業界動向
ゲーム業界32社の動向を見る2013年度決算まとめ。戦略の主軸はスマホネイティブアプリ開発に
決算時期の恒例となった感もある記事だが,今回の決算記事では会社のラインナップを変えているので,最初にお知らせしておこう。
まず,アトラスを分離したインデックスを外し,「ローズオンライン」のサービス・開発・運営が移管したことを受けて,フェイスの情報も外している。また,Microsoftについては,部門別のデータが発表されなくなったので記事から外している。携帯端末はともかく,Windowsまでを含んでのコンシューマ向けビジネスの数字(対企業向け以外)ではまったく参考にならない。
代わりにというわけではないが,今回からコロプラとKADOKAWAを追加している。KADOKAWAはこれまでにもゲームを扱ってはいたのだが,ゲーム比率が低く,切り分けも難しいので掲載を見合わせていた。しかし「艦これ」やフロム・ソフトウェアの買収などでゲーム関連企業としても無視できなくなってきているので取り上げてみた次第だ。
なお,ほかにもゲームに関連はするがこれまでの決算記事で扱っていない上場企業はいくつか存在する。例えば,AppleやGoogleが業界的に大きな位置を占めていることは承知しているものの,データからゲーム部分を切り分けられないので掲載を見送っている。また,ヤフーなどはそれなりの商売はしているのだが,決算にゲームの「ゲ」の字も出てこないので掲載は難しい。そのほか,タカラトミーやヤマダ電機など,やはり決算でゲームの話がまったく出てこない数社も同様だ。
毎回のお約束だが,ここでは,2013年4月1日〜2014年3月31日を基準として,各社でそれに準ずる時期の4つの決算短信をもって2013年度として扱っている。各社の決算時期とは四半期の数え方が違う場合がある。また,グラフの縦軸の数字は100万円単位である。
では,2013年度のゲーム業界はどうだったのかを数字で追っていこう。
●ソニー
1283億円の純損失と,全社的にはちょっと危ない感じのソニーだが,グラフから分かるようにゲーム部門の売り上げは上向きだ。当然ながら,これはPlayStation 4によって牽引されたものとなっている。第4四半期にPS4販売に関する費用がまとめて乗せられたためか,ちょっと利益の凹み方の目立つグラフだが,勢い的には今後が期待できる形と言えそうだ。
ゲーム以外のところでは,エレクトロニクス系の5分野(分かりやすく言うと,携帯電話,ゲーム,デジカメ,テレビ,デバイス)のうち,利益を上げているのはデジカメだけという状況だ。2014年度にはテレビ部門が分社化されることが決まっており,エレクトロニクスの不調は継続している。
とはいえ,全社の営業利益ベースではなんとか黒字になっており,昨年比で(黒字かどうかはともかく)利益が下向きになったのはゲームとデバイスくらいのものだ。ゲームは前述のようにPS4発売時の一時的な支出増が原因だ。新ハードのスタート時であれば,売上高が上がっても利益が下がることは不思議ではない。デバイス部門の減益は,主にPS3用LSIの需要減や電池関係の資産減損処理によるものなので,これも理由ははっきりしている。昨年の2000億円を超える営業利益上積み策を考えれば,今年は明らかに改善傾向にあることが分かる。
為替差益が各部門で好影響を与えており,全社的に合計すると1兆円を超える利益を出している。その一方で,トータルの収支となる損益計算書を見るとなぜか92億円の為替差損で終わっているのが謎だ。もし為替状況が悪化していたら,どうなっていたのだろうか。
最近,PS4の中国進出も発表されており,(全社的にどうかはともかく)2014年度もゲーム分野については進展が期待できそうだ。
●任天堂
グラフで見ると,売り上げの目減りが続いている任天堂。利益率が向上したとはいえ,その理由が(利益率の高い)ソフトウェア比率が上がった,つまり(利益率の低い)ハードウェアが相対的に売れてないからというのではちょっと寂しい。
2013年度は,営業利益1000億円というコミットメントが示されていた。ここ5年ほどずっと下降線をたどっていた販売費関連が大きく伸びているので,それなりの販促活動は行われたようだが,国内では目立った販促が行われた記憶がないので,おそらく海外を中心としたテコ入れがされたのだろう。
