「曲がったキュウリだからといって、食べられないわけではない」
子どものころ、安売りの曲がったキュウリを買っては、よく祖母がそう言っていた。味を楽しみ、栄養を摂るだけなら、少しぐらいキュウリの形が悪くても問題はない。真っ直ぐなキュウリに比べて何となく気分は悪いかもしれないが、気持ちと価格の“トレードオフ”なら価格を選択する人も多いだろう。
曲がったキュウリのように、世の中には気持ちの問題さえ解決すれば、安く手に入るものがある。賃貸住宅でそれに当たるのが“事故物件”だ。
事故物件とは、以前住んでいた人が何らかの理由で部屋の中で亡くなった物件のこと。部屋で先住者が亡くなった事実を次の借り手に告知することは、宅建業法や消費者契約法で義務付けられているが※、事故物件には生理的に拒否感を持つ人も多いのでなかなか借り手は見つからないもの。そこで、誰かが借りた実績を作って告知義務をなくすために、相場以下の家賃で貸し出されるのだ。
マンガや小説では、賃貸物件を借りようとした人が事故物件を勧められるというシーンが出てくるが、実際に不動産屋に行って事故物件を勧められたという話を筆者は聞いたことがない。そこで、事故物件はどのように流通しているのか、調べることにした。根っからのゲーム好きの筆者、上京した時に秋葉原に住もうとしたが、家賃の高さから断念した経験がある。もし秋葉原に格安の事故物件を見つけられたなら、その夢もかなうだろう。
とはいえ、どうすれば事故物件が見つかるものなのか。分からないので、まずは賃貸業者の営業所を直接訪ねて、事故物件の有無を聞いてみることにした。
大半の業者では「扱っていない」「知らないねえ」などと門前払いだったが、御徒町のある賃貸業者で事故物件を扱ったことがあるという担当者に会うことができた。事故物件は、大家にもよるが1〜2年限定で月2〜3万円安くなるというのが標準という(礼金はなし、敷金は1カ月に減額するのが一般的とか)。
秋葉原近辺の事故物件を探してもらうように依頼したが、「それは難しい」と担当者。賃貸業者では顧客の希望物件を探すため、データベースに家賃や路線などさまざまな条件を入力して検索するのだが、「事故物件」という条件は存在しないのだ。「単に安い物件なら簡単に探せますが、設備が整っていながらワケありで安いという物件は探しにくい」(担当者)。
「そんなに手間にはならないので、ある程度の条件さえ伝えていただければ、毎日新しく出てくる物件の中から検索して探しておきますよ」と担当者。そこで、「秋葉原近辺の1DK、風呂・トイレ付で月6万円の物件」(注:相場より3万円程度安い)とリクエスト。「見つかったら携帯に連絡するので楽しみにしておいてくださいね!」と担当者から心強い言葉をもらった。
業者からの連絡を待つ間、ほかにも事故物件を探す方法はないかと調べてみた。すると、いくつかの公営住宅ではWebサイトを通じて、事故物件の借り手を募集していることが分かった。
中でも最も多くの物件を紹介しているのが、独立行政法人のUR都市機構だ。全国77万戸(2006年度末)の賃貸住宅を保有する同機構では、事故物件を「特別募集住宅」と称して、該当する物件が現れ次第Webサイトに掲載して、借り手※を募集しているのだ。
UR都市機構の特別募集住宅の特典は、2年間家賃が半額になること※。そして家賃だけでなく、敷金も通常の半額で済む(ただし割引期間後も住み続ける場合、差額を払わなければならない)。また住戸内は、通常の補修のほかにも先住者が亡くなった状況に応じて、浴槽、便器、洗面器などの設備を交換している。
UR都市機構は全国6エリアで営業しているが、関西エリア、中部エリア、九州・沖縄エリアについては、それぞれリンク先で物件の一覧を掲載して、借り手を募集している。残りの3エリアのうち、北海道・東北エリアと中国・四国エリアでは、特別募集住宅が滅多に出ないことからWebサイトには掲載せず、営業センターのみで募集しているという。
しかし、最も物件が多いはずの関東エリアでは、Webサイトに特別募集住宅の一覧を掲載していない。なぜか? それは、募集戸数を上回る申し込みが毎回来ているからだ。そのため、以前は先着順で特別募集住宅の借り手を決めていたのだが、より公平にするために2003年10月からは毎月初頭に抽選会を行って、借り手を決定するようになった。中でも家賃が高い東京地区は特に需要があることから、2008年4月から割引期間が1年間に短縮されている。
抽選会の話は東京都・八重洲の営業センターで聞いたのだが、事故物件に人気が集まっているとは少し信じがたい話。そこで実際に抽選会に行って、その真偽を確かめることにした。
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