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ANDプレゼンツ:音とドキュメンタリー


 映画学校に行かずとも、撮影から仕上げまでひとりでビデオ制作できるドキュメンタリーづくりの裾野が広がっている。特にアジアでは、かつて政治的、経済的なハードルに阻まれてインディペンデントな(テレビ局や政府の企画でない)ドキュメンタリーが希少だった20年前と比べ、デジタル・ビデオの簡便性に支えられ、作品数が各国で爆発的に伸びている。テーマやスタイルにも幅が広がり、現実を描く多様性が謳歌されるようになった。アジア各地で上映機会も増えた。

 しかし機材や技術の制約によって集団で作らざるを得なかったかつての時代と比べ、ひとりで撮影現場に立ち、パソコンに向かう現代のドキュメンタリー制作の孤独には弊害もある。ノウハウ本のような技術情報はあふれていても、監督たちと有機的にコミュニケーションするプロのスタッフには替えられない。

 ANDでは、アジア各地の映画祭などでレクチャーとワークショップを企画し、“先輩”監督や技術スタッフによる実践的なサポートを提案している。YIDFF 2007では「音とドキュメンタリー」というテーマで講演会と制作者のためのワークショップを開催。“メッセージを伝えたい”との思いのあまり、視覚情報と言葉にひきずられた作品が多い中、あらためて音響のもつ演出力を再認識してみよう。

(藤岡朝子)


音のマスター・クラス 1

10月9日[火]10:30−12:30 中央公民館4F大会議室
 講師:ペドロ・コスタ(映画監督)

ペドロ・コスタ

YIDFF 2007インターナショナル・コンペティション審査員。

YIDFF 2001で山形市長賞(最優秀賞)を受賞し、その後劇場公開された映画『ヴァンダの部屋』で多くのファンを獲得したペドロ・コスタ監督。大がかりの製作体制と35mmのカメラを起用した前作『骨』での経験を経て、『ヴァンダの部屋』では自分でビデオを回し、友人が録音。最大時でもたった3人のスタッフ編成で「カメラの被写体である人物たちとヒエラルキーをつくらずまったく平等」になれたという。アジアの作り手たちに多い、このような小規模の製作体制と、その中での音についての考え方。自作を通しての〈音響と映画〉論を聞くレクチャー。

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部分引用作品:ヴァンダの部屋(2000)

リスボンのスラムに住むヴァンダ・ドゥアルテの1年。薄い壁の向こうから聞こえる様々な生活音、破壊音、絶え間ないヴァンダの咳。印象的な音響デザインが映像と有機的に作用し、映画世界を立ち上がらせる。

 



音のマスター・クラス 2

10月10日[水]10:30−12:30 中央公民館4F大会議室
 講師:菊池信之(映画音響)

- 菊池信之

ドキュメンタリー、フィクションを縦横にまたぐ音響技師。代表作に『ニッポン国古屋敷村』(1982、小川紳介監督)、『1000年刻みの日時計 ― 牧野村物語』(1986、小川紳介監督)、『書かれた顔』(1995、ダニエル・シュミット監督)、『百年の絶唱』(1998、井土紀州監督)、『ナージャの村』(1997、本橋成一監督)、『TOKYO EYES』(1998、ジャン=ピエール・リモザン監督)、『万華鏡』(1999、河瀨直美監督)、『M/OTHER』 (1999、諏訪敦彦監督)、『SELF AND OTHERS』(2000、佐藤真監督)、『EUREKA』(2001、青山真治監督)、『路地へ ― 中上健次の残したフィルム』(2001、青山真治監督)、『きゃからばあ』(2001、河瀨直美監督)、『H story』(2001、諏訪敦彦監督)、『たった8秒のこの世に、花を。』(2004、稲川方人監督)、『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』(2005、青山真治監督)、『神童』(2007、萩生田宏治監督)、『サッド ヴァケイション』(2007、青山真治監督)、『Young Yakuza』(2007、ジャン=ピエール・リモザン監督)など。