昨年までは決算発表時の社長説明で,ほぼ必ず地域セグメントでの状況と市場動向が解説されていたが,2013年度に関しては4回の説明会で地域セグメントの話がまったくなくなっていた。配布資料からも地域比較は消えている。かろうじて残っていた2013年度の外貨建て売り上げを見ると,欧米ともに前年比で約27%のマイナスとなっている。その前年自体が前々年比で約11%(米),25%(欧)の減少だったので,海外市場は業績悪化が進んでいる。
任天堂では,3期連続の営業赤字に終わったことを重く見て,2014年度についてはその解消を第一とした経営方針が示されている。不振の一因となっているWii Uについては,年間360万台の販売を見込んでいる。すでに今年度分でほぼ原価処理されており,ハード販売の逆ザヤは発生しない見通しだ。ソフトについては,「マリオカート8」と「大乱闘スマッシュブラザーズ for Wii U」の看板タイトルで収益確保を目指す。会社の基礎体力が桁違いなので,この規模の赤字でも重大な問題になることはないだろうだが,3年も状況悪化が続くというのは決してよいことではない。2014年度は,キラーソフトの準備もでき,ハード販売でも赤字が出ないという,「あとは売るだけ」的な体制がようやく整う都市でもあり,巻き返しに期待したいところだ。
岩田氏の説明では,「任天堂らしい収益」が出せるのは2016年度くらいになるとのこと。3DS発売から6年,Wii U発売から4年ほど経過していることになるが,長めになってきたゲームプラットフォームのライフサイクルが7,8年程度だとしても,少々時間がかかりすぎかもしれない(Wii→Wii U,DS→3DSはともに約6年)。
また,海外展開では,新興国向けの製品を投入する意向が表明されている。現状のWii Uなどよりも簡素で低価格なプラットフォームが用意されるようだ。また,ソニーが参入を表明した中国市場については,現在研究中であるとのこと。
●バンダイナムコホールディングス
安定した推移が見られるバンダイナムコの売り上げグラフだが,利益のほうを見ると第4四半期だけ凹んでいる。これは一部事業整理に関わる支出や開発投資によるものと思われる。もともと今年度は充電の年と位置づけられていたようで,新スタジオの開設やアプリ関係の緊急投資なども行われている。
トピックとしては,第4四半期になってようやくネットワーク系コンテンツが分離された数字が出てくるようになった。ネットワークコンテンツの通期売り上げは684億円で,前年比で92億円の伸びを見せている。内訳はソーシャルゲームが465億円,オンラインゲームとアプリが220億円となっている。ソーシャルゲームについては今後落ち着いていくとの見通しから,来年度の売り上げ見込みは350億円と控えめな数字,アプリについては戦略的なタイトルが投下されるとのことで,310億円の売り上げが見込まれている。
●セガサミーホールディングス
本業である遊技場事業のほうは製品のリリース時期で売り上げが大きく変動しているのだが,コンシューマゲーム事業については安定した動きになってきている。パッケージゲームの売り上げがやや低下気味だが,それをオンラインゲームやアプリで支えている状況だ。セガによるアトラス取得は第2四半期に行われたのだが,数字上,とくに動きはない。
第4四半期の利益が落ち込んでいる理由はよく分からない。昨年比でも売り上げは増えているのだが,第3四半期から販管費が増えて営業利益を下げている。昨年比で増えた販管費の項目は,広告宣伝費,給与,研究開発費などとなっており,期末に合わせて投資方向で調整が入ったのだろう。
第2四半期には不具合対応費用として3億4700万円の特別損失が計上されている。おそらくPSO2のトラブルに関するものと思われるのだが,通年での集計からは姿を消しているのがちょっと不思議だ。
●コナミ
毎年時期を分けて看板タイトルを出してくるので変動の少ないコナミの決算だが,全社的にもゲーム部門を見ても,売り上げが全体的に縮小傾向なのが少し気になる。
売り上げ本数をグラフにしてみるとよく分かるのだが,とくに第1四半期の売り上げが伸びていないようだ。この時期にリリースされたコンシューマゲームは,オンラインゲームの「パワプロスタジアム」(PS3/PS Vita)のみであり,パッケージ売り上げにはカウントされていないのではないかと思われる。
