十二幅対の光の掛軸』は、掛軸に見立てた12台の高さ2.7mのLED
ディスプレイに映し出されたアニメーション、12チャンネルから鳴り響 くサウンドがつくりだすジオラマ。現実空間を、20m×10mの物語空間へと
変貌させる インスタレーション作品。


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僕自身が子どもの頃からマンガの世界に親しんできて、西洋絵画やハリウッド映画よりもしっくりくる。その違いはどこからきているのか、そのロジックを探索するなかで映像作品「花と屍」を『十二幅対の光の掛軸』に見立て、仏ルーブル宮内 国立装飾美術館で展示したインスタレーション作品が生まれた。日本画の世界の再構築をしようと仮説をたて、作業をしているなかでいろいろなことに気づくという試行錯誤を繰り返してできあがってきたものだ。

いま、パソコンやテレビの画面上で立体的に見えているものは、実は3次元のものを2次元に落とし込んでみている。現代人は西洋画の遠近法的な見方が脳に刻まれているから、その2次元の画像をみて、脳のなかで3次元空間と認識している。

では、遠近感のない日本画では何が違うのか――。まず、コンピューター上で仮想の3次元空間を創り、日本画の空間認識を探りながら、平面化処理をしていくなかで、いくつかの気づきがあった。西洋絵画の遠近法は、ある瞬間における空間(3次元)を切り取って客観的に平面化している一方、日本の絵巻物は、物語全体の時間軸(4次元)を平面のなかに表現している。鑑賞者は空間の物理的な情報を客観的に捉える代わりに、客体と主体が曖昧な世界のなかで、登場人物と同じ世界に入り込んでいるかのようなリアリティを感じとっていたのではないか。

この作品づくりは近代化以前の日本人が世界をどうとらえていたのか、それを知るための実験だった。昔の日本人は大和絵のように、平面のなかに4次元を見ていたのではないかと考えている。網膜の構造は同じでも認識している情報は違う。人間は脳が合成をしている画像を見ている。そしてそれは教育や文化によって異なる。日本画における時空間認識の違いを発見したことはデジタル時代の表現にとって強みになると考えている。
 
――2012年の展望をお聞かせください。
僕たちは、映像作品や空間をアート作品として売っているが、日本では絵画としてかたちになっていないとアートとして認められないことが多い。しかし、海外では当たり前で、とくに台湾、香港、中国といったアジアでは完全に境がなく受け入れられた。

インターネットやデジタル・デバイスの発達によって、オンラインとオフラインの境界はどんどんボーダレスになって、世界は急速にフラット化している。その変化のなかで、日本にはまだ既存の枠組みに縛られているところがある。しかし、デジタル・テクノロジーがもたらすフラットな社会というのは、日本画の世界と親和性が高い。すごくシンプルに直感的な言い方をすると、瞬時に世界中の情報にアクセスできるインターネットの世界と、鑑賞者の感性の赴くまま時空を旅することができる日本画の世界には相通じるものがあるということだ。西洋近代文明が主流の時代には不利だった日本画の表現が、これからは有利になるのではないかと考えている。デジタル・テクノロジーによって、新しい表現方法や新しい思想、新しい価値が創造され、それが社会を変えていくことになる。チームラボは、そういった動きをリードしたり、後押ししたりするような価値を提案していきたいと思う。

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