技術分からないCEOのアタシが考えるイケてるCTOの条件
※発言は個人の感想です。
わたしがCEOなのは本当です。いわゆる創業社長ってやつで、なし崩し的にCEOになってます。技術が分からないのも本当。また弊社は大企業でもなければIT企業でもないので、大企業だのIT企業だののCTOの場合はまた話が違うのかもしれません。まぁそんなの、究極的には各社それぞれケースバイケースですよね。
ただイマドキ、どこの会社も業務システムを使っているし外部向けのWEBサイトくらいあるでしょう?オンラインマーケティングだって少なからずやっているはずです。だからITと無関係な企業ってのもないんじゃないかなぁ。
そんなわたしがCTOに求める役割は
「経営課題のうち技術によって解決できるものを見つけ出し、解決してほしい」
です。
あ、念のために言っておくと、こういう文脈で「~してほしい」というのはモヤッとした個人的要望ではなくて、社として負ってほしい職責を指します。だから職務記述書に書くとするならば
「CTOは経営課題の技術的な解決に責任を負う」
という記述になりますね。
それと、CTOというのが実際に社内/社外、法的にどのような存在なのかは
こちらの記事に詳しいです。マジでこれくらいは前提として理解しておいて頼む。
さてここから先は話を平和にするためにエビ料理レストランに例えて話をします。;
丸の内エリアにエビ料理レストランを新しく出店することにしました。各種の貴重なエビをメインにしたオシャレなレストランですが、ランチから気取らないディナー、ちょっとしたパーティーまで、シーンを選ばず幅広くお使いいただける感じのお店です。
一番のウリは何といってもエビです。単なる高級なエビというだけではなく、世界中から四季折々の珍しいエビを使って、それらの美味しさを最大限に引き出したお料理やお酒を提供します。あのエリアにそこまでエビにこだわったお店はないし、日本人は世界一エビが好きな人種です。
これはイケる!!!!
プランを作り出資を募ったところ、幸いにも素敵な出資者が現れて問題なく資金も店舗も用意できました。開店準備は完璧です。ただ問題は、わたしは全ッ然料理のことは分からないしエビ料理なんてできません。エビ自体は大好きだし食べる方にはかなりの自信があって、我ながら武藤鶴栄氏に勝るとも劣らない目利きだと思っているんですが……だから総料理長を募集することにしました。
それなりの待遇で募集をかけたところ、以下の3人が応募してくれました。
- 某三ツ星ホテルのレストランで20年間料理長をしていたベテランシェフ。志望動機は「そろそろ新しいことをしたいから」
- 隠れ家系でお客様を選ぶようなエビ料理店(1日5組まで、完全予約制で半年待ち)の元オーナーシェフ。志望動機は「色々あってお店が人手に渡ることになり(ry」
- 気鋭の天才エビ料理シェフ。志望者の中では一番の若手だが独創的な料理で知名度が高く、数々のメディアに登場しており著書も数冊ある。ネームバリューは現時点でトップ。志望動機は「自分のお店を持つ時期かと思って」
それぞれにエビ料理を作ってもらったところ、いずれもごく基本のエビフライから名状しがたい独創的な料理まで完璧な腕前です。腕前に甲乙を付けるには岩崎民次氏にお越しいただく必要があるレベルです。
あなたならこの3人のうち誰を採用しますか?それを決めるためにここに挙げた情報以外に必要なものがあるとしたら、それは何ですか?
わたしが総料理長に現時点で求める仕事は以下の通りです。
- 他の腕の立つシェフを採用してほしい
- お店のコンセプトに合ったメニューを決めてほしい
- 総料理長として他のシェフを取りまとめ、厨房を使いやすくセッティングしてほしい
- その他、お店を流行らせるために気づいたことがあったら教えてほしい
- 以上のことを、資金計画を理解しそれから逸脱しないようにやってほしい
また、実際にお店を運営していく中で以下のような問題が発生することもあります。
- 今週メインに出す予定だった三重県産セミエビが不漁で半分しか確保できなかった、どうしよう?
- そろそろ旬のゾウリエビをメニューに加えたいがゾウリエビを調理できるシェフが見つからない、なんでだろう?
- テレビ出演が決まったので放映後しばらくは普段の倍の来客数が見込まれる!対応できる?
- 秋のパーティーにどうしても国産クルマエビを出してほしいというお客様がいるけれど、季節が合わないよ!