リリース時期をよく調整しているコナミとしては珍しいのだが,ちょうど谷間にあたる時期になってしまったようだ。ゲームメーカーではありがちなバラつきであるものの,前後の四半期の売り上げを見ても,この時期の凹みに相当する部分が抜けているように思われるのはちょっと気になるところだ。
ゲーム部門の売上高のグラフと売り上げ本数のグラフの形を見比べると,2012年度はかなり似た形になっているものの,2013年度はまったく異なる。これはソーシャルゲームやカードゲームなどの売り上げで底上げされているためなのだが,パッケージゲームの占める割合はかなり減ってきているように思われる。なお,ソーシャルゲームやスマホアプリは好調とされているのだが,その数字を示す資料は発表されていない。
●カプコン
グラフからも第2四半期の「モンスターハンター4」発売以降に売り上げを大きく伸ばしていることが分かる。利益面でも微増しているが,その主要因は,パチスロ機が好調のためだそうだ。
一方で,Windows,PS3,Wii U,Xbox 360で多機種展開した「モンスターハンターフロンティアG」は想定を下回る結果になり,利益面ではモバイルコンテンツなどが不調で足を引っ張る形になっている。第4四半期の利益が落ち込んでいるのは,これに対応するための事業構造改善費用という名目で55億円の特別損失を計上しているからだ。モバイルコンテンツ開発のテコ入れが行われた模様だ。ちなみに,同様の事業構想改善費用は昨年度も同時期に計上されており,金額は69億円で開発体制の見直しなどに使用されている。
スマートフォン向けコンテンツでは割と早くから独自の動きを見せていたカプコンだが,大きな成果には結びついていない。2013年度には,アプリを大挙して発表するなどの動きも見せていたが,大手ゲーム会社としてはモバイル展開で出遅れている印象は否めない。テコ入れの結果がどう出てくるかに期待したい。
●コーエーテクモホールディングス
毎年期末にドカンと大型タイトルを出すことが多いコーエーなのだが,今年は突出した山ではなくなり,階段状のグラフとなっている。各四半期ごとにある程度大きめのタイトルが数本ずつ投入されているのだが,1本1本の売り上げ本数は減少傾向なのかもしれない。それでも,「討鬼伝」など新規IPの立ち上げにも成功しており,テクモやガスト系も含めた幅広いラインナップを揃えているのが強みだろうか。モバイル関係も好調で,利益の底上げにつながっているようだ。
全体に利益率も高く,経費削減も進んでおり,4年連続の増益が達成されている。営業外収益も安定して高く,全体的に隙がない。シミュレーションゲームデザイナーが経営してる会社ということに妙に納得してしまう。
●スクウェア・エニックス・ホールディングス
前年は60億円の営業赤字,137億円の純損失を計上したスクウェア・エニックス。今期は,売上高自体は前年と大差ないものの利益率が向上し,赤字状態からは脱している。数字的に見ると2年前の決算に近いのだが,キャッシュフローなどはかなり改善されている。「ファイナルファンタジーXIV:新生エオルゼア」や「ドラゴンクエストモンスターズ スーパーライト」が好調で,当初の予定からは上方修正されている。利益面ではアミューズメント事業の部分が大きく伸びている。「LORD of VERMILION III Ark-cell」「グルーヴコースター」などが好調だったようだ。
とはいえ「スクエニらしい」利益水準にはまだ遠く,巻き返しが期待されるところだ。今後の展開としては,スマートデバイス向けの有力タイトルを投入,アジア地域での展開拡大,海外スタジオの大型オンラインタイトルなどが予定されている。
スマートデバイスへの集中は今年の動きを見ても明らかだが,最近では「FINAL FANTASY AGITO」などもリリースされ,今後も大きなタイトルが続く模様だ。アジア展開については,FFXIVの中国サービスが始まるほか,「乖離性ミリオンアーサー」のアジア展開も決まっている。残る海外産オンラインゲームタイトルだが,これは複数投入されるとのこと。一つはCoDシリーズとしても,残りが気になるところだ。
以上を見ても,パッケージゲームからスマホないしオンラインゲームへのシフト傾向が強いのは明らかだ。現状のゲーム売り上げの割合を見ても,パッケージゲームは全体の半分に縮小し,スマートフォンやオンラインゲームが残り半分を占めるまでになってきている。来期の売り上げ予測は控えめだが,中国展開など読みにくい部分がどうなるかに注目したい。
