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2012-05-23

Perfumeはスタートアップのお手本

先日、大学時代の友人とPerfumeの話になった。日本のテクノダンスユニット(なのだろうか)のPerfumeだ。

ノースキャロライナ生まれミネソタ育ちの生粋のアメリカ人である友人に、Perfumeの存在を教えたのは、3ヶ月くらい前だったと思う。ちょうどPerfumeの新しいウェブサイトが出たかなんかで、ウェブエンジニアである彼に、「このサイト斬新じゃない?」という感じで紹介したのだ。ウェブサイトそのものに対しては「へー」とそっけないものだったが、Perfumeの音楽には興味を持ったらしく、今となっては僕よりも詳しい。

そいつと先日、「Perfumeはスタートアップのお手本である」という話になった。久しぶりに何から何まで合点がいったので、文章におこしておこうと思った。あらかじめ断っておくが、ぼくは自分で起業したこともないし、まさかPerfumeのメンバーと友達というわけでもない。あくまで見聞きしたことをベースにした考察だ。

創業メンバーの人間関係

Perfumeの3人(あーちゃん・のっち・かしゆか)は、仲が良いことで有名だ。広島アクターズスクールで出会った3人は、2001年夏以降、ずっと一緒に活動をしている。途中でグループ名が「ぱふゅ〜む」から「Perfume」にこそなったが、ほぼ11年、一緒に活動している。彼女たちは今23−4歳だから、感覚的には「記憶のある限りずっと一緒」なんじゃなかろうか。中学の多感な時期や、高校進学に伴う上京、大学進学(これについては後にまた触れる)などの大きな節目を経験しながらも、一つのユニットとして活動し続けていることは、特筆に値する。

Y CombinatorでおなじみのPaul Grahamは、ことあるごとに創業メンバーの人間関係が大事だと言う。例えば、"What We Look For In Founders"というエッセーで、彼はこう述べている。

And the relationship between the founders has to be strong. They must genuinely like one another, and work well together.

ファウンダー間の人間関係は超大事。お互いを心底好きで、スムーズに一緒に仕事ができることが必要不可欠である。

ここで大事なのは、お互い大好きなだけでは足りず、一緒に仕事ができなくてはならないということだ。Perfumeの3人が、お互いのことが大好きなのと同時に、共同作業者として、絶大な信頼を置いているのは誰の目にも明らかだ。仕事でもプライベートでも信用できる人を共同創業者に選ぶことは、成功する上で欠かせないというわけだ。

諦めず、かつ柔軟に

ご存知の方もいるだろうが、Perfumeは当初コテコテのティーンアイドル路線のローカルタレントとして出発した。だが、鳴かず飛ばずで、2003年、中田ヤスタカのプロデュースのもと、テクノポップに大きく方向転換する。意外と知られていないが、この時点でも、今のPerfumeとは、ビジュアル的に大きく異なっている。このビタミンドロップのPVを見てもわかるが、当時のPerfumeは今のモノクロで無機質な色調とは違い、もっとカラフルだったのだ。今のスタイルが確立されたのはメジャーデビューした2005年ほどで、そこから徐々に人気になり、ポリリズムで一挙大ブレークとなる。

スタートアップの世界で、ビジネスや製品の方向性を変えることを「ピボット」という。「何回もピボットして、やっと今のプロダクトに落ち着いた」という風に使うのだが、Perfumeは実に上手にピボットしたと思う。ピボットするのは、そう簡単なことではない。今までやってきたことを、部分的または全て捨て去らなくちゃいけないし、方向性を変えたところで状況がよくなるという保証もないのだ。Perfumeのメンバーも、当初テクノポップに路線変更することに対して、ものすごい抵抗感があったそうだ。スタイルが変わることもそうだが、何よりも自分たちの声にエフェクトをかけることが、歌い手として、なかなか納得できなかったらしい。でも、路線変更したからこそ、彼女たち独特のポジションをJ-POPの世界で得ることができたとも言える。

状況に応じて柔軟にピボットすることもそうだが、メジャーデビューするまでの4年、そして本格的にヒットする2007年までの6年、継続してきた忍耐力も、起業家たちは見習うべきかもしれない。Perfumeといえば、(1)一見カンタンそうで難しいのに(2)3人の呼吸がピッタリとあったダンスだ(大体まわりでダンスを習っていた人に聞くと、この2点をPerfumeの踊りのすごさとして挙げる)。これが可能なのも、Perfumeの3人が、長年一緒に練習を重ねてきたからで、すぐ諦めたり、喧嘩別れしてしまうような3人だったら、ここまで自分たちの踊りを昇華させることはできなかっただろう。

これは起業も一緒だ。最近だと、Instagramが、起業から2年で800億円で買収された話が記憶に新しいが、ほとんどの起業というのは早くて5年、普通は10年くらいかけてモノになるものだ。いち早く億万長者になりたいと思う人たちは、正直起業家は向いていないと思う。

必要以上のローカリゼーションを避ける

先も触れたように、Perfumeは海外向けのウェブサイトも既に作ってあり、日本国外でも活動していく意気込みが感じられる。ぼくは、彼女たちの海外進出を興味深く見守っており、個人的には成功していくと確信している。というのも、Perfumeの一番の魅力は、軽快なテクノにのせた踊りであり、日本の文化や言語に大きく依存していないからだ。

ぼくはアメリカの知り合いにPerfumeを紹介する時には、ダンスユニットだと言っている。もちろん彼女たちが歌手でもあることは、重々承知しているが、どうせアメリカ人の知り合いは歌詞などわからないので、ダンスユニットだと言ってしまったほうがわかりやすいし、現にそれでみんな興味を持ってくれる。裏を返せば、メロディーとダンスだけしかわからなくても、十分その魅力が伝わるほど、Perfumeは音楽性があり、踊りが上手なのだ。

