脳が成長してニューロン構造が一番複雑で密になる年齢は,女子では11歳,男子では12歳だそうです。ゲノムが解読され遺伝子の研究が進めば進むほど,環境の影響が意外に大きいことが分かり始めています。少なくともリチャード・ドーキンスの「利己的な遺伝子」における説明とは大分違うようです。

 チンパンジーと人間との遺伝子の差は1.1%しかありませんが,胎内での発生プロセスの差は80%。なおかつ,人間はネオテニー(幼形成熟)です。他の動物と違い,人間は巨大脳のため母親の胎内で十分発育する前に生まれてきます。

 生まれてから大学を出て社会に出るのは22歳以降です。それまで1人前になるための長~い学習の期間が必要なのです。特に「三つ子の魂百まで」の幼少の頃の脳の成長は凄まじく,10代の頃までは環境がDNAと一緒になって脳を作っていくそうです。

 生まれた時の環境にダイナミックに適応する必要があったことも,人間がネオテニーになった理由の一つだそうです。遺伝子の突然変異による自然選択だけでは,環境変化に対応できなかったからでしょう。

 例えば,帰国子女は日本人の遺伝体質を持ちながら,育った地域の影響を受けて人格や脳が作られます。米国なら米国人のようになり,中国なら中国人のようになります。

 田植稲作文化の閉鎖的な日本人には異質な人間を疎(うと)んじる傾向があり,帰国子女は日本の学校でいじめられがちです。人を揶揄(やゆ)したり,いじめたり出る杭を叩くことで,快感を感じる体質があります。“村八分根性”です。

脳が完全に成熟するのは25歳ころ

 これから子供を生んだり育てたりする人は,少なくとも小学校卒業するまでは,十二分に環境に留意する必要があります。ちなみに,カミさんは私のことを「最高の父親だが,最低の亭主」と評しています。二人の子供に降り注いだ愛情は,並ではなかった。一生懸命話をした記憶があります。「抱きしめる愛情」です。人間はネオテニーだからこそ,育て方で子供の未来は思っている以上に影響を受けます。また,育てることで喜びを感じるのは,どうも人間だけのようです。

 脳が完全に成熟するのはだいたい25歳ころだそうです。思春期に情緒が不安定になったり,向こう見ずな行動に走ったりするのは,脳そのものに起こっている変化が原因であるということが,最近の研究でわかってきました。

 成長過程の脳では,ニューロンから何千という樹枝状の突起を出して,複雑に繋がり合います。それが最も密になるのが,女の子で11歳,男の子で12歳半あたりらしい。アインシュタインは言語脳に先天的障害があり,おしゃべりが苦手の故,ボーと宇宙を考えたり空間的イメージを膨らませたりしていたらしい。そんな脳の可塑性により,時空間認識力が際立って研ぎ澄まされたと言われています。

 脳の神経回路はその後,頻繁に使う安定した回路のみを残すかたちで,不用なものは刈り取られる“剪定(せんてい)”が繰り返され,25歳ころに完全に成熟するそうです。人格を含め,いわば本当の個性ともいうべきレーゾンデートルが形作られるのは,20代の半ば以降と考えてもよいのかも知れません。

■参考資料について
本コラムの脳の成長に関する記述は,TIME誌の2004年5月10日号の「Secret of The Teen Brain」を参考にしています。[2007/10/03 16:40]