●日本ファルコム
PS3/PS Vita版「英雄伝説 閃の軌跡」が発売された2013年第2四半期の営業利益は,過去最高を更新している。
一昨年に発売されたアクションRPG「那由多の軌跡」はPSP版だったためか,いま一つ伸びきらなかったが,正規の軌跡シリーズは発売ごとに売り上げを伸ばす人気シリーズとなっている。軌跡シリーズ10年めを迎える今年は,閃の軌跡に続く最新作「英雄伝説 閃の軌跡II」の発売と,アプリプラットフォームへの展開といった記述が見えるので,「空の軌跡」のスマートフォン版(2011年にアエリアがライセンス取得)がようやくお目見えしそうである。とはいえ,来期の売り上げや利益の見込みは控えめだ。今年の結果からほぼ横ばいで,少しだけ色をつけたものになっている。閃の軌跡IIは,前作同様にPS3とPS Vitaで発売されるので,ほぼ同じ売り上げと見ているのだろう。
●マーベラスAQL
全体的に好調のマーベラスAQL。会社合併後のゴタゴタした感じが収まり,非常に安定感のあるグラフとなっている。コンシューマゲームの「ヴァルハラナイツ3」や「閃乱カグラ SHINOVI VERSUS −少女達の証明−」,アーケードゲームでの「ザ・ポケモントレッタ」とモバイルでの「剣と魔法のログレス いにしえの女神」などのヒットが好影響を与えている。
売り上げも営業利益も昨年比で10%以上の成長で,経常利益のところまでは昨年を30%上回る結果を出すも,今期の法人税が支払いが増えた結果,純利益は昨年をやや下回る水準に落ち着いている。
オンラインゲームではタイトルの整理などが行われているが,看板タイトルでもある「ブラウザ三国志」が復調しつつあり,ログレスのヒットでモバイルでの展開も先行きは明るい。アーケードでは「パズドラZ テイマーバトル」に期待がかかるところだ。
●ユークス
2012年度は,まさかのTHQ倒産という大事故に巻き込まれたユークスだが,今期は持ち直してきている感じか。第3四半期に2K Sportsからリリースされた「WWE2K14」はそれなりの収益をもたらしているが,もう一つの柱であったUFCのほうはなくなっており,一時に比べるとかげりが見える。
プロレスゲームなどを主体とした業態は変わらないのだが,ダウンロードゲームをリリースするなど多角化が進められている。また,ユークスは,11万台を売り上げてセガサミー好調の一因ともなっている「パチスロ北斗の拳 転生の章」の開発元でもあり,その関係のロイヤリティ収入も増えている。
●日本一ソフトウェア
2013年で創業20周年を迎えた日本一ソフトウェア。国内6タイトル海外10タイトルを発売し,売り上げと利益を大きく伸ばしている。海外発売タイトルが好調だったこと,「魔女と百騎兵」が好調だったことで2回にわたって業績予想が上方修正されている。まあ,前年度が20周年に向けての下準備でしわ寄せを食っていた感はあるのだが。
特別損失で185億円の大きな減損処理が行われているのだが,これは前年度に清算した子会社の整理に関わるものと思われる。
次年度においては,さすがに今期よりは低めの目標が設定されている。
●トーセ
多少バラつきはあるものの,かなり安定した動きとなったトーセの2013年度。第3四半期の落ち込みは大型案件がずれ込んだことなどによるものだ。
このところ利益率が上がってきているように思われるのだが,出荷(≒受注)タイトル数の推移を見ると,むしろ減少傾向にあることが分かる。まあ,以前は携帯電話(≠スマホ)やDSの小型案件が多かったことなども影響しているのだろうが,全体的に大きな案件の割合が増えてきているようだ。これは3DS初期の案件で内容見直しなどが多く行われて以来の,業界全体の動向ともいえるだろう。
●ブロッコリー
「うたの☆プリンスさまっ♪」シリーズなどが好調で大きく売り上げを伸ばしている。プリンスさまと言われても「?」状態な人も多いかもしれないが,いわゆる乙女ゲームである。男性向けコンテンツも好調とのこと。当初は多くて48億円程度と見積もられていた売上高が,一度62億円に上方修正され,さらに64億円に再度修正のうえで最終的に68億円の着地という大きな上ブレだ。
次期も堅調な推移が見込まれているが,過去の赤字決算による法人税の繰越欠損金が解消し,法人税の支払いで純利益自体は減少が予想されている。