海外でも評価されている日本のアーティストと言えばB'zやX Japanなどがあるが、この両者に共通しているのは、日本語(およびそれに追随する日本文化)に依存しない芸術性を評価されているというところだ。これは起業においても言えることだが、日本独特の文化や考え方に根ざしたビジネスというのは、当然のことながら海外に展開することは無理である。プロダクトやサービスの価値が普遍的であればあるほど、海外進出するからといって修正する必要がなくなるというのは、是非Perfume(まあB'zやXでもいいけど)から起業家たちが学ぶことだと思う。

周りの人を大事にする

Perfumeは、周りの人を大事にするグループとして有名だ。共演者は口を揃えて、彼女たちの腰の低さを褒めるし、ファンを大事にすることでも知られている。最近印象に残ったのは、映画「モテキ」のメイキングシーンの中で、クランクインとクランクアップの時に、真っ先にエキストラの人たちに深々と頭を下げていることだ。ひょっとしたらマネージャーが口を酸っぱくして言っているのかもしれないが、いちPerfumeファンとしては、「ああPerfumeらしいな」と思ってしまう。

もう一つ印象に残ったのは、このツイートだ。

何気ないお茶目な返しと言ってしまえばそれまでだが、叫んだ女性ファンも、同性愛者も傷つけない思いやりのある受け答えだ。咄嗟に思いついた発言なのかもしれないが、日頃からファンのことを考えているからこそ思いつくのだろう。

周りの人を大事にするというのは、結構普遍的に大事なことだが、特にスタートアップにおいては、「共同創業者が仲違いしない」の次くらいに大事だ。スタートアップというのは、大企業に比べたら、むちゃくちゃ貧弱で、それこそちょっとした周りの圧力や悪意で死んでしまうことも容易にあり得る。周囲の理解とサポートがあれば上手くいくわけではないが、一番身近なところから助力が得られなければ、なかなか先は見えてこない。

「身近」の定義は人それぞれだろうが、まあ家族だったり、友人だったり、初期のユーザーだったりする。自ら率先して彼らを大事にしなければ、彼らのサポートは受けられない、というのは言うまでもないことだ。

リスクヘッジも大事

Perfumeのメンバーは3人とも大学に進学しており、のっちは中退しているが、あーちゃんとかしゆかは卒業もしている。本人たち曰く、高校3年生の時点で、音楽一本でやっていけるか自信がなかったから大学受験をしたとのことだが、いずれにせよ、正しいリスクヘッジだと思う。

最近シリコンバレーでは、PayPalの創始者でありFacebookの最初の投資家であるPeter Thielを先頭に、大学教育の価値を再考するべきだという運動が起きている。起業を志す20歳以下の優秀な学生を対象に、大学中退と引き換えに15万ドルを渡すThiel Fellowshipなるものも出てきているが、僕はこの新しい流れを、幾分いぶかしげに眺めている。確かにThielの言う通り、起業を志す天才という超少数グループにとっては、大学の4年間は、非効率的な時間なのかもしれない。でも大体の人は天才ではないので、基本的に、出身大学や、その一つ手前の「そもそも大卒か」という低いハードルで、人生を決められるのが現状だし、これはそうすぐには変わらない。要は99.999%の人間は、大学に行ったほうがよいのだ。

そう考えると、Perfumeの3人の大学に進学するという判断、そして(のっち以外の2人の)一応卒業するという判断は、とても賢いものだと思う。芸能人だし大学受験だってどこまできちんとしたものかわからないとか、どうせ大した大学じゃないんじゃないかと批判する人もいるだろう。しかし、大卒か否かという一点で判断をするならば、あーちゃんとかしゆかの方がザッカーバーグやビルゲイツより高学歴なのだ。

このことから起業家が学ぶべきなのは、常に代替プランを用意しておくことだと思う。起業なんてのは失敗するのがほとんどのケースなので、日々成功に向けて精進するのと同時に、全てがポシャった場合にどうするかも、頭の隅にとどめておくべきではなかろうか。

少なからず運も大事

Perfumeブームの始まりは、2007年、木村カエラが、ラジオ番組内で彼女らの音楽を勧めまくったことで、CMへの起用が決まったこととされる。その後、木村カエラ本人もさらにメジャーになっていくのだが、人気タレントに紹介されるというのは、運がよかったと言える。芸術性が高くても万人受けしない音楽というのはいくらでもあるし、万人受けするかもしれない音楽でも、うまくマーケティングがなされなければ、日の目を見ることなく消えていってしまうのだ。その意味では、比較的早い時期に、木村カエラという注目されつつあったパーソナリティの目にとまったPerfumeはラッキーだったと思う。

ラッキーという意味では、テクノポップ路線を打ち出し、以降楽曲を手がけている中田ヤスタカとの出会いも、運命的と言わざるをえない。氏のアドバイスを素直に受け入れ、新しいスタイルを生み出したPerfumeの3人も偉いのだが、中田ヤスタカに出会わなければ、方向転換のしようもなかったわけだ。

なんだかんだいって運の要素がデカいのは、起業も一緒だ。お金が切れそうな時に投資の話が急に舞い込んできたり、社内のサイドプロジェクトだったものが、予想外の高反響で、メインの製品に置き換わるなんてのもよく聞く話だ。良くも悪くも運任せなのが、起業の世界で、そこは割り切って楽観的にやっていく(つまり続けていく)ことが大事...という少し無責任なかたちで締めくくることにする。

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