YIDFF 2005の小川紳介賞受賞作『チーズとうじ虫』(加藤治代監督)の製作には、ベテラン・サウンドマン、菊池信之氏が大きく関わっていた。このパーソナル・ドキュメンタリーは、映画美学校の学生作品としてスタートし、「これは音の映画」との佐藤真監督のアドバイスの元、仕上げ用の奨学金を得て菊池氏の参加となった。監督とのディスカッション、細やかな整音、新たな音の収録を経て、音の演出力を強化した新版が完成した。作品の具体的な映像と音を検証しながら、音の構成、ミックスされた音の素材、なぜそれが使われたのか、など『チーズとうじ虫』を詳細に解剖していくレクチャー。


部分引用作品:チーズとうじ虫(2005)

監督:加藤治代

末期ガンの母親の看病のために故郷に帰ってきた監督は、病気が治る奇跡を信じ、撮影を開始。カメラに収められたのは、限られた命を精一杯生きる母と、高齢の祖母との何気ない日常風景。その隅々から、生命と家族への情が浮かび上がる。

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音のワークショップ

10月9日[火]・10日[水]14:00−17:00 東北芸術工科大学 デザイン実習棟B 映像スタジオ
講師:菊池信之ダヴィッド・ヴランケン

- ダヴィッド・ヴランケン

映画学校で現場録音を中心に学習し、卒業後は音響デザインなど仕上げ過程を中心に活動する。大規模映画と低予算自主映画に交互に参加しながら、ふたつの世界の違いを堪能する。『殯の森』(2007、河瀨直美監督)の音響構成を担ってから日本に縁をもつ。

アジアの若手ドキュメンタリー制作者、限定10−15人による、「音とドキュメンタリー」を巡るディスカッション・ワークショップ。コーチに菊池信之氏とダヴィッド・ヴランケン氏を迎え、アジアの作り手たちが製作中の映像をケース・スタディとし、部分試写しながら、ドキュメンタリー映画と音響について討議する。

 



AND(アジア・ネットワーク・オブ・ドキュメンタリー)とは?

アジア・ドキュメンタリーの製作・流通を振興する目的で集まった、各地の映画祭関係者による緩やかな連帯組織。韓国のプサン国際映画祭では2006年より「ANDファンド」という製作助成制度を本格的に開始し、15本のドキュメンタリー企画に総額1億3千万ウォンを授与している。プサン映画祭では2006年、ファンド受賞者向けに「映像編集ワークショップ」を開催。タイ短編映画祭2006では佐藤真監督をコーチにタイ若手製作者とのワークショップを主催し、台湾ドキュメンタリー祭2006ではANDについてのパネルディスカッションが行なわれた。今後はマスター・クラスのほか、アジア各地のドキュメンタリーを互いの国で上映する機会を増やし、非営利の上映配給網の構築を目指して活動を続けていく。

http://acf.biff.kr/ . . .

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音の風景

 1985年から20年以上続くNHKの長寿ラジオ番組『音の風景』の中から、山形県で収録されたものを、暗闇の映画館で日替わり上演します。

 ドキュメンタリーの〈製作者〉に音の復権を提案する「ANDプレゼンツ:音とドキュメンタリー」と関連して、映画の〈観客〉にもドキュメンタリーの音のおもしろさに気付いてもらおう、という企画です。

 暗い部屋に坐って耳を澄ましながら、集中してラジオの番組を鑑賞するという非日常の体験に観客をいざないます。現場で収録された音と、最小限のナレーションのみで構成する、たった5分間の番組が、視覚で見るより想像豊かな、五感に訴える山形の旅を演出します。


音の風景
 制作:NHK音響デザイン部

  • 羽黒山の朝 
    1994/収録、構成:小玉孝
  • 山形市 時計塔 
    2001/収録、構成:今井裕、稲葉護
  • 山形村 肘折温泉 
    2002/収録、構成:小玉孝
  • 湯殿山 
    2002/収録、構成:小玉孝
  • 最上川舟下り
    2004/収録、構成:菅野秀典