テーマ:二人分の荷物がやけに重・・・ で始まる文章
創作文章(ショート・ストーリー)を募集します。
ルールははてなキーワード【人力検索かきつばた杯】を参照してください。
締切は11月24日(水)朝9時、締切後に一斉オープンします。
二人分の荷物
二人分の荷物がやけに重くて、俺はキャリーバッグを引く手を変えた。考えてみたら、今日は朝から利き手ばかり使っている。空いた左手を街灯に照らした。黒ずんで見えるのは多分、単に暗いからだけではない。
そもそも部屋には物なんてそんなに多くはなかった。最低限の日用品と着替えと現金と、あと俺ら人間がいなくなればそれでいい。近所付き合いは最初からろくにないし、旅行の前に隣近所に声を掛け合うような時代でもない。例え見掛けられたとしたって、ああ旅行にでも行くのだな、羽田から深夜に飛行機が出る時代だからな、と勝手に納得してくれるだろう。俺とアカリはもともと人前でべたべたするような趣味もなかったから、俺が一人で出かけるのもそんなに不審じゃないはずだ。
キャリーバッグを引く手を変えたら、また歩調が早まった。さっきからこんな、自分を納得させるような事ばかり考えている。もう戻れない。故に不安な気持ちは持っていても仕方がない。前に進むしかないのだ。
程なく駅前に着いた。自動改札は狭くて、キャリーバッグを引く向きでは通過する事ができなかった。俺は引くのを諦めて、取っ手を持って半ば無理矢理に自動改札を通った。キャリーバッグの角が自動改札機に当たった。だがその時、ちょうど下りの電車がやって来ていた。多くの乗客とすれ違う。少なくとも駅員の目にはそれほど触れていそうにない。
上りの電車はすぐに来た。乗り込んで、扉が閉まると俺は一息を吐いて、ドアの上の液晶ディスプレイを見るともなく見ていた。失言した政治家がクビになったニュースが無音で流れている。どうやら政治家はミスを回避し続けなければならない職業らしかった。一度でもミスをすると即死のシューティング・ゲームのようだ。しかも、常にラスト一機。俺には向かない。
俺はもう一度、自分の左手を見た。そして、キャリーバッグに目を遣った。深夜の上り電車は意外と混んでいた。みんな本当に、こんな自分とは関係のなさそうなニュースに関心があるのだろうか。
電車はターミナル駅に到着した。俺はまた歩き出して、JRに乗り換えた。歩き出すとキャリーバッグは再び重くなった。それはある意味で当然だ。これはただの旅行じゃない。いくら小柄だと言っても、計量してみれば総計60kgぐらいはあるだろう。しかし、それだとしても少し重すぎる。俺は再び、持ち手を左手に変えた。感覚としては60kgの倍はありそうだ。キャスター付きとは言え、重い。
「全財産つめた鞄が軽くてステキでしょ?」ってフレーズの曲を急に思い出した。あれは確か俺が大学1年で上京した時の曲だ。あの時は本当に全財産を詰めた鞄を両手で持つ事ができた。それから就職して、3年前にアカリと結婚して、どのタイミングでこんなに「全財産」が増えたのかよく分からない。今このキャリーバッグに入っているのは全財産のほんの一部だったはずなのに、それでもなおこんなに重い。こんなにしがらみが多い。俺はしがらみを断ち切ってしまいたくてこうして歩いているのに、これではまるで(キャリーバッグではなく)しがらみを引いて歩いているようだった。
開けてみようか。
そんな感情が一瞬だけ光る。
俺は臆病だ。どうせそんな事はしない。けれど、どこまでも手放さずにいるようだと、いずれ足が付いてしまうだろう。それに、俺は左利きだった。俺たちの身の回りで、なぜか左利きは俺だけだった。見る人が見れば、多分すぐに分かってしまうのだろう。
それにしても、どうしてこんなに重いのだろう。何か、予想していないものが入っているのだろうか。
開けるならどう考えたって家の近くの方がよかった。あんな各駅停車しか止まらない様な住宅街だ。ここより人通りだって少なかった。だが俺は既に京急のホームに背を向けて、品川駅の喧噪の中に暗がりを探していた。
品川は初めてだったが、駅前なのに本当に誰も通らないスポットは、不思議とすぐに見つかった。改札を出て、コンコースの階段を下るとデッドスペースがあった。俺は周りを再び確認してから、キャリーバッグのダイアルをアカリの誕生日に合わせた。そして、そっと開いた。
血糊が剥がれる音がした。匂いは意外にない。ほの暗い光に照らされたアカリの顔は、まるで眠っているようだった。そしてなぜだかずっと若く見えた。
不意に、アカリの傍らにもう一人の人物がいる事に気づいた。重さの原因がやっと分かった。
3年前の状態で止まったままの、俺自身の死体があった。
俺がずっと引きずっていたのは、しがらみではなく未練だったのか。
そしてずっと探していたのは、暗がりではなくてきっかけだったのか。
俺は今日、運んできたのは一人分だとずっと思っていた。だが本当は二人分だと、最初から分かっていたのではないのか。
二人分の荷物がやけに重・・・
と思ったら1人がいつの間にか荷物と一緒に入ってた・・・
しかも寝ていたので歩かせられない・・・
って人の下に金庫も・・・
もうみないにしよう・・・
そしたら・・・後ろに・・・ あああああああああああ!!!