●ドワンゴ
KADOKAWAとの経営統合が発表されたことでも話題のドワンゴは,じわじわ売り上げを伸ばしている印象だ。
ゲーム部門では第3四半期からの伸びは,主にスパイクの「進撃の巨人〜人類最後の翼〜」の好調によるもので,全社的な売り上げ増にも貢献している。2013年第3四半期分からはMAGES.が連結に加わったが,新作はリリースされていないため,現状では数字にはあまり関与していないようだ。
●エイティング
受託開発とソーシャルゲームの運営を行うエイティング。公開されている情報が少ないので売り上げ配分などは不明だ。スマートフォン用のミドルウェアを自社開発して,開発効率を上げているという。
グラフを見る限りそこそこ好調そうな雰囲気なのだが,予定していた大規模案件がいくつか流れ,今期(この記事の表記とは2四半期ずれている)の業績見込みが下方修正されている。別に経営者に責任はないと思うのだが,役員報酬は30%カットだそうだ。1000億円超の大赤字なのに役員にボーナスを出そうとしてた会社もあるというのに。
●ハーツユナイテッドグループ
ハーツユナイテッドグループは,ゲームのデバッグ業務を主とするデジタルハーツと系列会社群のことだが,2013年10月から持ち株会社制に移行している。4Gamer.netを運営するAetasもその傘下である。
デバッグ事業が好調で,とくに第2四半期から大きな伸びを見せている。全プラットフォームで伸びているが,さらに伸びが大きいのはスマートフォンアプリ関係だ。第3四半期にはパチンコ・パチスロ分野が伸びている。デバッグの需要は広がりつつあるようだ。
4Gamerのメディア事業を筆頭に,デバッグ事業以外にも手を広げている。今年度だと新たにセキュリティサービスも始めていて,なぜか自民党から受注を取っていたりする。グループとしては3年後にはM&Aなども含めて売上高300億円を目指すとのこと。メディア事業の予定を見ると,3年後に現在の2倍強の売り上げが想定されている。何をすれば2倍になるんだろうか(M&A?)。
●ケイブ
かつてはソーシャルゲームで稼いでコンシューマゲームを作るという,業界多角化のモデルケースのようだったケイブだが,スマートフォンへの移行で苦戦している。売り上げは目減り傾向にあり,先行開発費が投入されているため,営業赤字状態が続いている。
売り上げの約半分はブラウザゲーム,3割がPCオンラインゲーム(「真・女神転生IMAGINE」)で直近の四半期になってようやくスマートフォンネイティブゲームの売り上げが1割を超えたという状況だ。見方を変えると,ようやく開発体制の整備が終わり,最初のスマホ用プロダクトが投入された段階である。ケイブでは,今後四半期ごとに1本のペースで新作を投入し,ヒットタイトルの創出を目指すとしている。
●KADOKAWA
今回から決算記事に加えてみたKADOKAWAは雑誌や書籍,映像分野にゲームと幅広く展開する巨大グループなのだが,事業は単一セグメントなのだそうで,決算では大まかな分類の数字しか示されていないからだ。ゲーム部門が含まれると思われるネット・デジタル関連(過去にセグメント分けされていた時期には,ゲームは「その他事業」に分類されていた)は昨年比30%の伸びを示している。主に電子書籍が好調だったためらしい。
フロム・ソフトウェアが統合され,ドワンゴが経営統合される次年度はもうちょっと細分化されることに期待したい。
●ガンホー・オンライン・エンターテイメント
さすがに伸びが止まってきたかと思えば,まだ伸びシロを残していたガンホー。2013年後半に伸びが止まった「パズル&ドラゴンズ」の国内月間ユーザー数が最近になってまた伸び始めており,底知れぬ強さを感じさせる。直近4四半期の売上高ではディー・エヌ・エーやスクウェア・エニックス,ネクソンを超える規模になった。4四半期の利益では掲載企業中の最高値になる。
パズドラ一強体制ではあるが,「ケリ姫スイーツ」も800万DLを記録しており,新たなIPとして立ち上がりつつある。今後は「パズル&ドラゴンズW」などでパズドラ内の横方向への展開を行いつつ,ドラゴンボールや聖闘士星矢などとの大型コラボで収益を上げていく(関連記事)。まだしばらくは,この勢いが続きそうだ。
●ネクソン
