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2012.10.05

生活保護「受給者バッシング」の正体---年間支払額3.3兆円、受給者210万人の「世界」を徹底検証 【第1回】

安田浩一(ジャーナリスト)

 小高い丘を登り切ったところに、その墓はあった。墓誌はない。縦型の墓石には「佐野家之墓」とだけ刻まれている。

 周囲を囲むように植えられたヒマワリの花が真夏の日差しを受けながら、夕張山地から吹く穏やかな風に乗って揺れていた。

 この墓には、最近になって佐野湖末枝さん(死亡時42歳)と妹の恵さん(同40歳)の遺骨が納められた。

 姉妹の父親は、この近くの町で炭鉱夫をしていた。だが長女の湖末枝さんが中学生の時に病死。その後、病弱だった母親も父親を追うように亡くなっている。

 一家はようやく同じ場所で再会した。あまりに悲痛な再会ではあるけれど---。

 軽く手を合わせてから、墓石を背にして町を見下ろす。寂しい町だなあと思う。メインストリートに人影はなく、草木が風でザワザワと擦れる音以外に、耳へ響くものもない。

 北海道歌志内市。札幌の北東約100キロに位置する山間の小さな町である。人口4300人。「日本一人口の少ない市」として知られる以外、これといった特徴はない。典型的な僻地だ。いや、特徴らしきものを挙げれば、もう一つだけある。歌志内は「人口一人当たりの生活保護費がもっとも高い自治体」でもあるのだ。

 なにか因縁めいたものを感じた。都市の片隅で生活保護の助けを得ることができずに死んだ姉妹は、遺骨となって日本一の"生活保護"市にたどり着いたのである。

 途中に立ち寄った質素な建物の市役所では、保健福祉課の長野芳智主査が、節電のために照明を落とした薄暗い庁舎内で応対してくれた。

 「結局、炭鉱を失ったことで、この町は衰退の一途をたどっているんですよ」

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