3世代目となる“新しいiPad”で最大のウリといえば、Retinaディスプレイだ。アスペクト比4:3の9.7型という画面サイズはそのままに、解像度を1024×768ドットから2048×1536ドットに高め、肉眼でドットを判別できないほどの非常に高精細な表示を実現している。特にWebページや電子書籍でこれまで拡大表示しないとつぶれて読みにくかった細かい字が、全体表示のまま紙のように読めるケースが増えたのはありがたい。
一方、突出した高解像度の影に隠れて見落としがちだが、新しいiPadの液晶ディスプレイは「彩度が44%向上」したことも大きな特徴だ。つまり、従来の初代iPadやiPad 2では再現できなかった鮮やかな色が再現できるという。確かに手元の初代iPad、iPad 2と見比べてみると、発色がかなり違っているのが分かるが、こちらは解像度の違いほどはっきりと認識できない。
それでは、実際にどれくらい色が違うのか、初代iPad、iPad 2、新しいiPadの3台で表示性能を比較してみた。なお、今回のテスト結果は、あくまで筆者が所有する3台のiPadによるもので、製品の個体差や液晶パネルベンダーの違いは考慮していない。すべての初代iPad、iPad 2、新しいiPadに同じ傾向が当てはまるわけではなく、それぞれの一例である点に注意していただきたい。
テストはエックスライトのカラーマネジメントツール「i1Pro」(製品パッケージとしては「i1Basic」)を使って行った。
iPadにPCの外部ディスプレイとして利用できるアプリを導入し、i1ProでiPadの発色を直接計測している(計測ソフトは「i1Match」を利用。最新ソフトの「i1Profiler」はエラーが出て計測できなかった)。
3台のiPadのバックライト輝度は、環境光に応じた自動調整機能をオフに設定したうえで、計測を数回繰り返して手動で120.0〜120.1カンデラ/平方メートルの範囲内にそろえた。
結果は下表の通りだ。
i1 Proで計測したiPadの色温度/ガンマ(輝度は120カンデラ/平方メートルに固定) | ||
---|---|---|
製品名 | 色温度 | ガンマ |
新しいiPad | 6400K | 2.1 |
iPad 2 | 6900K | 2.3 |
初代iPad | 7100K | 2.2 |
新しいiPadの計測結果は色温度が6400K、ガンマが2.1だった。これはWindows PCやネットコンテンツ、デジタルフォトにおいて標準的な色域となっているIEC(国際電気標準会議)の国際規格「sRGB」で定められている色温度(6500K)とガンマ(2.2)に近い値だ。初代iPadとiPad 2は、ガンマこそだいたい同じ値が出たが、色温度がやや高めだった。
色温度が低いと、白色の表示が黄から赤みがかって見え、高くなるにつれて青っぽく変化する。筆者の周囲で新しいiPadを購入した人の声として、「新しいiPadは前より液晶が黄色くなった」という感想があったが、今回のテストでは確かに従来機より色温度が下がっており、見た目の印象と合致した。
ただし、さまざまなコンテンツを表示するタブレットデバイスのディスプレイとして汎用性を考えた場合、新しいiPadの色温度のほうが業界標準に近く、初代iPadとiPad 2の色温度は少々高いといえる。
次に、3台のiPadの輝度設定を最高値と最低値にセットし、実際の輝度を計測してみた。結果は以下の通りだ。
輝度の最高/最低設定での実測値(単位は〜カンデラ/平方メートル) | ||||
---|---|---|---|---|
製品名 | 最高輝度設定 | 最低輝度設定 | ||
最高値 | 最低値 | 最高値 | 最低値 | |
新しいiPad | 419 | 0.5 | 3.5 | 0.1 |
iPad 2 | 345.1 | 0.4 | 9.9 | 0.0 |
初代iPad | 323.9 | 0.3 | 27.4 | 0.0 |
新しいiPadの最高輝度は、419カンデラ/平方メートルと最も高輝度だった。かなり明るい場所で画面を見ても表示内容を確認しやすい。初代iPadとiPad 2は長期間使用した状態(いずれも販売開始直後に入手)での計測値なので、バックライトが経年劣化しにくい白色LEDバックライト搭載機とはいえ、同一条件ではないが、それでも約323〜345カンデラ/平方メートルとどちらも十分明るかった。また、新しいiPadは最低輝度もぐっと下がっており、輝度の調整幅が広くなっている。
次に、3台のiPadで色域(表示できる色の範囲)を比較してみよう。
今回の測定に用いたエックスライトの「i1Basic Pro」は、測色器の「i1Pro」が付属し、ディスプレイの高度なキャリブレーションが行えるパッケージだ。2011年6月にカラープロファイリングソフトが新世代の「i1Profiler」に進化し、i1Profilerシリーズとしてモデルチェンジした。
i1Basic Proはi1シリーズの中ではエントリーモデルにあたるが、i1Proはスペクトル方式を採用した測色器で、フィルター方式のエントリーモデルに比べて、検出精度がかなり高い。i1Basic Proをベースとして、より高度なカラーマネジメント環境を構築したい場合は、必要に応じて機能を拡張することも可能だ。i1シリーズの製品情報はこちら。
日本国内ではこれらの製品を加賀電子が取り扱っており、クリエイター向けオンラインショップ「KGDirect」や「CGiN」で購入できる。両サイトでのi1Basic Proの販売価格は10万4790円だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.