中国・韓国でのオンラインゲームの売り上げが予想以上となったため,全体に大きな伸びとなったネクソンの決算。グラフに表れた第3四半期の凹みについては,NDOORSの“のれん代”などの減損のためとされているが,さらに中国・韓国で売り上げが落ち込み,税金が60億円ほど上がったことなどが要因と思われる。
次期については,残念ながら日本でのPCオンラインゲームで大型タイトルは予定されていないとのこと。gloopsなどによるネイティブアプリ開発に注力する模様だ。
韓国では「メイプルストーリー2」とNeopleによる「攻殻機動隊」が2014年後半に投入される見込みだ。モバイルゲームについては,元devCATの開発リーダーによる「野生の地:Durango」が発表されているほか(関連記事),GameHiによるタイトルなども用意されているという。
●アエリア
海外でのオンラインゲーム運営を行っていたAeria Games & Entertainment(AGGP)を手放したことで,ずいぶん身軽になったアエリア。データサービス事業を主体とし,オンラインゲーム運営を行っている。
グラフを見ると赤字が目立つが,とくに固定資産の減損処理とAGGPに対する貸倒引当金で第3四半期に大きなマイナスが乗っている。この貸倒引当金は直近の四半期に戻入されているので,売上高を上回る純利益という不思議な構図が見られることになった。
最近はスマートフォンアプリに力を入れており,数年前から開発を進めていたタイトルが少しずつリリースされてきている。現状は先行投資で開発を進めているところのようだが,今後の展開に注目したい。
●ベクター
グラフで見ても売り上げが低下し,全四半期で赤字となっているベクターの決算。情報流出騒動の影響が大きかった2012年度に比べれば赤字額が減っているものの,勢いは取り戻せていない。ソフトウェア販売はWindows XP終了時の駆け込み需要で多少は売り上げを増やしたものの,全体的な縮小傾向は続いている。オンラインゲームはクライアント型の新作を2本投入したものの,「デーモンハンティング」は早々に終了。次期での赤字が見込まれているタイトルの減損処理が行われて第4四半期の損失を拡大させている。今後力を入れていくというスマホアプリについては,KPIが想定を下回り,低収益に留まっている。
●サイバーステップ
自社開発タイトルの多国展開を進めるサイバーステップは,新作MMORPG「鬼斬」でPS4に参入し,マルチプラットフォーム化も展開している。PS4鬼斬は,日本でのPS4ローンチタイトルの一角でもあり,マルチプラットフォーム化に注力されていることがうかがえる。
2013年度は,海外からのロイヤリティ売り上げが減少する一方,自社売り上げが好調で安定した利益をあげている。とくにPS4版鬼斬が発売された第4四半期の売り上げ利益が伸びている。鬼斬は,2014年中盤に北米での展開と2014年後半でのアジア各国,欧州,ブラジルでの展開が決まっている。
●ガーラ
昨年度は海外オンラインゲーム運営の売却やサービス移管など,大規模な構造改革を進めたガーラ。今期も「継続企業の前提に関する重要事象等」という項目で注意を促しているが,ビジネス規模はずいぶんスリムになったものの,赤字規模はだんだん縮小している。ガーラではスマホアプリの展開に注力しており,すでにいくつかのアプリがリリースされている。現在100%子会社のGala Labによる「Dungeon & Golf」が開発されているという。スマホアプリの展開が軌道に乗るかどうかに注目したい。
●ASJ
サーバーホスティング事業を軸にオンラインゲームなども展開しているASJ。基本的にはきわめて安定した売り上げの会社で,売上高の推移を見てもまったく平穏なのだが,ソフトウェア減価償却費の増加により,事業内容を見直し,第4四半期分に減損処理が行われている。こんな手堅い会社でも,たまにはなにかあるらしい。
2013年度のゲームについては,定評ある「時空覇王伝」のシステムを使った萌え系シミュレーションゲーム「アマガル−アーマードガールズ−〜時空覇王伝外伝〜」のサービスを開始した。推移などについては,ゲーム関係の情報は公開されていないので詳細は不明である。
●サイバーエージェント
ネット広告大手だが,Cygamesをはじめとしたゲーム事業も手がけるサイバーエージェント。ゲーム事業そのものは前年比で伸びているわけではないが,全社的にはAmeba事業と広告事業が好調で右肩上がりの成長を続けている。
