一見した印象とはかけ離れた意外性が、人間像の奥行きを増すということは、たしかにある。ギャップ萌え、というんだそうだ。 野村真美さんを、日本一不機嫌が似合う女優だと思っている。現代では、である。遡れば、杉村春子、北林谷栄、岸輝子など、大女優たちの不満顔や不機嫌演技は、いずれも神域に達していた。奈良岡朋子、東恵美子、山岡久乃、宮崎恭子ほか、好きな女優たちはどなたも、不機嫌演技となると途方もない実力を発揮したものだった。 考えてみれば当然だ。人間だれしも上機嫌で過したい。善意を表に出しっぱなしにした善人でありたい。そうはできぬ事情があって、不機嫌なのだ。胸中にわだかまるものがいく層にも折重なって、仏…