概要:スマートフォンやタブレットの人気によりPCの果たす役割は小さくなりつつあるが、これにはプログラミング環境を失うという側面もある。一方でプログラマに対するニーズは今後も高く、このギャップを埋めることにビジネスチャンスがある。
hpがPC事業を切り離すという発表は驚きをもって迎えいれられた。なんといってもhpは世界シェアナンバーワンのPCメーカーで、20%弱ものシェアを誇っている。しかし量販店に行けば誰でも、最新のPCが昔では考えられないような安い値段で叩き売られているのを目にすることができる。PCはもはや儲かるビジネスではない。アップルはスマートフォンとコンテンツストアのビジネスへ変質した。デルは次々とITサービス企業を買収している。NECのパソコン部門はレノボとの協業でなんとか道を見出そうとしている。AsustekやAcerといった企業でさえ、タブレット端末など幅広い分野での地位を確立しようと躍起だ。2004年、レノボにPC事業を売却したIBMは先見の明があった。
90年代の終わりごろから、PCはインターネット利用のための必需品として家庭に広く普及した。しかしスマートフォンやタブレットの普及により、インターネット端末としてのPCの果たす役割は縮小しつつある。ウェブサーフィンをして、メールを読んで、ゲームで遊ぶくらいなら、PCはもはや不要だ。学生にiPadを配布する大学なども出てきている。もちろんオフィスワークやプロフェッショナル分野などで今後もPCは利用され続けるだろう。しかしほとんどの家庭や学校にPCがあるという時代は終わりつつあるのではないか。
PCというのは面白いガジェットで、その端末で動かせるソフトウェアを、その端末自身で開発することができる。当然のように思われるかもしれないが、たとえばスマートフォンやタブレットのアプリは、スマートフォンやタブレット上では開発できない。テレビでテレビ番組を作ることはできないし、ゲーム機でゲームソフトを作ることもできない。もちろんスマートフォンやタブレットなどでプログラム環境を整備する動きも出てくるだろうが、ますますリッチになっていくアプリに対応できるとは思いがたい(そういえば私も小学生時代、絵描衛門というファミコンゲームでシューティングゲームを作ったものである)。
これからの子供たちはPCに触れる機会を失う。それはつまり、プログラミング環境に触れる機会を失うということである。インターネットが普及して今日までは、プログラマにとっては天国のような環境だった。ウェブアプリはHTMLやJavaScriptといった比較的シンプルな言語で記述できる。PerlやPHPといったスクリプト言語は入手が簡単で、簡単にはじめることができる。そしてオンラインには多数の教材があり、テンプレートなども整備されており、コミュニティに相談することもできる。ところが、肝心のPCが家庭や学校から消えていく。家にあったPCでなんとなくプログラミングをはじめてみた、というようなことがなくなるのである。
すでに優秀なプログラマは希少な人材となっている。デジタルコンテンツやデジタルメディア、モバイルアプリといったビジネス分野が拡大する一方で、プログラミング環境が失われていけば、プログラマはますます貴重な存在となるだろう。であれば、型通りの授業ではない、実践的なプログラミングを学ぶことが、若者の生き残り策として注目を集めるはずであり、プログラマ道場がビジネスモデルとして成立するはずである。今日、各所で開催されているIT系勉強会は、より組織的・体系的になり、プログラマはギルド的な集団へと回帰していくかもしれない。PCメーカーは「お子さんの将来のために」とうたって、PCを売るべきだろう。
考えられるアイデア
- プログラミングができない人間を、社会が求めるプログラマの水準まで引き上げるための教育、支援
- 優秀なプログラマを確保するための企画、就職・転職サポート、技術認定制度
- ギルド化するプログラマコミュニティの運営、ノウハウ共有
関連情報
- 世界のPCシェア(Wikipedia、Gartner調べ)
- ソフトウェアはすべての産業と仕事を大食いしている(TechCrunch Japan)
写真:donjd2