グーグルが中国市場向けに「検閲版」の検索エンジンおよびアンドロイド向け検索アプリを準備しているとの情報がリークされた。
このスクープを報じたのは「ジ・インターセプト」。エドワード・スノーデンの告発を世に伝えたグレン・グリーンウォルドや、CIAや民間軍事会社といったテーマでの深い取材で知られるジェレミー・スケイヒルなど著名なジャーナリストたちが2013年に立ち上げた調査報道を目的とするオンラインメディアだ。
ジ・インターセプトによるこの報道が本当だとすれば、インターネット史を画する大きな転機になる可能性がある。簡単に論点をまとめておきたい。
中国市場を捨てていたグーグル
まず経緯だが、グーグルは2006年から2010年まで中国国内で検閲版の検索エンジンを運営していた。
しかし、アメリカ国内を中心にそのことに対する批判が高まり、グーグルは2010年3月に中国市場からの撤退を表明。それから現在まで8年以上に渡って中国国内ではグーグル検索へのアクセスができない状況が続いていた。
中国という成長著しい巨大市場を捨てることになったこの決断は、ソ連で生まれた共同創業者、セルゲイ・ブリンの想いに沿ったものでもあったと言われ、グーグルという企業の政治的なスタンスを鮮やかに示す象徴として語られてきた。
グーグルは中国市場からの撤退以外にも様々な政治的アクションを行ってきた。
例えば2014年2月のソチ五輪期間中、ロシアのコザク副首相による同性愛者の権利に反する発言に対して、グーグルはトップ画面にレインボーフラッグを表示することで抗議の意思を表明した(※私は2014年当時グーグルの日本支社に在籍していた)。
つまり、これらの行為を通じて、グーグルは一営利企業でありながらも人権問題などについての自らの政治的な関心を隠さず社会に対して表明してきたわけである。
さらに重要なことに、こうしたグーグルの政治的な姿勢は、そのあまりにも有名な「邪悪になるな(Don’t be Evil)」という行動規範(code of conduct)と合わせて、アメリカ西海岸発のインターネットカルチャーに対する人々からの賞賛の根拠ともなってきた。
冷戦後の世界で全地球へと広がっていったインターネット産業は、常にその周りに新鮮なワクワク感や進歩的な雰囲気をまとってきた。
そして、形式的には単なる営利企業に過ぎないグーグルやフェイスブックの内部で制定された「公的な雰囲気をもった私的な行動規範」に対する何となくの信頼感こそ、こうした楽観的な雰囲気に対する大きな裏付けの一つとなってきたのである。
「インターネット産業は人々の自由に反するよりは自由を促進するものであるに違いない」、これまで広く共有されてきたこの種の楽観を支えてきた最も重要な象徴の一つが、2010年のグーグルによる中国市場からの撤退であったわけだ。