岩が落ちてよっかかってる・・・
そして崖から落ちた。
そこで目が覚めた・・・
よかった 夢で・・・
END
一応設定を。
この人は超人です。
そしてずーっと前だけ見てました。
歩いてるのは下り坂の山道です。
歩いてるのは午後11時です。
回答ありがとうございます。(以降の方へのお礼もここに含めます)
先に設定を読んでしまい、超人といえばキン肉マンしか思いつかず、岩といえばマウンテン、
というおっさんの先入観(頭の固さ)が邪魔して、お話の世界がうまく思い描けなかったです。
金庫、「もうみない(こと?)にしよう」、下り坂?、11時あたりのキーワードからちゃんと
イメージを想起されることができたらもう少し楽しめたのでしょうけど。
そういう意味では、字数も余ってますのでよほどの意図、趣向が無ければ作品中で設定に触れるか
匂わせたほうが良かったかも知れません。
荷物の重さの解釈としてもう一人が入っていたという目の付け所と夢だったという点には感心しました。
一言質問:超人ってゆでたまごと関係ありますか?
「二人分の荷物がやけに重いな…。」と言った途端、
「だって、これからは三人分、背負うんだもんね。パパ。」と
妻がにっこりと笑って言った。
「お、おまえ…!」
それから半年…。
「おめでとうございます。元気な、男の六つ子の赤ちゃん達ですよ。
母子ともに健康です。これからは、お父さんですね。」
検診の時から知ってはいたが、
休みの少ない勤務医がいきなり大家族になってしまった。
子供の世話をお嬢様育ちの妻に任せきりでは大変なので、
はてなで質問して、スーパーナニーと評判の子守りを探して
月〜金と雇うことにした。
最初は両親に子守りを頼もうかとも思ったが、
父がすすめた一郎、次郎…というおそ松くんの様に安易な命名案を
ことごとく却下したことがきっかけで、少々親子対立があり、
孫の姿を充分に堪能した後は、二人してご近所の老人会の皆さんと
エーゲ海クルーズの旅に行ってしまった。
確かに親の自己満足で、全員に凝った和洋折衷の名前を付けたものの、
誰が誰だか混乱して、よく名前を間違える。
それぞれの洋服に名前のワッペンを縫い付けて区別しているほどである。
Tom (十夢)・Ken (健)・Jo(丈)・Ray(玲)・Leon(伶音)・Jin(神)…
妻いわく、国際社会に向けての、インターナショナルな名前である。
…とはいえ、うちの名字は、山田である。
まだインターン上がりの病院勤務のため、時には救急も受け持ち、
ろくな睡眠不足もないというのに、家に帰れば子供のうちの一人は
絶対に泣き止まず、一人が泣くとみんなして夜泣き、
しょっちゅうお乳か何かをのどにつっかえては
背中を叩いてやらねばならぬ子もいた。
おむつのゴミの量も半端ではなく、ゴミ収集車を
車で次の回収先へと追いかけてまでして
毎回持って行ってもらわないと、置き場がないほどであった。
一方で、通いで来てくれるスーパーナニーと妻は、
赤ちゃんからの幼児英才教育だと言って、
ディズニーの英語の歌を常にかけているため、
シンデレラが小鳥さんと一緒に歌う曲が頭から離れなくなり、
患者のカルテを書きながら無意識に口ずさんでしまうのであった。
「先生、お疲れのご様子ですが、幸せそうですよ。
陽気そうにディズニーの歌なんか歌っちゃって。」
看護婦の察する状況とは少し違うが、
ともあれ、賑やかで楽しい我が家ではある。
そんなある日…。
ピーきゃーきゃーぎゃーわあああああああん!!!
