このフレームワークが最初に話題に出たのはJohn Maeda(ジョン・マエダ)との会話中だったと思う。発端となった見解は、芸術家と科学者の間の連携相性がよく、デザイナーとエンジニアとの間でも連携相性が良いのに対して、科学者とエンジニア、および芸術家とデザイナーだと相性が悪い、というものだった。エンジニアとデザイナーは物事の実用性に着目し、観察と問題の制約の把握を通じて解決法を編み出すことで世界を理解しようとする傾向にある。一方で芸術家と科学者は、自然や数学からインスピレーションを受け、純粋なる内的なクリエイティビティを通じて創造を行ない、単なる実用性などといった不完全なものではなく、真実や美しさなどの要素との関連が大きい形での表現や体現を追い求める。これはすなわち、脳には、左右の半球に分割する以外にも多くの分けかたがあることを意味する。
しかし僕は、面白く印象深い創造を行うにはこれら4つの象限をすべて使うことを求められる場合が多いと考えている。メディアラボの教員陣の多くはこのグリッド(僕は「コンパス」という表現がいいと思う)のど真ん中でやっていたり、あるいはいずれかの方向に偏重があったりするものの、4つの象限それぞれに属する能力を活かすことができている。最近「The Silk Pavilion」を生み出した教員の1人、Neri Oxman(ネリ・オックスマン)が言うには、彼女自身は芸術家でもあり、デザイナーでもあるものの、案を練っていく際に両方のモードを切り替えて取り組んでいくそうだ。「The Silk Pavillion」を見た限り、彼女が科学者やエンジニアの要件も容易に満たしそうなのは明らかだ。
我々がこのコンパスモデルの中心に到達するために活用できる教訓や考え方は多種多様にあると僕は考える。鍵となるのはこの4つの象限をできるだけお互いに近づけるように心がけることだ。学際的なグループであれば科学者、芸術家、デザイナーそしてエンジニアが連携して事にあたるだろう。しかしそれでは、これらの専門の間の区別が助長されるだけだし、プロジェクトや課題の要件に応じて4つの象限を併用できる人材に比べて格段に効果が弱くなる。
伝統的な専門分類が横行する環境や、機能的に分断された組織ではこの創造性のコンパスを活用できるタイプの人材は育たないが、変化の度合いが指数関数的に速まりつつあり、既存のものが崩れ乱れることが例外ではない茶飯事となった今の世界においては、我々が現在直面している課題、ましてや今後直面する課題に効果的に対処するには、この方法で発想するよう心がけるのが肝要に思える。
追記:この話題に関する良書をご紹介:Rich Gold(リッチ・ゴールド)著、「The Plenitude: Creativity, Innovation, and Making Stuff」(The MIT Press、2007年)
Richは4つの象限を「クリエイティビティの4つの帽子」と呼んでいる。