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P2Pはそれほど効率的じゃない? 金子勇氏「改善は簡単」


 「Interop Tokyo 2008」で11日、「P2P技術の復権か」と題したコンファレンスが開催された。「P2Pネットワーク実験協議会」の実証実験ワーキンググループ副主査を務めるNTTコミュニケーションズ(NTT Com)の山下達也氏が、P2P配信システムの有効性を確認するために行なった実証実験の結果を紹介した。調査結果からは、P2P配信システムに改善の余地があることが浮かび上がった。

 P2P配信システムは、従来のコンテンツ配信ネットワーク(CDN)に比べてサーバーへのトラフィックが下がるため、配信側はコストの削減につながる。しかし山下氏は、「『トラフィック保存の法則』があるとすれば、サーバーで減ったトラフィックがどこかに押しつけられている可能性がある」と指摘。そこで、P2P配信システムのピア同士がネットワーク上でどのようにつながっているかを明らかにするための実証実験を行なったという。

 実証実験では、P2Pネットワーク実験協議会の参加企業が提供するP2P配信プラットフォームを使って、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の映像をライブ配信。P2Pネットワーク実験協議会側では、全国の協力ISPにダミーノードを設置し、ダミーノードが通信するピアの割合を収集した。


実証実験例 実証実験の目的

わざわざ遠くのピアと接続するケースが目立つ

「P2Pネットワーク実験協議会」の実証実験ワーキンググループ副主査を務めるNTTコミュニケーションズの山下達也氏
 実証実験によれば、北海道のISPに設置したダミーノードの通信先では、東京都が22%と最も多く、次いで神奈川県が12%、愛知県が7%と続いた。同じく、鹿児島県のISPでも、東京都(18%)や神奈川県(11%)のピアと通信する割合が高かった。「人口が多い地域のピアと通信する傾向があるが、よくわからないばらつきもあった」。

 また、北海道に設置したダミーノードが通信したピアをAS(統一された運用ポリシーによって管理されたネットワークの集まり。大規模ISPのネットワークは固有のASを形成している)別に集計したところ、最も多かったのはOCN(25%)で、Yahoo! BB(14%)が続いた。この結果は鹿児島県でも同様で、OCN(25%)とYahoo! BB(10%)が上位だった。これらの割合は、ISPが抱えているブロードバンドユーザー数に比例する傾向が見られたという。

 OCNが東京に置いたダミーノードの通信先では、OCNのピアが24%、OCN内の同一地域のピアが19%、OCNおよび同一地域のピアが5%だった。この結果について山下氏は、「OCN内の多くのピアが、わざわざ他のASと通信している」と述べ、ネットワークが有効的に活用されていないことを指摘した。

 さらに、札幌市のOCNに置いたダミーノードの通信先では、OCNのピアが21%、OCN内の同一地域のピアが5%、OCNおよび同一地域のピアが1%。「ここではダミーノードの36%が東京のピアと通信し、札幌市内のOCNピアとの接続はごくわずか。全国展開するOCNでさえこの数値であることを考えると、地方ISPでは同一地域内で通信する割合はさらに低いだろう」。

【お詫びと訂正 2008/06/12 21:05】
 記事初出時、実証実験ではドリームボートが開発したP2P配信プラットフォーム「SkeedCast」を使って映像を配信したとしていましたが、正しくは、P2Pネットワーク実験協議会の参加企業が提供するP2P配信プラットフォームを使って映像を配信していました。お詫びして訂正いたします。


ダミーノードが通信したピア(地域別) ダミーノードが通信したピア(AS別)

P2PがISPの経営を圧迫しているわけではない

「SkeedCast」の開発に携わった金子勇氏
 全国展開するISPがP2Pファイル共有のトラフィックに対処する方法として山下氏は、「例えばOCNであれば、できる限りOCN内に閉じこめること」と指摘。同一ネットワーク内の通信であればトラフィックが抑えられるため、ISP側のコストも軽減するとした。一方、地域のISPについては、同一地域内のピアを集めて地域IXを活用することを提案。地域IX配下のAS内に閉じこめることで地域をまたぐISP間通信が減り、コストとトラフィック量を最小限に抑えられるのではないかと語った。

 また、P2Pネットワーク協議会の立場としては、「P2Pがインテリジェントにネットワークの構造を把握して通信できた方がハッピーということを伝えたい」とコメント。具体的には、P2Pプログラムが、同一のAS番号を参照できるよう改造してもらうことを開発者に呼びかけるとした。

 P2P配信システムの有効性について、ファイル交換ソフト「Winny」の開発者でSkeedCastの開発にも携わった金子勇氏は次のようにコメントした。

 「まず、みなさんはWinnyをどうにかしてほしいと思っているかもしれない。もちろん、私の方で解禁だったらなんぼでもやりますが、そもそも論として手を出せないのが現状。もちろん、Winnyでは『こことここのノードの通信が速いから』という具合のチューニングはやっている。なおかつ、クラスタリングの概念があるため、ある程度ノード間の接続も見ているが、現状ではネットワークの方は全く見ていない。」

 商用P2Pプログラムの改善を呼びかけた山下氏に対しては、「参考できるデータさえ出していただければ、(SkeedCastに)組み込むことは簡単」と応えた。

 また、カンファレンスでは、P2Pネットワーク実験協議会のガイドライン策定ワーキンググループ主査を務める東京大学大学院教授の江崎浩氏が飛び入り参加。「AS間できちんと協調できれば、かなり通信資源を大事に使えるというシミュレーション結果も出ている。6月10日に参加した総務省の会議では、『ストリーミング族の方が悩ましく、P2Pの方がコントロールしやすい』というISPの意見もあった。世間では、P2PがISPの経営を圧迫しているというが、そうではないということをみなさんと共有したい」と会場に呼びかけた。


現状のピア選択に関する考察(OCNの場合) 現状のピア選択に関する考察(地域ISPの場合)

関連情報

URL
  Interop Tokyo 2008
  http://www.interop.jp/

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( 増田 覚 )
2008/06/12 14:03

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