カレントアウェアネス-E
No.246 2013.10.10
E1484
毎年夏になると,函館市内の図書館では「はこだてLL文庫」という名のちょっと変わった展示が一斉に行われる。企画・運営しているのは,函館市内の図書館連携プロジェクトチーム「ライブラリーリンク」。函館市内の公共,大学,短期大学,高等専門学校等の9つの図書館が館種を超えて連携し,函館市民や学生に学習や読書のより充実した環境を提供することを目的に活動している。「はこだてLL文庫」は,ライブラリーリンク参加館のうち市民サービスを提供する図書館が,同時期に同一テーマでそれぞれの所蔵資料を展示する特別企画である。函館市民が市内の多様な図書館に足を運ぶきっかけづくりとして始めた「はこだてLL文庫」の魅力と効果について紹介する。
「はこだてLL文庫」の魅力は,展示される本の多様さだろう。「はこだてLL文庫」は,共通のテーマに基づき,各館で選書や展示を行い,展示本のリストは「はこだてLL文庫目録」としてまとめ,ライブラリーリンクのウェブサイトで紹介している。初めて「はこだてLL文庫」を実施したとき,各館から提出された展示本リストに個々の図書館の特徴が見事に映し出されていることに驚かされた。公共図書館では,子どもから大人まで幅広く楽しめる本が選定された。一方,大学,短期大学,高等専門学校等の図書館では,科学的な切り口で選書がなされ,情報学,水産学,栄養学,脳科学,さらにはロシア文化など,函館市の高等教育機関での研究分野が顕著に見てとれた。共同開催の利点は,選書内容の多様さと豊かさであり,同時に各館のアイデンティティが際立つことである。これにより,函館市民に新たな本との出会いの場を提供することが可能になっている。これが「はこだてLL文庫」の最大の魅力である。
「はこだてLL文庫」は,2010年以来これまで5回開催し,総展示冊数は約1,800冊に及ぶ。その間,担当者として,一過性のイベントで終わることに「もったいない」という思いを持ち続けていた。毎回,各館では知恵を絞って選書し,工夫を凝らした展示が行われているのに,ライブラリーリンクのウェブサイトが伝えるのは,展示の概要と目録のみだったからである。「はこだてLL文庫」を通じて図書館間の交流が生まれ,利用者にも親しまれるようになったこの実験的展示が,期間が過ぎれば消えてなくなってしまうことにもったいなさを感じ,展示の様子を残しておけないか,と思案を続けた。
そこで新たな試みとして,今年からブクログ(E1201参照)を利用してみることにした。現実世界の「はこだてLL文庫」の本棚は各館に分散しているが,ブクログ上のバーチャルな本棚では,各館で展示しているすべての本を面出しで展示することが可能となる。また,各館でのリアルな展示の様子は写真に撮って,ライブラリーリンクのウェブサイトにまとめて掲載することも始めた。ブクログ上で本棚を確認し,気になる本があれば図書館へ足を運んでもらいたい,遠く離れている人には,函館の図書館の蔵書のおもしろさに気づいてもらいたいという思いがあった。今後は,ブクログの特徴でもあるコミュニティ機能を積極的に活用することで,「はこだてLL文庫」が人と人をつなぐという新たな役割を持つと期待している。
ライブラリーリンク参加館の中には,学生と図書館が連携する学生協働(CA1795参照)の企画として「はこだてLL文庫」を実施する館も増えてきた。このうち,学生の自主性の発揮につながった函館工業高等専門学校の事例を紹介する。同校では,図書館の利用促進のために学生を巻き込んだ活動ができないかと模索していた。そこで,2010年に「はこだてLL文庫」が始まった際,学生から協力者を募集した。集まった5名の学生は主体的に選書し,紹介文や飾りを作り,展示を完成させた。初めての経験に苦労もあったが,高専生ならではの視点とセンスで選ばれた本が集まり,紹介文もそれぞれユニークで,思わず手にとる利用者もみられた。現在函館工業高等専門学校図書館では,学生が「図書館サポーター」として,企画展示のほかに,朗読会や選書会などに主体的に関わるようになり,その活動は利用者を巻き込むものへと拡大している。
函館市には比較的小規模な図書館が多いが,それぞれ特徴的な蔵書を有し,全体を合わせると蔵書数は150万冊以上になる。各図書館が連携し,相互に補完することで大規模な総合図書館の役割を果たすことができると考えている。「はこだてLL文庫」は図書館連携の1つの試みであったが,当初の目的を超えて様々な人を巻き込む活動へと進化している。今後も試行を重ねながら,図書館,学生,さらには市民を有機的につなぐ活動として「はこだてLL文庫」を発展させたい。
(公立はこだて未来大学情報ライブラリー・粟谷禎子)
(函館工業高等専門学校総務課学術情報係・山本紀子)
Ref:
http://librarylink.jp/
http://booklog.jp/users/librarylink
https://www.sciencefestival.jp/festival/event_290.html
E1201
CA1795