インタビュー
社会に全力で立ち向かいたい人のための,PS3「WHITE ALBUM2」インタビュー。シナリオ・丸戸史明氏,原画・なかむらたけし氏に聞く,その思惑
1997年にLeafから発売された前作「WHITE ALBUM」は,繊細な恋愛模様と濃厚な感情を余すところなく描き切ったことで,浮気や三角関係を取り上げた美少女ゲームの古典として,多くの支持を集める作品である。それが,10年以上の時を経て私達の元へ帰ってくることを,いったい誰が想像し得ただろう。
ノベルゲームの王道ともいえる作りの中に,圧倒的な分量と超高密度のドラマを組み込むことで,正面からプレイヤーの期待に応えた同作品が,丸戸氏自身の手による追加シナリオ,なかむら氏の手がける追加CGなどを盛り込んで,より幅広い層に向けた,コンシューマ版として戻ってきたのだ。
PC版が発売されるやいなやネット上で大きな話題となり,美少女ゲームというジャンルにおいて,2012年を代表するタイトル(※PC版の発売自体は2011年)となった本作の魅力とは,いったい何なのか。その企画の成り立ちから,作品に込められた想いまで,余すところなく聞き出すべく,アクアプラス・東京開発室にて丸戸・なかむら両氏にお話をうかがった。
※インタビュー中には,本編についてのネタバレがあります。未プレイの方は,本編を終えた後に読まれる事をオススメします。
■プロローグ
峰城大付属の3年生である北原春希(きたはら はるき)は,学生時代最後の思い出を作るために軽音楽同好会に入会する。足りないメンバーを補充してバンドを完成させるために春希は,ピアノの天才でありながら,不良として後ろ指を指される冬馬かずさ(とうま かずさ),学園のアイドルである小木曽雪菜(おぎそ せつな)を仲間に加える。さまざまな困難を乗り越え,3人は学園祭でのライブを成功させるが,それはせつない恋愛物語の始まりを意味していた――。
「WHITE ALBUM2 幸せの向こう側」公式サイト
社会との“正しい決別”を描く「WHITE ALBUM 2」
4Gamer:
「WHITE ALBUM 2」(以下,「2」)は,丸戸さんの持ち込み企画だということですが,そもそもなぜ「WHITE ALBUM」(以下,「1」)の続編をやろうと思ったのでしょうか。
丸戸氏:
それはもちろん「1」がすごく好きだったからですけど,きっかけは,アクアプラスさんがPlayStation 3版「ティアーズ・トゥ・ティアラ 花冠の大地」を制作したときに,僕が所属しているライター集団「企画屋」に声がかかったことですね。その時に「僕,WHITE ALBUMが好きなんで,そういう話を作ってみたいんすよね」ってぽろっと言ってしまって。そこから話が転がって企画書を書いたら,あっさり通ってしまったという(笑)。
WHITE ALBUMといえば,浮気や三角関係といった,いわゆる美少女ゲームとしては,重く暗いテーマを扱った作品でした。今でこそ一般的な題材になっていますが,あの当時としてはまだ珍しくて,話題を呼んだ作品です。丸戸さんは,「1」のどんなところに魅力を感じたのでしょうか。
丸戸氏:
僕はあの,主人公が状況に流されていく感じが好きだったんですよ。何もできない上に,流れに抗おうともしない。そのどうしようもないやるせなさに,強く惹かれたんです。とくに美咲さん(澤倉美咲/さわくら みさき)のシナリオが好きで,あの話なんてとくにそうじゃないですか。
4Gamer:
「1」といえば美咲さんルートという人は,かなり多いと思います。基本的にどのルートを選んでも三角関係が待っているわけですが,美咲さんのルートでは,そこに主人公の親友までが絡んできて,三角関係ならぬ,四角関係になる。あの泥沼ぶりには,当時誰もが胃を痛くしたはずです(笑)。
丸戸氏:
そうそう。ああいうのは,「とても自分に作れるとは思えない」と思いながらプレイしていましたが,だからこそすごく憧れましたね。どのキャラクターも「駄目なんだけど」って言いながら,ズブズブと深みにハマりこんでいく。クリスマスに主人公が美咲を引き止めるところなんて,最低だなあって思うわけですが,そこがまた最高に良かったりする。
4Gamer:
「自分に作れるとは思えない」というのは,なぜなんですか?
丸戸氏:
僕が書く話は,どうしても主人公が動いちゃうんですよね。だから「2」の主人公――春希の場合は,泥沼の中で「やっぱり状況を変えよう」と考えて,行動に移そうとする。ところが,状況を変えようと頑張った結果,逆に深みにはまってしまう。
4Gamer:
確かに春希は,基本的に受動的だった前作の主人公と比べ,かなりアクティブなキャラクターですよね。恋愛面はともかくとして,学生や社会人としてはかなりの優等生で,信用のおける人物として描かれています。
丸戸氏:
主人公を優等生にしたのは,「キャラクターと社会との関わり」というものをちゃんと描きたい,と思ったがゆえの帰結なんです。というのも,このジャンルのゲームって,理想の恋愛を描くために社会的な部分をスポイルしてしまうというか,そういう傾向があるじゃないですか。
4Gamer:
ああ,高校生の主人公がなぜか一人暮らしだったり,学園とその周辺だけで話が進行したりとか,ありがちですね。
丸戸氏:
ええ。だけど本作にはきちんとしたリアリティを持たせたいと思ったし,そのためには,キャラクターが社会とどう向き合っているのかという描写は,どうしても外せないと思ったんです。
4Gamer:
恋愛ものって,普通は社会をかなぐり捨ててでも女性を選ぶという決断を,ドラマチックに描くものじゃないですか。でも本作の場合は,その前段階の調整を丁寧に描いていて,そこがすごく新鮮に感じました。
丸戸氏:
どんな大恋愛だとしても,やっぱり社会から逃げることはできないし,逃げちゃあかんじゃないですか。思い立ったら電車に突然飛び乗って,海外に逃げてそれでおしまいなんて,その後の彼らの人生を信じることなんてできないですから。
会社を辞めるんだったら,やっぱり二か月前には申し出て引き継ぎをしなくてはならないし,自分の社会人経験に照らし合わせても,そこはどうしても描いておきたかった。だからあの三人は,それまでの生活をかなぐり捨てるためにちゃんと手順を踏んで,ひとつひとつ社会とお別れをしていく。もし「2」にテーマと呼べるものがあるとしたら,まさにここだと思います。
4Gamer:
ああ,すごくよく分かります。本作では,高校生活を描いた「introductory chapter」(以下,IC)からスタートして,大学生編の「closing chapter」(以下,「CC」),そして社会人になったあとの「coda」という三部構成で,その間のまる7年を描いているわけですが,この構成になったのも,社会と関わりを描きたかったからですか。
丸戸氏:
責任転嫁をさせたくなかったんですよね。学生時代の惚れた腫れたなんて,正直大したことじゃないわけです。どんなひどい別れ方をしたって,まあ学生だからということで許されてしまう。でも社会人になったらはそうはいかない。自分と相手のすべてを背負わなきゃいけないし,その責任からは逃げることも許されない。
4Gamer:
子供の頃の犯した過ち――内面の問題を,大人の立場から決着させたかったと。
丸戸氏:
そうですね。子供には決められないが,大人には決められることがある。その代わり責任が生じる。大人ってそういうものじゃないですか。だから主人公は,常に自分で決断を下すことが求められるわけです。例えその決断が,間違った決断であったとしてもね。
- 関連タイトル:
WHITE ALBUM2 幸せの向こう側
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