ンどたんばたんきゃきゃきゃびええええええんん!!!
ポーわーんわーんわあああああああああんぎゃあああああ!!!
ンだだだだどどどがしゃばりんきえ〜んえ〜んえ〜ん…!!!
いつもの様に陽気な我が家に、ひっそりとドアのチャイムが響き、
何やら宅急便で家族八人連名の贈答用扱いの大きな荷物が届いた。
「なんだか、いくら八人分の荷物とはいえ、妙に重いな…。」
箱には、ペリカン便に訴えられるぞと思うくらい良く似た、
コウノトリ便のような絵が書いてある。
「ま、まさか…!」
<FIN>
始めの3行で目頭がうるうると、、、と思ったら方向転換。ズッコケ。
医者という設定、スーパーナニー、6人の名前の由来、シンデレラの曲あたりは実際深くて
よくわかりませんでした。
そのあたりもあってか、冒頭とラストを繋ぐ中盤のストーリーに中だるみ的な感じを受けてしまいました。
それ以外の構成や読みやすさという点では安定したよい作品だと感じました。
オチなどもほのぼの?(殺伐?)としていて良。少々ベタですが。
一言質問:六つ子の名の由来って、結構伝わりそうなもんですか?
ニ~コニコ動画~、といういつもの音楽。僕は「またかよ」と悪態をついた。
人は、同じことの繰り返しで生きている。新しい事ばかりしていられない。だからと言って、毎日60
分毎に聞かされては、ウンザリだ。僕はブラウザを閉じた。そういえば、そろそろコミケ
の支度をしくてはならない。サークル参加だから、色々準備が必要なのだ。まずは
荷作りから。グッズサークルなので異常に
物が多い。シャツ、手ぬぐい、キーホルダー。冬だけど、Tシャツ
が結構売れる。シャツは柄が良ければ一年中売れる。僕は、品質にも拘るタイプだけど、
やすさも追求している。ワンダーTシャツフェスティバルだったら安くても3000円ぐらいのシャツを1800円で売っている。もう
けなど考えていない。同人だから、商売抜きで、品質に拘れるのだと思う。
にもつを作らなきゃならないのは、実はマジな話で、小説を打ってる場合じゃなかったりする。
重い話をしてすいません。それではマジで倉庫に行ってきます。
読んでいきなりテーマが伝わったのかしらと不安に。途中、不自然な改行に、はたと気づき。
お忙しいのに(どこまで信じればいいものか、、、)わざわざ参加していただけましたか。
そうそう、'ニ' ≠ '二' なので失格です。(あ、忙がしかったんですね。じゃあ変換ミスと
いうことでおまけ。)
一言質問:コミケは成功しましたか?
