「万引きによる書店のロス率は、1.41%に上ることが分かった。書店の平均利益率である0.6%の2倍以上に当たる。万引き撲滅のため、すぐにでも出版社に無線ICタグを付けてもらいたい」。大手の書店や新古書店15社で構成する「日本出版インフラセンターICタグ研究委員会書店部会」の村越武部会長(有隣堂顧問)は2008年3月26日に開いた記者会見で、こう強く要望した。
今回の調査は経済産業省の委託で、紀伊國屋書店や丸善、有隣堂など大手14書店1161店舗にアンケートしたもの。有効回答数は643店舗で、その総売上高約2909億円と比べて、総ロス額は約56億円と1.91%に達した。このうち万引きによるロスを推定すると1.41%だった。「万引きを撲滅できれば、利益率を3倍以上にできる」と村越部会長は強調する。
日本出版インフラセンターはICタグを活用して、「換金目的の万引き」を効率的に防げると考えている。書籍の万引きは70%強が新古書店での換金目的だとされている。書店と新古書店がICタグでタッグを組めば、これを防げる可能性がある。
仕組みはこうだ。本の背表紙などに埋め込んだICタグに「書店で精算済み」かどうかを示すフラグを設ける。書店は書籍を入荷したときに、このフラグを「未清算」にセットする。新古書店は本を引き取るときに、このフラグをチェックする。「未清算」のままなら店頭から万引きされたものとみなして、引き取らない。換金できなければ万引きは減るはずだ。書籍が書店のPOSレジなどで購入されたときには、フラグを「精算済み」に変更し、新古書店が引き取れるようになる。なお製本時にはフラグはすべて「精算済み」にしておく。ICタグシステムを持たない書店で販売した書籍も、万引きされたものも同じ扱いになるが、問題なく新古書店に持ち込める。
ブックオフと共同実験
書店部会には、新古書店最大手のブックオフコーポレーションも参加。今回、丸善と共同で実証実験を行った。実験では、精算済みフラグを実際に書き込んだり、チェックしたりした。現場では、ICタグの読み書きという作業が付加されるが「業務に支障がないことが確認できた」(村越部会長)という。ブックオフにとっても、店頭での万引きにICタグを活用できるメリットがある。
書店部会は「まずコミックにICタグを付けてほしい」(村越部会長)と要望している。換金しやすいコミックが最も大きい被害を受けているからだ。調査では、万引き防止のためのICタグシステムの“投資効果”も試算した。ハンディ型リーダーを8万円程度などと仮定すると、3年で黒字が出る。つまり、万引き防止によって減らせる損失額が、投資額を上回る。
書籍・販売額はここ10年以上右肩下がりで、書店数も07年に約1万5800店舗と01年比べて2割も少なくなった。「万引きが書店経営を大きく悪化させている。書店がつぶれれば出版社もつぶれる。コストはかかるがICタグをぜひ付けてほしい」と村越部会長は強調する。日本出版インフラセンターは、09年度にICタグ適用を開始する目標を立てている。