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ゼロックス写真とセンチメンタルな写真

- コピー機による画像表現について考える -
(99.06.06)

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 昨日、東京都現代美術館で開催されている、荒木経惟の「センチメンタルな写真、人生 - Sentimental Photography, Sentimenatal Life - 」を見に行った。今回展示されていたものはかなりの数がコピー機によるものだった。昔から、荒木経惟は写真をコピーしたもので表現を行っていた。そこで、今回はコピー機による映像表現について、技術的な考察も加えて考えてみたい。

 今回の写真展の中で「花陰」はインクジェットによるものであったし、「上海」、「台北」は電子写真式コピーによるものだった。もっとも、「台北」の方はもしかしたらインクジェット式のコピーによるものだったかもしれない。その他にも大きいサイズのものはほとんどがカラーコピー機を用いていたようだ。何しろ、協賛の所に、エプソン、富士ゼロックス、キヤノンとコピー・プリンターメーカーが勢ぞろいしていた。しかし、見ていた人はコピーされた画像だとは思っていなかったのではないだろうか。
 ところで、電子写真といっても、デジタルカメラのことではない。オフィスのコピー機などで使われている方式のことである。実に勘違いしやすい名前である。荒木経惟は1970年に「ゼロックス写真帳」という私家版の写真集を作っている。名前の通り、ゼロックスの電子写真式コピー(辞書にも載っているくらいだから、すなわちゼロックスといってしまって良いだろう)を用いて作られた写真集である。荒木経惟はゼロックス写真帳について「エッジ強調」された感じを楽しんでいたらしい。

「ゼロックス写真帳」と「物事」
ゼロックス写真帳 ゼロックス写真帳の中身 物事
ゼロックスによる私家版
全25巻
中身は例えばこんな写真
キヤノンのカラーコピーによる限定一部の写真集

技術的な内容であれば、電子写真やインクジェットについては、

が判りやすい。

 ここでも、電子写真について、簡単に説明しておく。下に示すのが電子写真プロセスである。中央の青い円が感光ドラムである。

  1. 光で中央の青い円の感光ドラム上に画像を描く
  2. 右のピンク色の現像装置から「トナー」を感光ドラムに対してくっつけてやる
  3. そして、右から左に送られている紙上に「トナー」をくっつけてやる
わけである。こういったものを実感したければ、JapanHardCopy'99のA-38は必見だ。このWEBを楽しんでいるあなたなら、きっと楽しめると思う。
電子写真プロセス

(少なくとも昔の)コピーの特徴は、

という感じである。画像のエッジ部分、すなわち、電位変化が大きく、電界強度の高い部分に対してトナーが現像されやすいためそうなるのである。感光ドラムに対して対抗電極(あるいはその代替物)が近接していれば良いのだが、そうでないものはエッジ効果が強く働いてしまう。先の「エッジ強調」はそのために生じるのである。

 当初は、その挙動を模してPhotoshopでフィルターを作成してみようかと思ったのだが、Photoshop5にはデフォルトに「コピー」というフィルターがあることに気づいた。これまで気づかなかったが、使ってみると面白い。なかなかできが良いので、それを早速使ってみることにした。今回は、自分でやりすぎるのは少しまずいのである。

昔のモノクロコピー機を模したもの(左はオリジナル、エクタクローム100で撮影)
 見事に「ゼロックス写真帳」のような感じになる。なにやら古い時代の匂いすら感じる。「細かいところはボケてしまう。」というのはまるで記憶のようで、そういった所もノスタルジックで良い。また画像のベタ部分は再現性が良くない、がそれが良い感じである。印画紙を現像している途中に浮かび上がる画像のようである。

 画像のエッジ部分が黒くなりやすいのであるから、画像の全面にエッジを入れてやれば、ちゃんとベタがあっても再現できる。というわけで、昔(といっても数年前に私が大学で使用していたもの)のコピー機には画像コピーの際に用いるOHP状のスクリーン・シートがあった。そのスクリーンと画像を重ねてコピーすれば、きれいに画像がコピーできるのである。
 試しに、同じ処理をPhotoshop5で再現してみる。

昔のコピー機で画像をきれいにコピーするためには
オリジナル写真(FinePix700により撮影) コピー後
1.
1をただコピー(処理)したもの
2.
1にスクリーンを重ねたもの(グレイスケールにしてあるが気にしないで欲しい)
3.

上の画像の一部の拡大

3をコピー(処理)したもの。
4.
 いい感じである。最近はデジタルコピー機全盛でこのようなスクリーンはほとんど使われていないのだろう。しかし、一昔前のアナログコピー機を使用している場合には、こういうスクリーンは必需品だった。

 それでは、次はカラーコピーについて考えてみたい。荒木経惟は「カラーコピーの色っていうのは、妙になまめかしい」と言っている(荒木経惟写真全集13後書き)。これは一体どういうことだろうか。技術的に考えてみる。まずは、カラーコピー風な画像テストをしてみる。カラーコピーの場合は、

という感じだ。参考までに各種出力機器の出力可能な色空間を以下に示す。
L*,u*,v*における各種出力機器の出力可能な色空間

(CQ出版 洪 博哲著 お話・カラー画像処理より引用)
 一番右下に示されている電子写真方式の再現できる色空間が狭いのがわかると思う。「トナー」に使われる色材の違いなどで多少の違いはあるが、大体こんなものであろう。

 それでは、先に上げた3つの項目を念頭において、画像処理を加えることにより、Photoshopでカラーコピーを模した写真を作ってみる。実際にやったのは、彩度を高くして、ガンマカーブを急にして、使用色を128色に制限してみた。それが右下の写真だ。左がオリジナルである。色空間の制限などもするとそれっぽいと思うのだが、あまり具体的にやるのは、諸般の事情により控えておく。

カラーコピーを模したもの
オリジナル写真(FinePix700で撮影) カラーコピー(風に処理)したもの

 左上の写真の方が「空気が写っている」と思う。しかし、右の写真はそれに比べて、安手のキャバレーのようである。それが、荒木経惟のいう「カラーコピーの色っていうのは、妙になまめかしい」ということかもしれない。色数が少なく、色が強く、しかも変な色になる、言いかえれば、下品(特に悪い意味ではない)な色になりやすいせいだろう。技術的に言えば、色空間がせまく、ガンマカーブが急であることが、「カラーコピーの色っていうのは、妙になまめかしい」ことの理由なのではないだろうか。荒木経惟は「カラーコピーは未完成だから」とも言っている、いつかカラーコピーが完成品になる日は来るのだろうか。

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