朝日が昇る前に
二人分の荷物がやけに重かった。
離陸できるかも怪しい所だ。
私は、ヴィクセンに聞いてみた。
「大丈夫か?」
ヴィクセンは、ダッシャーと顔を見合わせた。
「自信ないですねー」
ヴィクセンの言葉に、ダッシャーも
「応援は来ないんですよね?」
と不安げだ。
私は首を横に振ると、ルドルフに尋ねた。
「どう思う?」
ルドルフは赤い鼻を光らせながら、即答した。
「できますよ。子供たちが待っているんですから」
どこまでも楽観的な奴だが、こういう時は頼もしい。
「そうだな。よし、行こうか」
私はソリに乗り込んだ。
東アジアの担当者になるのは、どんなサンタでもできれば避けたいというのが本音だろう。
中でも日本はよろしくない。
仏教徒の国の筈なのだが、クリスマスになるとサンタをあてにする子供が大勢いる。
そのくせ、靴下の近くにクッキーとミルクを置く、という心遣いのできる子はほとんどいないのだ。
まあ、事前に親がプレゼントを買っている子供は対象外なので、実数はあまり多くないのが救いだが、それでも「良い子リスト」には結構な人数がリストアップされている。
「サンタを信じている」と「一年間、良い子でいた」の両方を満たすのが、リストに載る条件だ。
昔は手書きだったので、リストを作るだけで大変な作業だったが、今は IT 化されているので楽になった。
「悪い子」になれば、リストから自動的に削除されるようになったし。
エルフから、今年は日本の担当になったと知らされた時は軽く落ち込んだが、それでも NORAD の相手をするよりはマシか、と「良かった探し」をした。
一日かけて世界一周するだけの、簡単だが退屈なお仕事なのだ。
ところが、クリスマスイブの当日に出てみると、エルフが血相を変えていた。
中国担当のサンタが、新型インフルエンザにかかって寝込んでいるらしい。
どうやら下見に行った先でもらってきたようだ。
おまけに、サンタからうつされて、トナカイも寝込んでいると言う。
中国の分を誰かがカバーしなければならないわけだが、「地理的に東アジア担当で分担という事になりましたので、よろしく」というエルフのご託宣だった。
現場を知らない管理職は気楽なもんだ。
「サンタを信じている」どころかサンタの存在すら知らない子供も多い中国だが、忘れちゃいけない香港・マカオ。
北朝鮮はもともと数が少ないので韓国の担当サンタが受け持っているなど、余裕のあるサンタなんかいないとは言え、非常事態なので仕方がない。
韓国担当と台湾担当の二人に、日本担当の私を加えた三人で三等分したのである。
時差を考えて、日本から始めた。
面積は狭いので楽と言えば楽だが、それでも中国にたどり着いたのは深夜の三時。
はるかに広い中国で全てを配り終わる頃には、夜明けが近かった。
「やれやれ、これで終わりかな」
私はリストを確認した。
「あれ、日本でまだ一人残ってるぞ。おかしいな。中国に来る前にチェックした筈なのに」
「悩んでいる暇はありません。日本に戻りますよ」
ルドルフが言った。
私はソリを方向転換しながら、もう一度リストに目をやった。
「『具覧小山』? 変わった苗字だな。モンゴル系?」
私が呟くと、ヴィクセンが答えた。
「そこまではわかりませんが、お父さんがプレゼントを買う予定になっていたので、最初はリストに載っていなかったようです。ところが、お父さんはガンダムの続編を書くのに忙しくて、プレゼント買うのを忘れたとか」
「そうか。とにかくこれが最後のプレゼント先だ。予備のプレゼントも合わせて、大サービスしてあげよう」
私は、
「ホー、ホー、ホー。メリークリスマス」
と声をあげ、一路日本に向かった。
地平線を白々と染めている太陽と競争しながら。
(了)
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この物語はフィクションであり、実存する人物、トナカイ、妖精、団体、サイト、はてなの ID、その他の固有名詞や人力検索の質問などとは何の関係もありません。
最初に思いついたのは、F-4 という機種番号の女子大生アンドロイドが老人にラブレターを送ったり食事をしたりするお話を透明感のある文章で綴った「二人分の荷物がやけに重・・・」で始まる作品でして、昨日まで頑張ってみたのですが、見事に挫折しましたとさorz
『あ~~ん、もう!』
別件ですが、他の私の質問にいただいた回答にいっそ入れてしまおうかと思ったコメントが
再び復活しました。気を取り直して講評します。
荷物の量ですが2人分か4/3かが微妙です。あと6匹?の存在についてあえて触れなかったのか?
