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原子爆弾のやさしいつくりかた

小宮山亮磨

以下の文書はThe Journal of Irreproducible Results, Volume 25/Number4/1979. P.O. Box 234 Chicago Heights, Illinois 60411(訳注1) より転載。

1.はじめに


アメリカ合衆国法廷で、原子爆弾のつくりかたを記した記事の大衆誌掲載を制限する判決がいくつか下されたために、近年世界的な論争が巻き起こっています。そのような情報が世間に広く知れわたれば、国家の安全が危うくなるから、というのがおきまりの判決理由です。でも、大都市にあるほとんどの図書館に行けば、原爆製造に必要なすべての情報がすぐ手に入るのはよく知られていることで、したがって裁判所の公式見解がもっと重要な要素、すなわち平均的な市民はアホすぎて原爆なんか作れやしないという事実を隠蔽せんとするものであることはあきらかでしょう。アメリカ司法としては、おまえらキャベツ並の知性すら持ち合わせていないとほのめかして、国民の大部分を侮辱するわけにはいかないのです。したがって、国家の安全を規制の口実にした「公式見解」が発表されるわけですね。

このようなまちがった情報が広まった結果として、変な噂が不幸にしてうまれてしまいましたが、そんなのとはサヨナラしたいですよね(いや、是非ともサヨナラしましょう)。というわけで、今月の課題は核反応装置の組み立てです。これにより、こうしたプロジェクトについてみなさんにもありがちな誤解が、見事消し去られるといいですよね。10個の易しいステップで装置を自作して、好きな形で保有活用することがどんなに簡単かはすぐにわかることでしょう。もう政府や裁判所にうるさくあれこれ言わせません!

この課題には、どのくらいの出来をめざすかにもよりますが、500万ドルから3000万ドルの資金が必要となります。

先週(訳注:たぶん「先月」の誤り)のコラム「タイムマシーンをつくろう」からはじまったステップバイステップ形式がご好評いただきましたので、今月のコラムも同じ形式でいきましょう。

2.つくりかた
  1. まずはじめにお近くの業者さんから、兵器にできるくらい品質のよいプルトニウム()を110ポンド(50キロ)ばかり手に入れましょう。原子力発電所はおすすめできません。プルトニウムが大量に消えたりしたら、発電所のエンジニアが悲しみますからね。お近くのテロ組織に連絡をとるのもよいし、近所にある青少年育成会(訳注:the Junior Achievement。アメリカでできた教育団体で、日本にもある)に相談するのもひょっとしたら吉かもしれません。

  2. プルトニウム(とくに精製後で純度が高いものほど)がちょっぴり危険なシロモノだということをお忘れなく。さわったあとはセッケンとぬるま湯で手を洗いましょう。子供やペットがいじくりまわしたり食べちゃったりしないようにも気をつけて。プルトニウムの残りかすは、殺虫剤として最高です。できたら近所のゴミ捨て場で鉛の箱をひろって、ブツはそこにしまっておくのがよいでしょう。古いコーヒーの缶でもだいじょうぶです。

  3. 装置をしまう金属製の入れ物もいっしょにつくりましょう。通常の金属板を曲げて、ブリーフケースやおべんとうばこ、あるいは車のビュイックなんかに見せかけましょう。アルミホイル(訳注:原文ではtinfoil)は使わないこと。

  4. 半球型のプルトニウムのかたまりを2つつくって、4センチくらい離します。プルトニウムのカスがでないように、ゴムのセメントで固めましょう。

  5. さて次に、TNT火薬を220ポンド(100キロ)くらい手に入れましょう。ゼリグナイト(訳注:ダイナマイトの一種)のほうがずっといいのですが、あつかいが大変です。この品物は親切な機械オタク野郎がよろこんで用意してくれるでしょう。

  6. ステップ4でつくった半球型のかたまりのまわりにTNT火薬をつめこみましょう。ゼリグナイトが見つからなかったら、TNT火薬を粘土といっしょにつめこんだってかまいません。色つき粘土でもよいですが、ここでそんなに手をかけることもないですね。

  7. ステップ6でつくった装置をステップ3の入れ物にいれましょう。それから「基地外ボンド」みたいな強力接着剤をつかって、入れ物に半球型のかたまりをしっかりと固定しましょう。振動や手荒な取り扱いのせいでいきなり爆発したりするのを防ぐためです。

