ネットラジオでかけられる曲がない?いやいや使い切れないほどあるから
前々回のエントリにて、ねとらじ配信者がJASRAC管理楽曲を無許諾でライブストリーム配信していたことで逮捕された事件を紹介したのだが、この件に関連して、ネットラジオ配信者の中で「ネットラジオで流せる音源について」の議論が散見された。
相変わらず、音楽と権利とくればJASRACのせいにされてしまうのだが、実際にはJASRACは既にネットラジオを可能にする体制は整えている。個人が配信するにしてもJASRACに申請しお金を支払えば著作権の問題はクリアできるし、個人がお金を支払いたくない/支払えない場合も、ニコ生やStickam*1を利用して配信することができる。つまり、著作権の問題はクリアできる手段がある。
一方で、市販のCDに収録されている曲を流したい場合、たとえ著作権の問題をクリアしても著作隣接権、いわゆる原盤権の問題は未だクリアできていない。米国にはネットラジオでそうした音源を流すための仕組みとして、SoundExchangeという団体があるのだが、日本にはそれに類する団体が存在しないため、国内のネットラジオでは音源を使用できないという状況にある。詳しくは「日本版SoundExchangeプロジェクト」を見ていただければ。
こうした問題は"All rights reserved"な楽曲が使用を許諾する窓口がないために生じているのだが、一方で"Some rights reserved"、クリエイティブ・コモンズ(CC)ライセンスの下で公開されている楽曲については、こうした許諾の問題は大幅に軽減される。というか、使用に際して個別の許諾を必要とはしない。
Jamendoを利用しよう
Jamendoは、アーティストがCCライセンスの下でアルバムを公開することができるサイトで、リスナーにとってはクリエイティブ・コモンズ・ミュージックの宝庫といえるだろう。試聴、ダウンロードなど気軽にできる。JamendoだけがCCミュージックを扱っているというわけではないのだが、ユーザビリティの高さ、楽曲のコレクションは世界屈指のレベルといえるだろう。
現在のところ、Jamendoでは3万5千枚弱のアルバムが公開されており、その全てにCCライセンスが適用されている。各ライセンスの条件さえ満たせば、好きなだけネットラジオなどで使用できるのだ。
ミュージシャンがJamendoに自身の作品をアップロードする動機はさまざまだろうけど、、自身の作品を、自分自身の存在を広く知らせたいという思いが強いのではないだろうか。ならば、そうした作品をもっと世に知らしめるべく、CCミュージックをネットラジオでかけたり、BGMとして使用したりすることで、Win-Winの関係を作り出せるよね。
ということで、ネットラジオ(やポッドキャスト)でCCミュージックを実際に使用するためのお話を以下に。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスとはなんぞやという概説と、実際にどんな風に使うかというお話、そのあとで、Jamendoでのライセンスごとのアルバム検索方法について。
CCライセンスとは
CCライセンスの音楽をネットラジオでかけたり、BGMとして使用することはそれほど難しいことではない。それぞれの条件にあわせて使えば良いだけで、あらかじめ使用のための準備さえしておけば、それほど気になる条件でもない。
CCライセンスは、4種類の条件(表示・非営利・改変禁止・継承)が前提としてある。
- 表示(BY: Attribution):作品のクレジットを表示すること
- 非営利(NC: NonCommercial):営利目的での使用をしないこと
- 改変禁止(ND: NoDerivs):元の作品を改変しないこと
- 継承(SA: ShareAlike):元の作品と同じ組み合わせのCCライセンスで公開すること
基本的にはこの4つの条件を組み合わせた6種類のライセンスが使われている。
ネットラジオでかける行為が改変に当たると考えられる場合には、残念ながらこの条件(ND)が付けられている楽曲を利用することはできない。改変に当たるかどうかについては、議論の余地はあるだろうが*2、原作者にとって望まない使用をしてしまうリスクを避けるという意味では*3、使用しない方がよいのかもしれない。ただし例外として、改変禁止を付けている曲の原作者に、ラジオ、ポッドキャストでの使用の可否について公表を前提に直接質問し、その情報を「お勧めBGM Wiki」などを作り、そこで共有することもできるかもしれない。
改変禁止については上記のスタンスでいるので、6種類のCCライセンスのうち、改変禁止を含まない4種類のCCライセンスについての解説を、クリエイティブ・コモンズ・ジャパンのサイトより以下に転載する。
表示(CC BY)
原作者のクレジット(氏名、作品タイトルとURL)を表示することを守れば、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可される最も自由度の高いCCライセンス。