時節ネタを取り入れ、その他各要素の集め方が絶妙です。いわずもがなですが。
ラストは中国から日本に向かっているため、映像化を考えたときに太陽との競争感が表現しづらいのが
残念です。
一言質問:読み手に拾われ無かったネタがあっても納得ずくなんでしょうか?なんか溢れてそうで。
二人分の荷物
二人分の荷物がやけに重くて、俺はキャリーバッグを引く手を変えた。考えてみたら、今日は朝から利き手ばかり使っている。空いた左手を街灯に照らした。黒ずんで見えるのは多分、単に暗いからだけではない。
そもそも部屋には物なんてそんなに多くはなかった。最低限の日用品と着替えと現金と、あと俺ら人間がいなくなればそれでいい。近所付き合いは最初からろくにないし、旅行の前に隣近所に声を掛け合うような時代でもない。例え見掛けられたとしたって、ああ旅行にでも行くのだな、羽田から深夜に飛行機が出る時代だからな、と勝手に納得してくれるだろう。俺とアカリはもともと人前でべたべたするような趣味もなかったから、俺が一人で出かけるのもそんなに不審じゃないはずだ。
キャリーバッグを引く手を変えたら、また歩調が早まった。さっきからこんな、自分を納得させるような事ばかり考えている。もう戻れない。故に不安な気持ちは持っていても仕方がない。前に進むしかないのだ。
程なく駅前に着いた。自動改札は狭くて、キャリーバッグを引く向きでは通過する事ができなかった。俺は引くのを諦めて、取っ手を持って半ば無理矢理に自動改札を通った。キャリーバッグの角が自動改札機に当たった。だがその時、ちょうど下りの電車がやって来ていた。多くの乗客とすれ違う。少なくとも駅員の目にはそれほど触れていそうにない。
上りの電車はすぐに来た。乗り込んで、扉が閉まると俺は一息を吐いて、ドアの上の液晶ディスプレイを見るともなく見ていた。失言した政治家がクビになったニュースが無音で流れている。どうやら政治家はミスを回避し続けなければならない職業らしかった。一度でもミスをすると即死のシューティング・ゲームのようだ。しかも、常にラスト一機。俺には向かない。
俺はもう一度、自分の左手を見た。そして、キャリーバッグに目を遣った。深夜の上り電車は意外と混んでいた。みんな本当に、こんな自分とは関係のなさそうなニュースに関心があるのだろうか。
電車はターミナル駅に到着した。俺はまた歩き出して、JRに乗り換えた。歩き出すとキャリーバッグは再び重くなった。それはある意味で当然だ。これはただの旅行じゃない。いくら小柄だと言っても、計量してみれば総計60kgぐらいはあるだろう。しかし、それだとしても少し重すぎる。俺は再び、持ち手を左手に変えた。感覚としては60kgの倍はありそうだ。キャスター付きとは言え、重い。
「全財産つめた鞄が軽くてステキでしょ?」ってフレーズの曲を急に思い出した。あれは確か俺が大学1年で上京した時の曲だ。あの時は本当に全財産を詰めた鞄を両手で持つ事ができた。それから就職して、3年前にアカリと結婚して、どのタイミングでこんなに「全財産」が増えたのかよく分からない。今このキャリーバッグに入っているのは全財産のほんの一部だったはずなのに、それでもなおこんなに重い。こんなにしがらみが多い。俺はしがらみを断ち切ってしまいたくてこうして歩いているのに、これではまるで(キャリーバッグではなく)しがらみを引いて歩いているようだった。
開けてみようか。
そんな感情が一瞬だけ光る。
俺は臆病だ。どうせそんな事はしない。けれど、どこまでも手放さずにいるようだと、いずれ足が付いてしまうだろう。それに、俺は左利きだった。俺たちの身の回りで、なぜか左利きは俺だけだった。見る人が見れば、多分すぐに分かってしまうのだろう。
それにしても、どうしてこんなに重いのだろう。何か、予想していないものが入っているのだろうか。