ゲーム・メディア事業で,スマートフォン用ゲームの売り上げの内訳がブラウザ/ネイティブ別の売上高で公開されるようになったのだが,過去のメディア事業やASP事業の数字とうまく適合しないので,どういう配分のものかは不明だ。PCゲームやゲーム内広告などは「その他」に分類されている。その他部分とスマホのブラウザ型ソーシャルゲームが縮小傾向だったところに,ネイティブアプリがようやく伸びてきたという展開だ。
●ブロードメディア
本来は放送番組や映像コンテンツ制作/配信などを主体とした会社だが,クラウドゲームG-Clusterも展開している。2013年は映像制作やネットワーク販売の不調で全体に売上高が減少している。G-Clusterの所属するコンテンツ部門は売り上げを伸ばしているものの,G-Clusterのプロモーション費用などがかさんで減益となっている。
クラウドゲーム事業は,当初の想定を下回る販売数となっている。NTTぷららによるひかりTVゲームは好調とのことだが,2か月分の無料期間があることなどから売り上げに反映されるのが遅れている。シャープとLG電子からG-Cluster内蔵テレビも発売されたことで,今後の普及が期待されている。端末としては,数百万台の出荷が見込まれているとのこと。大型タイトルとしては,KONAMIの「ワールドサッカー ウイニングイレブン2014」が投入される予定だという。
●Klab
決算時期を変更したため「第5四半期」とかいう耳慣れない単語が飛び交うKlabの今期決算。グラフを見る限り,ネイティブへの移行で停滞していた売り上げが伸び始めている。しかし計画に対しては遅延が多く,リリース本数も少なくなっているとのこと。遅れがちだった開発状況を打開するために外注費がかさみ,利益率を大きく落としている。
(グラフ上の)第3四半期で大きく利益を落としているが,これは13億円規模の事業構造改善費用が計上されているため。また,第4四半期の売り上げが落ちているのは,利益率の悪いゲームを終了しているためだ。そのほか,大幅な人員削減などでコストカットを進めている。
●コロプラ
「クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ」で知られるコロプラは,今期から東証一部に昇格し,スマホゲームメーカーのなかでも躍進が目覚ましい会社である。もともとは位置情報を使ったアプリを得意としているのだが,最近ではゲームのヒットが続いている。
ガンホーのパズドラがユーザーの持続率を重視した運営をしているというのは比較的知られた話だが,コロプラでもMAU(月間アクティブユーザー数)やDAU(日次アクティブユーザー数),そしてQAU(四半期アクティブユーザー数)といったユーザー数を指標にした運営が行われている。QAUというのは聞き慣れない用語だが,これはダウンロード後の1週間を除いて,3か月間にアクセスした人数を示している。ダウンロードから1週間でとりあえず触ってみただけの人はほぼ除外されるので,低頻度ながらある程度継続的にプレイする人の人数を把握できるという。
黒猫ではユーザー単価を意識的に下げ,課金率を上げている。「蒼の三国志」はDAUを上げ同時に課金率も上げ,高水準の収益で安定している。3月リリースの「ほしの島のにゃんこ」は,課金率は低いものの,すでに黒猫に次ぐDAUを獲得しており,今後の飛躍が期待される。
●ディー・エヌ・エー
ゆるやかに下降線をたどっているディー・エヌ・エーの今期決算。ネイティブアプリへのシフトがうまくいっていないことが主な原因だ。次期においても収益の減少傾向はしばらく続くと予想されている。同社を支えていたブラウザタイプのソーシャルゲームのライフサイクルが終わりかけているからか,事業建て直しにアプリでのヒット作は絶対条件とされている。一時の勢いこそないものの,利益率はまだまだ相当に高い。これが続くうちに巻き返しに成功するかどうかに注目か。
欧米および中国などでの海外展開では赤字が続いている。Mobaコインの消費低減は緩やかになってきたとのこと。国内市場の頭打ちは見えていたので,海外進出こそが突破口となるはずだったのだが,こちらもネイティブアプリのヒット作が出ないと展開が難しいのかもしれない。
●グリー