表示-非営利(CC BY-NC)
原作者のクレジット(氏名、作品タイトルとURL)を表示し、かつ非営利目的であれば、改変したり再配布したりすることができるCCライセンス。
表示-継承(CC BY-SA)
原作者のクレジット(氏名、作品タイトルとURL)を表示し、改変した場合には元の作品と同じCCライセンス(このライセンス)で公開することを守れば、営利目的での二次利用も許可されるCCライセンス。
表示-非営利-継承(CC BY-NC-SA)
原作者のクレジット(氏名、作品タイトルとURL)を表示し、かつ非営利目的に限り、また改変を行った際には元の作品と同じ組み合わせのCCライセンスで公開することを守れば、改変したり再配布したりすることができるCCライセンス。
以上の4つのCCライセンスが付けられている楽曲は、それぞれの条件に従うことでネットラジオでかけたり、BGMとして使用したりできる。
実際にCCライセンスの曲をネットラジオでかけるためには
ここまでは、JamendoにあるCCミュージックを使おうぜ、CCライセンスって何なの?というお話だったが、次は具体的に曲をかける、BGMとして使用するためには、どうすればどのライセンスの曲が使えるのか、というお話。ポッドキャストにも適用できるお話かと。
a. 使用曲のミュージシャン名、曲名等のクレジットを入れる
- CC BY
CC BYの曲であれば、どんなラジオであっても使用曲のクレジットを入れることで、使用可能。クレジットの表示については、その曲をかける際/BGMとして使用している最中に話すのが望ましいとは思うのだが、番組の最後にまとめて紹介するという形も取り得るのかもしれない(たとえばビデオ作品では最後にクレジットが表示されるケースが多い)。CCライセンスで曲を公開しているミュージシャンの多くは、その曲と、その曲の作者である自分の存在を広めたいと考えているだろうから、できる限りその気持ちを汲み取った形であるといいんじゃないのかな*4。
営利を目的としていたり*5、自身が配信している番組にCCライセンスを付けることができなかったりする場合には、CC BYの楽曲のみの使用となる。
この表示条件(BY)はどのCCライセンスにも付けられているので、以下に解説する条件においても同様にクレジットを入れる必要がある。
b. 営利目的のラジオではない
- CC BY、CC BY-NC
営利を目的としたネットラジオというのはほとんどないので、NC(非営利)の条件は特に考慮しなくても満たしていることがほとんどだろう。なので、非営利目的のラジオ(つまりほとんどのネットラジオ)では、クレジットさえ明示すればCC BY、CC BY-NCで公表されている楽曲が使用できる。
c. 自分のラジオをCCライセンスで公開できる
継承条件(SA)が付けられたCCライセンスの曲を使用する場合、元の作品と同じCCライセンスを自身の作品につけなければならない。基本的に、個人が非営利で行なっているネットラジオ、ポッドキャストに関しては、CCライセンスを付けたところでネガティブな結果が生じる可能性は極めて低いと思っているので、さほど高いハードルだとは思いがたい。
継承条件の作品を使用するに当たっては1つ注意すべき点がある。この条件が付けられたライセンスには「CC BY-SA」と「CC BY-NC-SA」の2つがあるのだが、一方の作品を使用する場合、もう一方の作品の条件を満たすことができない。つまり、1つの番組内で「CC BY-SA」の作品と「CC BY-NC-SA」の作品を一緒に使うことはできないということ。「CC BY-SA」の曲を使う回と「CC BY-NC-SA」の曲を使う回とで自身の番組に適用するCCライセンスを適宜変えることで両方の曲を使うことは可能だろう。この解釈については多様な議論がありうるのだろうが、ここではわかりやすさを優先することにしたい。
- c-1. CC BY、CC BY-NC、CC BY-SA
自身の非営利目的のネットラジオにCC BY-SA(表示-継承)を適用した場合、クレジットを表示することでCC BY、CC BY-NC、CC BY-SAのCCライセンスが適用された楽曲を使用できる。
- c-2. CC BY、CC BY-NC、CC BY-NC-SA
自身の非営利目的のネットラジオにCC BY-NC-SA(表示-非営利-継承)を適用した場合、クレジットを表示することでCC BY、CC BY-NC、CC BY-NC-SAのCCライセンスが適用された楽曲を使用できる。
- c-3. CC BY、CC BY-SA
営利を目的としたネットラジオの場合でも、CC BY-SA(表示-継承)を適用することで、CC BY、CC BY-SAのライセンスが適用された楽曲を使用できる。
自分の番組がどのCCライセンスの曲を使えるかを考えよう