開けるならどう考えたって家の近くの方がよかった。あんな各駅停車しか止まらない様な住宅街だ。ここより人通りだって少なかった。だが俺は既に京急のホームに背を向けて、品川駅の喧噪の中に暗がりを探していた。
品川は初めてだったが、駅前なのに本当に誰も通らないスポットは、不思議とすぐに見つかった。改札を出て、コンコースの階段を下るとデッドスペースがあった。俺は周りを再び確認してから、キャリーバッグのダイアルをアカリの誕生日に合わせた。そして、そっと開いた。
血糊が剥がれる音がした。匂いは意外にない。ほの暗い光に照らされたアカリの顔は、まるで眠っているようだった。そしてなぜだかずっと若く見えた。
不意に、アカリの傍らにもう一人の人物がいる事に気づいた。重さの原因がやっと分かった。
3年前の状態で止まったままの、俺自身の死体があった。
俺がずっと引きずっていたのは、しがらみではなく未練だったのか。
そしてずっと探していたのは、暗がりではなくてきっかけだったのか。
俺は今日、運んできたのは一人分だとずっと思っていた。だが本当は二人分だと、最初から分かっていたのではないのか。
深いです。何度も読み返したくなる文章です。
書き手側としてはひとつの回答をお持ちなのかも知れませんが、非常に良い意味で
読み人や読む回数(その都度)によってとらえ方が変わりそうだなと(私の個人的感想)。
また、適度に伏線を張りつつも話はだらだらと進んでいくのですが、そのだらだら感
が見事に消失してるよう(常に続きや、描写が気になる)に感じました。
文字の密度の濃淡を狙ってつけたのでなければ、もう少し改行が多いほうが読みやすくて
助かったのですが、これははてなの回答欄という媒体のせいかも知れませんね。
川本真琴はツボでした。
一言質問:キャラ作ってません、、、よね?
『キミ荷物は持てない』
二人分の荷物がやけに重い。
まだボクの身体では空を飛ぶには重かったらしい。理由は分かっている、余分にキミの荷物を背負っているからだ。
キミの先輩筋には地上の覇者と呼ばれるほどのツワモノがいたそうだけど、ボクはそれを見たことはない。
キミはいつもそれを鼻にかけて随分長い間エラそうにしていたけど、最後にはあのチビにだってナメられたね。
そんなキミも、今はボクが背負っているわずかな荷物しか残せなかったし。おごれるものもひさしからずやってね。
まあ、ボクにとってはキミの荷物はこれでも重過ぎるんで、少しずつ道端に打ち捨てていくと思うけど悪く思わないでくれ。
他のヤツらは知らないけど、ボクにはあの空に舞う使命があるのさ。
そんな骨ばった寂しそうな顔すんなよ。キミらしくないぜ。
ボクはこれから、キミの重い骨から中心を抜いて軽くしたり、余分な脂肪を削って代わりに羽毛を生やしたり、退化した前脚を翼にしたりする。キミの古い形質は文字通り“荷物“でしかない。
バイバイ、サウルス!
キミの荷物は古い地層に埋めていくよ!
ボクが天空の覇者となるために。
参加されないと思ってたら、ぎりぎりでご到着のおふたかた(3人?)には意表をつかれました。
最新(でもないか?)学説に基づくなかなかヒネリの効いた作品ですね。
土台というかバックボーンがしっかりしている点と、シニカルなくだけた文体とがあいまって
爽快に読み進めれました。
(狙ってのことでなく制約があったようですが)話の短さが良いほうに転がってますね。
類としての擬人化は初めてみたかもしれません。(知識、嗜好に偏りあって忘れっぽい私ですが)
難を言えば、読み手を選ぶかも、(読み違えてなければ)骨が中空、羽毛は早い段階で
備えてたかも、「道端に打ち捨てて」が深読みすればちょっと汚らしく感じるぐらいですか。
一言質問:どれだけひねったらひねりたりなくならなくなりますか?