小幅ながら縮小傾向が止まらないグリー。同社を支えていたフィーチャーフォンでの売り上げが低減傾向にあるなか,スマートフォンの伸びが追いついていない。コイン消費のグラフを見ると,2013年度はフィーチャーフォン版からスマートフォン版へ順当に移行しているような傾向が見られたのだが,2014年度になると,スマートフォンでは,ゲームをするのにこのようなプラットフォームを利用する必要がないことに気づいた人が増えているように思われる。構成比でネイティブゲームの比率が上がっているが,ネイティブゲームが伸びているのではなく,それ以外の部分が縮んでいるという印象である。
落ち込んでいた利益が年度後半に回復しているのは,主に広告費などのコストカットが奏功したものだそうだ。(初出時Amebaとの混同がありました。お詫びいたします)
海外展開では,カナダおよび韓国での四半期黒字を達成しており,多少は明るい材料となっている。現状の海外での売り上げは,四半期で7000万ドル(約70億円)程度の規模だ。
●ミクシィ
売上高は前年よりやや低下,利益では若干の赤字で着地したミクシィの決算なのだが,グラフを見ると目を疑うような展開になっている(何度も資料を確認してしまった)。
第4四半期の売り上げが伸びている要因は,ズバリ「モンスターストライク」のヒットによるものだ。結婚支援事業が新たに連結されたというのも貢献しているが,売り上げの半分はモンストによるものと思っていいだろう。スマホでゲームをする人ならおそらくご存じのように,記事執筆時点でモンストは売り上げランキングでiOS,Androidともにパズドラに次ぐ2位の位置を占めている。利用者は600万人を突破し,いまなお急角度で伸び続けている。ガンホーもそうだが,アプリ1本で大化けしてしまうというのがスマートフォン市場の怖いところだ。
モンストは台湾でのサービスが始まり,中国での展開も決まっている。日本で大人気のパズドラも海外では難しすぎると敬遠されがちだという。モンストのゲーム内容は直感的で分かりやすいので,その点では海外での展開にも期待できそうだが,ある程度人が集まる環境でないとゲームが成り立たないという側面も持っている。海外での評価が気になるところだ。
「スマートフォンのネイティブアプリに力を入れる」というのは,コンシューマ・オンラインなどを問わずほぼ全社の基本方針となっている感がある(ソニー・任天堂などを除く)。実際のところ,成功例であるガンホーの躍進は目覚しく,ソニー全社の年間営業利益よりもガンホーの1四半期分のほうが大きいというのはインパクトがある。そして,パズドラに続く成功例として,ミクシィのモンストが登場し,これもまたインパクトのある展開を見せている。
ホームラン狙いもいかがなものかという気はするが,「最初にバックスクリーンに飛び込んだら,その時点でシーズン優勝が確定です」というルールだったら野球の戦術も当然変わるだろう。ナンバーワンを目指すのは厳しいかもしれないが,パズドラの10分の1の利益でも普通の会社なら左団扇なのだ。
とはいえ,大ヒット作が100本出てくるといったことは市場規模からして考えにくく,「ブルーオーシャン」的においしいタイトルは,同時期には10本程度が並ぶのがせいぜいではないだろうか。また,ソーシャルゲームでブルーオーシャンを手にしていた会社の凋落にも目を向けるべきだろう。ソーシャルゲームはライフサイクルが短いという言葉を聴くこともあるが,大当たりをつかんだあとで持続させる努力をしていたところが多いとは思えない。焼き畑農業の効率を追求することにあまり未来はない。その点,ガンホー,コロプラといった会社の運営方針は範とされるべきだろう。
景気のよい話が出てくるのは悪いことではないのだが,それだけ強い吸引力を持つゲーム(およびその環境)が出てくるということは,これまでのあり方のゲームにとってはマイナス要因となる可能性もある。このようなことが起きている要因は,スマートフォンの普及によるライフスタイルの変化にある。スマートフォンの発展とともに,ゲーム機(とくに携帯型)は存在意義を問われることになるかもしれない。こういった動きが一時的なものであるのか,業界の大きな転機であるのかを見極めていくことが重要になるだろう。
コンシューマゲーム機も新世代に突入する2014年度の展開にも注目しよう。
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