いろいろまどろっこしく書いてきたが、自身の番組でクレジットを表示できるか、非営利で配信しているか、CCライセンスを適用することができるか、の3点を考慮すれば、自ずと使用できるCCライセンスの範囲が決定される。その範囲内の楽曲を使用すれば良いだけなので、それほど面倒ではないだろう。
1つ面倒があるとすると、これは使いたいという曲を探し出すのが最初のうちは大変だということだろうか。ただこれも、Wikiなり何なりで互いに情報を共有し合うことで大幅に軽減できる負担ではある。リスナーからのリクエストを募ることもできるだろう。
また、Jamendoには、6つのCCライセンスごとにアルバムを検索できる機能があり、自分の番組にマッチしたCCライセンスのアルバムを容易に探せるようになっている。
サイト上部の"Music"から"Creative Commons"を選択すると
6つのCCライセンスごとにカテゴライズされて一覧が表示される。
ライセンスごとの"more albums…"からさらに多くの結果を見ることができる(最初は人気順で表示されるので、一通り聞いてみるといいだろう)。上記のスクリーンショットにCC BYのアルバムとしてあがっているAntony Raijekovの"See U"やRevolution Voidの"The Politics of Desire"などは、BGMとしても使いやすそうなので*6是非聞いてみていただきたい。
Jamendoの使い方については、以前「Jamendoの歩き方、または音楽との出会い方」というJamendoの使い方についてのエントリを書いたので、こちらも参考に。手前味噌ではあるが、私のTumblr「Sharing is Caring」にてJamendoで出会ったお勧めのCCミュージックを紹介しているので、こちらも参考にしてもらえれば幸い。
また、前回のエントリにて紹介した「にたうた検索」などを利用して、使えそうな楽曲を探すのも良いかもしれない。CC BYとBY-SAのアルバムが探せるよ。
余談
んー、ここまで書いてアレなんだけど本当はクリエイティブ・コモンズに詳しいとか、そういうことはないんだよね…。ただ、これまで自分なりに調べて理解していることをここでは書いたつもり。何か間違い、思い違いなどあれば、遠慮なくご指摘くださいませ。
あと、Jamendoでアルバムを公開しているミュージシャンが、彼らの曲を使ってもらうことを望んでいるんじゃないかって書いたけど、全員が全員そうだとまでは言わないにしても、実際にそういう体験をしてたりもする。LoudogとかThe Gasoline Brothers、Mister Electric Demonなんかは、もともとお気に入りのミュージシャンだったけど、使わせてもらったうえに逆にお礼まで言われちゃって、さらに好きになった。できれば、もっとたくさんの人に、この輪に加わって欲しいなと思うよ。
追記
Jamendoでアルバムを公開している日本のミュージシャンも少なくない。個人的に気に入っているミュージシャンはたくさんいるのだが、BGMとしての使用しやすさでいえば、graphiqsgroove(@graphiqsgroove)の"graphiqsgroove2009"、Grünemusik(@nankado)の"Click Click Single"などがオススメ。こちらも良かったら聞いてみてくださいな。
なお、当ダイアリーの私が書くなどしたものについては、煮るなり焼くなり好きに使ってもらってかまいません。ご自由にご使用ください。
*1:いずれもライブビデオストリーミングサービスではあるが
*2:たとえば、[ポ] クリエイティブ・コモンズの派生禁止作品のBGM使用 - ...My cup of tea...、CCLに制限を加えること、または制限を緩めることについて | anobota)、CCライセンスでの孫コピー制限の可否と、"改変不可"コンテンツの一部利用。 - あそことは別のはらっぱ。など。ネットラジオ、ポッドキャストなどを二次的著作物と捉えるか、編集著作物と捉えるかで扱いが異なってくる。
*3:あくまでも無用のトラブル、リスクを極力回避する試みとして
*4:たとえばBGM使用の場合、曲が変わる毎にクレジットを入れるのは難しいかもしれない。その場合、1回の配信につきCCで公開されているアルバム1枚をピックアップし、そのアルバムの曲だけをBGMとして使用するという形にすれば、最初に「今日のBGMは『○○』の『××』というアルバムの曲を使用しています」と紹介し、最後に「今日のBGMは『○○』のアルバム『××』から「asdf」「ghjk」[…]の○曲を使用させてもらいました。」と入れることで、使用する側のコストを低減しつつ、原作者にも喜ばれる形を作り出すことはできるかもしれない。
*5:たとえば企業体として運営されている場合や、自社の製品を宣伝するなどの目的だと判断されうる場合、ほとんどないと思うが有料でネットラジオを配信している場合など
*6:アルバムとしてもすこぶる良いよ。