  8. しかけを爆発させるために、無線の制御装置を手に入れましょう。ラジコンの飛行機やラジコンカーのなかに入っています。起爆剤のふたにぶつかって小さい爆発をおこすことになるリモコンのプランジャーを、ほんのちょっとの努力でつくれますよ。起爆剤のふたは、近所のスーパーの電気部品コーナーで見つかります。Blast-O-Macticブランドなら、リサイクル用のデポジット(預託金)不用でリサイクルも受け付けてもらえず、(レゲエな方たちに持って行かれる心配もないので) おすすめです。

  9. つぎに、完成した装置が近所の人や子供たちに見つからないようにしましょう。ガレージは湿度が高くて温度も異常に上がることがあるので、おすすめできません。核爆弾はこういう不安定な環境ではかってに爆発することが知られています。ろうかの戸だなや台所の流しの下などにしまえばかんぺきです。

  10. さあいよいよ、あなたは実用的な核爆弾の立派なオーナーです! これでもうパーティでの会話には事欠かないでしょうし、ピンチのときには国家防衛にもつかえますよ。

注:
原子番号94のプルトニウム(Pu)は放射性金属原子です。ネプツニウムの崩壊によってできる原子で、化学構造はウラニウム、サツリウム、ジュピタニウム、マリスム(訳注2)と似ています。

3.メカニズム


この装置は基本的に、TNT火薬の爆発でプルトニウムがある臨界質量にまで圧縮されたときに起動します。臨界に達すると、ドミノ倒しに似た核連鎖反応が始まります(連鎖反応については1968年3月の本コラム「ドミノの行進(マーチ)」(訳注3)で説明しました)。連鎖反応はすぐに巨大な熱核反応をうみだします。そしてはい、10メガトンもの大爆発のできあがり!

4.来月のコラム


来月のコラムでは、となりの奥さんのクローンをつくるかんたんな6つのステップについて勉強しましょう。この課題で楽しくてお得、エキサイティングな週末が過ごせることうけあい。必要なのはふつうのキッチン用具だけ。それじゃ、また来月!

5.コラムのバックナンバー訳注4
  1. 生身のティラノサウルスをつくろう!
  2. 太陽系をつくろう!
  3. タイムマシーンをつくろう!
  4. 反重力マシーンをつくろう!
  5. 宇宙人とコンタクトをとろう!



訳注1:
この雑誌は現在も、The Annals of Improbable Research と名前を変えて存続しています。(母屋コメント:厳密には、存続していません。AIR は、JIR とはまったく無関係な別の雑誌であり、継続ではありません。たまたま内容や編集スタッフがまったく同じだったというだけです。)

訳注2:
これはジョークで、こんな原子はほんとはありません。プルトニウム、ウラニウム、ネプツニウムってのはみんな神話にでてくる神様(それぞれプルートー、ウラヌス、ネプチューン)にちなんでつけられた名前で、これは実在します。でもサツリウム、ジュピタニウム、マリスムなんていう原子はほんとはないんだけれど、神話にやっぱりサトゥルヌス、ジュピター、ステラマリスっていう神様がでてくるから、こういう原子名をかってにでっち上げて遊んでいるわけです。

訳注3:
たぶんこれはベトナム戦争とドミノ理論の話に関係した駄洒落だと思う。ドミノ理論っていうのは、冷戦当時のアメリカが信じてた国際政治の考えかたなんだけど、となりの国が共産主義になるとその国も病気に感染して共産国家になっちゃう。つまりそうやってドミノみたいにバタバタと共産主義が広がっちゃうわけで(ドミノの行進)、これはどこかで止めないと、アカが世界に蔓延することになるからヤバイ、と。で、当時の北ベトナムは共産主義の最前線で、ということは南ベトナムは資本主義(というか非共産主義、なのかな)の最前線で、そのぶつかりあいがベトナム戦争だったわけ。そして時まさに1968年の3月、つまりMarchに、ベトナムのソンミ村で米軍による虐殺事件があったのね。けっこうなスキャンダルだったらしいんだけど(「ブラックジャック」にもでてくるし)、たぶんこれ関係の話。確証はないけど。ちがうかなあ。(母屋コメント:むしろ 1968 年 1 月のテト攻勢が念頭にあるのではないかと)

訳注4:
この部分の別バージョンとしては:
  1. 試験管ベビーを作ろう! (1979 年 5 月)
  2. 太陽系を作ろう! (1979 年 6 月)
  3. 不景気を作ろう! (1979 年 7 月)
  4. 反重力マシーンを作ろう! (1979 年 8 月)
  5. 宇宙人とコンタクトしよう! (1979 年 9 月)

というものがある。


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