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バーリンデン塗りと越智塗りとMAX塗りと

 大雑把な記憶で書いているので間違っているかもしれない黒立ち上げ塗装の歴史。

ウォッシングとドライブラシの時代

 黒立ち上げ塗装のルーツを探っていくと、フランソワ・バーリンデン氏のドライブラシ塗装に行き当たります。
 氏はAFV模型において著名なモデラーで、その塗装の特徴はウォッシングとドライブラシによる陰影の強調にあります。特に暗い色から明るい色へのドライブラシによるグラデーションは、あたかも印象派絵画を思わせる仕上がりでした。
 彼の作品は模型における塗装は着色だけではないということを如実に語っていました。それは模型における塗装が立体の上に絵を描くことでもあることをも体現していたのです。
 そして氏の影響によりドライブラシはAFVモデラー間に一気に普及しました。(そのため模型界の一部には「バーリンデン風陰影表現塗装にあらざればドライブラシにあらず」という風潮があります。例えば、某雑誌記事では、エッジ部のチッピング(塗膜剥がれ)表現に用いるドライブラシを「同じ技法だが目的が違う」としてドライブラシ扱いしていませんでした。)
 1980年代、氏のウォッシングとドライブラシによる塗装はAFV塗装における基本的手法の一つとなりました。その塗装法は今ではバーリンデン塗りと呼ばれることがあります。

補記:グラデーション目的のドライブラシとハイライト目的のドライブラシ

 一口にドライブラシといっても、絵画におけるドライブラシの用法がそうであるようにおおまかで曖昧な二種類の使い分けがあります。
 一つが、生乾きの筆を塗装面にかすらせることでぼかし塗装をするドライブラシ。
 もう一つが、生乾きの筆を塗装面に擦りつけることで部分的なくっきりとした強い発色を得るドライブラシ。
 厳密ではありませんが、模型においては、前者がグラデーション目的で、後者がハイライト目的で使用されると考えていいでしょう。

常識破りな暗い色からの塗装

 時は流れ、ホビージャパン誌のAFVモデルのページを独特のグラデーション塗装が施された作品が飾るようになりました。それは越智信善氏の作品でした。
 氏の作品はエアブラシによるグラデーションを基本にウォッシング、ドライブラシ、そしてパステルで仕上げというものでしたが、そのエアブラシによるグラデーションに見られる作風は独特なものでした。
 それまでにもエアブラシによるグラデーション塗装は存在していましたが、氏の塗装法は当時の常識を打ち破るものでした。
 グラデーション塗装をするにしても発色を良くするために白下地の上に隠蔽力が低い明るい色から塗装していくのが常識だった時代に、氏は陰の部分の色である暗い色から塗装していたのです。(松本州平氏の作例のように、ドライブラシでは暗い色から明るい色へ塗っていくのが普通でしたが)
 この塗装法が画期的だったのは、バーリンデン塗りが暗色から明色へのグラデーションを明度の異なる複数の色を段階的にドライブラシすることで表現していたことを、エアブラシによる吹きつけ量調整で代替していた点にあるといえるでしょう。
 黒立ち上げ塗装の視覚的魅力は、その陰となる部分を吹き残していくことにより生まれるタッチにありますが、手間暇のかかるグラデーション目的のドライブラシをエアブラシで代替することは時間節約上でも大きな効果がありました。
 1990年代初頭、氏の塗装法はバーリンデン塗りの発展型として多くのAFVモデラーに受け入れられ、一部では越智塗りと呼ばれました。

 近年、越智塗りをあたかも「マホガニー立ち上げ塗装」であるかのように矮小化する言説が一部にあるようですが、それは間違いです。
 確かにマホガニーの使用頻度は高いですが、基本色がジャーマングレーの場合はブラックを使用するなど、越智塗りにおいて下地色は基本色に合わせて選択されるものです。
 ただ、この「下地色は基本色に合わせて選択」という部分を蔑ろにしてマホガニーを使う人もいるわけで、これには作例でマホガニーを使っていたからといって理屈も考えずに「右へ倣え」でマホガニーを使うような人の存在にも問題があるといえるでしょう。

常識破りな染料系塗料の滲みの利用

 越智氏が世に知らしめAFVモデラーの間で細々とブームになっていた黒立ち上げ塗装(暗色立ち上げ塗装)が、その知名度を一気に引き上げたのは、MAX渡辺氏の作例とホビージャパン誌の特集によるものでしょう。越智塗りはAFVでは著名でも模型業界全体で見ればその知名度は低く、それはAFVが模型の世界で占める割合を反映していたともいえます。(現代でいえば、高石誠氏やMIG氏の知名度はAFVでは高くても、他ではあまり知られていないようなものです。)
 氏は黒立ち上げ塗装を自分の塗装に取り入れ、そしてキャラクターモデル向けの改良を加えました。
 それはクリアカラーと蛍光カラーの使用です。
 それまでの塗装の常識では塗り分けの上でクリアカラーや蛍光カラーといった染料系塗料の滲みは忌避すべきものでした。(実際、GSIクレオスの蛍光カラーは滲まないように改良されました。)
 しかし、MAX渡辺氏はグラデーション塗装の上で故意にその染料系塗料の滲みを利用してみせたのです。それは模型塗装における常識を破ることでした。
 そして、それまでキャラクターモデルの世界では殆ど見られなかった表現の新奇性とホビージャパン誌の特集の影響により黒立ち上げ塗装は大流行しました。

 MAX塗りの特異な点は、バーリンデン塗りや越智塗りといった塗装法が周囲から自然とそう呼ばれるようになったのに対し、HJ編集部が率先してMAX塗りとして特集を組んでブームを仕掛けたことにあります。
 それはその原点となった塗装法を知るものには心情的に納得できるものではありませんでした。
 心情的に納得できないのは模倣が悪いわけではありません。MAX塗りは模倣の部分と改良の部分から成り立ちますが、問題は特集の姿勢が模倣の部分を含めてさもMAX渡辺氏オリジナルであるかと思わせるようなものだったことにあります。それが経緯を知る者に技の継承発展の観点から不公正なものを感じさせたのです。
 現にネットを見れば黒立ち上げ塗装のような暗い色からグラデーションをかけていく塗装イコールMAX塗りと思っている人は大勢います。
 それは黒立ち上げ塗装の歴史的経緯を知るものにとっては、ある意味、悲喜劇なのです。

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