これらの問題が果たして「技術的課題」なのかそうでないのかを弁別するのは実際にはとても難しいことです。メニューはもちろん技術的課題ですが、マーケティング上の課題でもあります。流行るとか流行らないだなんてのも広告宣伝に関する部分が大きそうです。また例え技術的課題なんだとしても、それを解決するための資金がが足りてないならばできることは限られます。そして不漁は総料理長の責任ではないし、採用も「そもそも応募してこない」という問題ならば「もっと給料上げろよ……」といった解決策しか思いつかないでしょう、普通は。
でもねー、そこをお客様気分でいられたくないのよ。「ここからここまではCTOである俺の仕事、ここから先はCEOであるお前の仕事」なんてサッサと決めつけてしまうようなCTOでは困るんです。
役割分担を否定している訳ではないんです。ただ、「自分の問題」として考えてほしいんですよ。
例えば、三重県産セミエビが不漁であれば「すみませんあれはナシになりました!」と謝罪広告を出すのも解決策の一つです。少なくともわたしだけがこの問題に対応しているならば、正直言って他の方法が思いつきません。ただ各種の修羅場をくぐり抜けてきた経験豊富なシェフならば
- 以前に試したことがあるが、食味の似るコブセミエビを併せて仕入れられないか?
- 宮崎県産のセミエビを確保できる仕入れルートを知っているが、それを使えないか?
といった解決策を提案できるかもしれません。
また、ゾウリエビが調理できるシェフを確保できない理由について、わたしならば「おちんぎんが少ない所為……?でもこれ以上お金出せないし(;_;)」以上のことは考えられないのですが、料理人コミュニティに関する知識が豊富なひとならば
「あれは美味だが漁獲量が少ないために経験のあるシェフが少ない。ウチワエビに構造が似ているので、ウチワエビを調理できるシェフを探して少し再教育したら何とかなる」
と分析してくれるかもしれません。
限られたマーケティング費用の中でお店を流行らせる施策について、技術とは直接の関係がなくても、周辺領域の知識があるならば
「あのグルメ雑誌は読者数はそう多くないんだけれど、レストランに詳しくて口コミの影響力がある人が多く読んでいる。何度か取材を受けたこともあるけれど、記者もとても知識があってしっかりしているんだ。記事広告を出すならあの雑誌がどうかな?」
という情報をくれるかもしれません。
わたしひとりでは、色んな問題に対して「詰んだ……!」と頭を抱えてしまうんです。ひとりだけで考えられる解決策の幅には限界があるからです。
たとえその案が最終的な解決にならなかったとしても、専門家として異なる視点から一緒に考えてくれるひとが欲しいのです。
他にも、色んなことを話し合っていきたいです。例えばわたしが「会社員向けの平日ランチメニューとしてイセエビの殻つきコキーユを出そう!」と言い出したら、「お前コキーユを一つ焼くのに何分かかると思ってるんだ?目を覚ませ!」と言ってもらいたいです。
また総料理長が「セミエビとアブラゼミのフリッター」とかいう料理をメニューに加えようとしたら、わたしは責任もって「そんなもの食いたい客がいる訳ないだろう食べログになんて書かれるか分かってるのか?目を覚ませ!」と言います。
テレビの取材で緊張して変なことを口走り批判Tweetが殺到してるって?大丈夫わたしに任せて!炎上対応ならちょっと自信あるんです。
相手が困っていることは何でも相談してほしいし、わたしも何かあったらどんどん相談します。
世の中に経営陣の心構えを説いた経営指南書はたくさんあります。ただCEOはアレをやれ、CTOはこれだけやっていればOK、などという切り口で指南している本は見たことがありませんし、おそらくないはずです。現実の経営は複雑で、かつ目まぐるしいスピード対応を求められる戦場で、「これはアイツの仕事だから~」などと言っていられる余裕はないからです。それぞれに専門性を持った多様な人材を経営陣に備え、それぞれの得意分野で精いっぱい能力を発揮して頑張ろう、というのはアリだと思うのですが、各タスクの完全な切り分けはできないでしょう。*1
ぶっちゃけねぇ、CEOになるとかCTOと呼ばれるとか、結果ですよ結果。
それは「経営責任者の中で主にそっち方面を担当するヒト」に与えられる便宜上の称号でしかないです。
弊社としては、CTOには技術者として十分な見識と腕前があるなら、それ以上の"能力"は求めません。ただ、とにかく同じ方向を向いて話し合えるひとがいいな、と思います。