レノボ・ジャパンは11月13日、報道関係者向けに大和研究所のエンジニアによる技術説明会を実施した。「ThinkPadキーボード設計の取り組みについて」をテーマに掲げ、同社ノートブック開発研究所 サブシステム技術 機構設計 テクニカルマスターの堀内光雄副部長がキーボード設計におけるこだわりを語った。
同社がThinkPadのキーボードに求める必要条件は「速く打てること」「タイプミスが少ないこと」「長時間使用しても疲れないこと」の3つで、これらを実現するための重要項目として「キーフィーリング」「キー形状とキー周辺形状」「キー全体のレイアウト」「ポインティングデバイスとの組み合わせ」の4つが挙げられるという。「車にとっていちばん重要なのはエンジンだが、サスペンションがよくないとコーナリング特性が悪くなるし、ブレーキがきかなければ速く走れない。キーボードも同じで、すべての要因を高めなければ、よいものにならない」(堀内氏)
まず、キーの形状とキー周辺の作り込みについて、キーボードの基本的な構造とともに説明がなされた。画面1は、旧式のシリンダー型キーボードの基本設計を示したもの。旧式のキーボードは厚みがあり(当時はノートPCの薄さが重視されなかった)、キートップ(キーキャップ)を支えるシリンダーが長かったため、キーの端を押してもキートップがふらつくことは少なかった。しかし、昨今のキーボードユニットは6ミリ程度の薄型に仕上げるためにシリンダーが短くなっており、このままではキーの端を押した場合にキーがふらついてしまう。
そこでThinkPadでは、厚さ1ミリ以下のメンブレンシート回路にラバードームをかぶせて、その上にハサミのように可動するシザーズ(パンタグラフ)を配置した(画面2〜4)。このシザーズを内蔵したおかげで、キーの4隅を押してもキートップが傾くことなく、水平をキープしたままで垂直に下がる仕組みになっている。
こうしたノートPC用キーボードはパンタグラフ構造として知られており、他社製ノートPCでも採用例が多いが、ThinkPadではキートップの形状にも一工夫している。ThinkPadのキートップは中央がくぼんだ形状になっており、同社ではこれをシリンドリカルカーブと呼ぶ(画面5)。このカーブを適切に設けることで入力がしやすくなるが、カーブをかけすぎると逆効果という。
また、ThinkPadのキーボードは比較的キートップの平らな部分が小さく、周囲の傾斜(スロープ)を長めに設けている。一見、キートップの平らな部分が広いほうが入力しやすいように考えがちだが、必要以上に広すぎるのは弊害であり、キートップの平らな部分がある程度狭いと指を置く位置が定まりやすくなるため、操作時の違和感やミスタッチが少なくなるという。具体的には、キートップ手前のスロープを長めに確保することで、その手前に配置されたキーの端に指が触れにくくなる利点があるとのこと。
「キーを平らにすると内部のスペースに余裕ができるため、機構設計が容易になるが、ThinkPadではキーのカーブを維持しつつ内部の狭いスペースを生かした設計とすることで、より入力しやすいキーボードを作り上げている」(堀内氏)
キー周辺の形状では、スペースバーとファンクションキーの周辺に配慮が見られる。通常スペースバーは親指で押すが、ThinkPadではスペースバーの手前に緩やかなスロープがある。他社のノートPCでは、スペースバー手前にスロープがないものもあり、こうした製品ではスペースバー押下時にボディへ指が当たってしまうが、ThinkPadではスムーズにスペースバーを押下できるという。
ファンクションキーに関しては、押したときにツメの先がボディに引っかからないように、各キーの後ろに階段状の段差を設けた。また、数字キーとファンクションキーの間にはミスタッチを減らすバリアーが設けられているが、左上のF1キーとEscキーを誤って打たないように、この部分だけバリアーをほかより一段高くしている。同様に矢印キーの上にもバリアーを配置している。
「ThinkPadでは、押しやすいようにスペースバーをほかのキーより高くしており、液晶ディスプレイ側の設計とスペースを取り合う形になるが、なんとかスペースを確保している。ノートPCではパームレストの下にHDDやメモリが搭載されている場合が少なくないため、ミスタッチでボディに余計な振動を与えるようなキーボードのデザインは避けるべきだ」(堀内氏)
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