ビッグデータ選挙の時代
史上初のビッグデータ大統領は、ビッグブラザーと化してしまうのか――いやぁ、これが言いたかっただけなのですが。ただし笑ってばかりもいられない話のようです:
■ Three Big Questions About Obama's Massive Voter Database (The Atlantic Wire)
2008年、ネットの力をフル活用して大統領選を戦ったオバマ米大統領。再選を狙う今回の武器は、「ソーシャル+データ分析」であることが各所で指摘されています。実際に多くのデータ分析担当者が選対チームに参加し、市民の反応や投票行動を分析、ソーシャルメディア対応を始めとした選挙戦略へと反映させているそうです。
その一例がこちら。ProPublicaのインタラクティブコンテンツなのですが、オバマ陣営が選挙キャンペーンの一環として送信したメールを収集し、受信者の属性によっていかに内容がカスタマイズされているかを解説しています:
■ Message Machine: “You Probably Don’t Know Janet” (ProPublica)
実際に触れてみればお分かりいただけると思いますが、6通のサンプルはいずれも寄付を呼びかける内容であるものの、その文章には大きなバリエーションがあります(上のタブでサンプルを切り替えることができ、追加/削除されたセンテンスが色違いで表示されます)。恐らくデータ分析によって導き出された、「ある属性を持つ人々にとってもっとも響く文章」が選ばれるようになっているのでしょう。一般企業のマーケティングであれば驚きではないかもしれませんが、米国ではここまで「ビッグデータ選挙」が進行しているわけですね。
しかしそうなると気になるのが、当然ながらプライバシーの問題。ましてや現職の米大統領が選挙民の行動分析を行うとあれば、懸念の声が出ない方がおかしいでしょう。ところがやっかいなことに、オバマ陣営は敵陣に戦術をマネされるのを心配して、どのようなデータ分析とデータ活用を行っているのかを明らかにしようとしていないのだとか。Atlantic Wireの記事では、問題を以下の3つの要素にまとめ、いずれも明確な答えが得られていないことを指摘しています:
- 選挙キャンペーン用にどのような個人情報が集められているのか
- 集められた個人情報は選挙の終了後にどうなるのか
- 選挙キャンペーンのデータベース上から自分の個人情報を削除してもらうことはできるのか
確かにこれらの点は、データ分析を選挙の武器にしようとしている側からすれば明かしたくない内容でしょう。下手に明かしてしまえば、対立候補に同じデータを集められたり、逆にせっかく集めたデータに削除申請を出され、その対応に追われてしまうなどという恐れもありますし。しかし一般市民の側からすれば、自分に関するデータがどこでどう扱われているか分からないという状況は、到底許容できるものではありません。
恐らく他の分野と同様、「選挙におけるデータ活用」というテーマにおいても、何らかの規制が検討されてゆくことになるでしょう。それが技術の変化に追いつくぐらいのスピードで進めば良いのですが……うーん、それも難しいか。私たちとしては、少なくとも行動分析に基づくテクニックで印象をごまかされないように、日々情報収集して政治家の本質を把握するよう心がけるしかないのかもしれません。
ビッグデータ革命 無数のつぶやきと位置情報から生まれる日本型イノベーションの新潮流 野村総合研究所 アスキー・メディアワークス 2012-03-09 売り上げランキング : 45925 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
【○年前の今日の記事】
■ デジカメにもiPodを (2007年3月29日)
■ 「試着室」を工夫する (2006年3月29日)