二人分の荷物がやけに重い。それはもはや死んでしまった隊長の分の荷物だった。
この二人分の荷物を引きずり、道らしい道のまったく見られないジャングルで樹木をかきわけながら進む。
「任務を遂げたら泥のように眠ってやる。任務を遂げたら泥のように眠ってやる。任務を遂げたら泥のように眠ってやる。任務を遂げたら……」
まるで壊れたオルゴールのようにブツブツと口のなかで何度も繰り返す。あるいは体力を回復してくれる魔法の呪文か、神仏の加護を得られる念仏のように。
そうしてでも私は自分の意識を支え続けねばならなかった。なぜならば、この荷物を時間通りにそろって届けることに今回の作戦の成否が掛かっているからだ。
「そうだ、その意気だ! 無事届けるまでは死んでも足を止めるんじゃねえぞ!」
肉体の疲労も極限に達しているらしく、耳元で野太い聞き慣れた声が聴こえてくる。どうやら幻聴まで聴こえ始めたようだ。
「どうせならセクシー美女の声がいいのに……」
「ガッハッハ! 贅沢をいうな馬鹿者!」
「……た、隊長!?」
幽霊を見たのは、生まれて初めてだった。
幽霊の荷物運び
「何ですか? 私が任務をやり遂げるか不安で冥府から化けて出てきたってことですか」
「目的地はもうすぐだからその件は心配しとらんよ。それよりもわしの気がかりというのはだな……」
隊長(の幽霊)が気にしているのは、この「荷物」のようだ。
「……まあ、自分が死ぬ原因が何だったのかぐらい確認してから成仏してもよかろうと思ってな」
「そりゃそっすね」
多分、私が死んでも化けて出られるなら確認したくなる代物だろう。私たちはこの「荷物」が一体なんであるかを知らされないまま運ばされているのだから。
「隊長は今回の作戦、どこまで聞いてるんですか?」
「まったく知らされとらんな。「今回の作戦の成否、ひいては我が軍の命運がかかっとるから、死んでも任務をやり遂げろ」の一点張りで、貴様とまったく変わらんよ」
「ずっと考えてたんですけど、それって話としておかしくないですかね」
そう。私はこの任務に疑念を抱いていた。
「うむ、貴様の疑問はわからんでもない。そんな重要な任務なら、なぜ担当が俺たち二人だけなんだ? 上が強調するほどの任務の危険度、重要度と比べてこの人選はあまりに杜撰すぎだわな」
「はい、同感であります」
足を止めることなく私と隊長はこの不可解な「荷物」を見つめる。
「この時間なら十分間に合うでしょうから……少し開けてみます?」
「いいのか?」
「隊長が成仏するためですから……それになによりも、このままずっと隊長に取り憑かれ続けたら私がたまらんですよ」
私と隊長はにやりと笑った。
「ああ、それはわしもたまらんな」
足を止めて、荷物を降ろす。
そして、錠を外して蓋を開けた。
○
「それで中身は何だったんですか!」
部下が迫るように訊ねて来るので、うんざりした表情を作りながら内心でニヤニヤと笑った。
「オイ、本当に聞きたいか? その中身が何だったかを」
「聞きたいであります!」
必死に懇願されると却って焦らしたくなるのが人間心理だ。それにこのおちは秘密にしておく価値などない。なぜならば。
「安心しろ。お前さんは、これから数時間後に中身を知ることができるんだからな。この任務に出た後でな」
「はい?」
「行くぞ。この荷物をわしと共にとある場所にまで運ぶ。それが今回の任務だからな」
無限ループ?でしょうか。(違います?ループ前提で進めると、)
確かにこの手のお話って余韻を残すタイプが多いですが、残念ながら私は真相追究者で、
間違ってても自分なりの回答を手に入れたいので、結局何だったのかが明かされない
作品はあまり好きではありません。
といいながら、気になって仕方なくなるので狙いに見事にはまってしまってますけど。
文体や表現などは読みやすくとっつきやすかったです。
あと、私などはついつい性格描写などで説明過多になってしまうんですが、
「ガッハッハ!」といった笑い方や口調などで書き分けられてますのでとても感心しました。
一言質問:荷物が何であるか、一応決めてますか?(何であるかはおっしゃらなくて結構ですよ)
深いです。何度も読み返したくなる文章です。
書き手側としてはひとつの回答をお持ちなのかも知れませんが、非常に良い意味で
読み人や読む回数(その都度)によってとらえ方が変わりそうだなと(私の個人的感想)。
また、適度に伏線を張りつつも話はだらだらと進んでいくのですが、そのだらだら感
が見事に消失してるよう(常に続きや、描写が気になる)に感じました。
文字の密度の濃淡を狙ってつけたのでなければ、もう少し改行が多いほうが読みやすくて
助かったのですが、これははてなの回答欄という媒体のせいかも知れませんね。
川本真琴はツボでした。
一言質問:キャラ作ってません、、、よね?