9月上旬にドイツで開かれた世界最大級の家電見本市「IFA」。韓国・サムスン電子やソニーがスマートフォンやウエアラブル端末などの開発力を競う中、パナソニックが目玉の1つとして発表したのは、フルハイビジョンの4倍の解像度を持つ4K画質の20インチタブレット「TOUGHPAD(タフパッド) 4K」だった。

パナソニックが12月に発売する4K画質の20インチタブレット『TOUGHPAD(タフパッド) 4K』

 自動車メーカーや建設設計事務所などの法人向け商品とは言うものの、価格は標準モデルが45万円前後と、現在売れ筋の7インチタブレットの約20倍。20インチタブレットとしては世界最薄(12.5mm)、最軽量(2.35kg)をうたうが、バッテリー駆動時間は2時間しかなく、持ち歩きに適しているとは思えない。

 新商品に搭載した4K液晶パネルは自社開発品で、組み立てを含めて国内で一貫生産するという。プレスリリースに書かれた情報で判断する限り、自社の液晶技術を誇示するために、話題先行で最高スペックの商品を作ってみただけなのではないかと疑いたくもなる。一体、パナソニックはどういう意図でこのような製品を開発したのだろうか。

ペン先に込めた独創性

 「4Kの画面がいかに綺麗かを訴えても仕方ない」

 4Kタブレットの開発を指揮したAVCネットワークス社ITプロダクツ事業部の原田秀昭事業部長に質問をぶつけたところ、全く予期しない、こんな答えが返ってきた。むしろ原田氏は「4Kで顧客企業の生産性の向上にどのように貢献できるのかを具体的に示すことに力を注いだ」のだという。

 実は原田氏らが製品開発で最も独創性を追求したのは、タブレット本体ではなく、オプションで販売する電子タッチペンだったのだそうだ。パナソニックはスウェーデンのアノト社が開発したデジタルペンの位置決め技術を初めてタブレットのディスプレーに採用。細かい文字や曲線が紙の上のように描ける新たな電子タッチペンを生み出した。

 肉眼では見えないが、TOUGHPAD 4Kのディスプレーの表面には赤外線を吸収する特殊なドットパターンが約1.8ミリ間隔で印刷されている。電子タッチペンの先端に埋め込まれたカメラがドットの配置を読み取ることでペン先の位置を特定し、その信号を近距離無線通信技術「Bluetooth」を使って4Kタブレット本体に送信するという仕組みだ。

4Kタブレットの開発を指揮したITプロダクツ事業部の原田秀昭事業部長

 新方式の電子タッチペンと高精細の4K液晶ディスプレーがあいまって、TOUGHPAD 4Kの画面には思い通りの文字や図形を紙の上のように繊細に描くことができる。これは構造上、ペン先と実際に描く線の間にズレ(視差)が生じてしまう従来の電磁誘導式の電子タッチペンでは味わうことのできなかった感覚だ。

 例えば設計図面を大量に扱う自動車や建築物などの設計部門にTOUGHPAD 4Kを導入すれば、業務をペーパーレス化するうえで有力なソリューションとなりうる。もちろん、図面の上に書き込んだ文字や図形を、そのままデジタルデータとして保存することも可能。原田氏が言う「顧客企業の生産性の向上」の意味は、ここにある。

顧客に突き刺さるモノ作り

 パナソニックは今年4月に約12年ぶりに事業部制を復活させ、それまで88あったビジネスユニットを49の事業部に絞り込み、各事業部長が生産から販売まで責任を持つ体制に改めた。津賀一宏社長は2015年度までに5%の営業利益率を達成するよう各事業部に求めており、原田氏が率いるITプロダクト事業部も例外ではない。

 原田氏はこの目標の達成に必要な条件として、「狙った業界でシェアナンバーワンを獲得すること」を挙げる。ここぞと決めた分野では必ず顧客に突き刺さるモノ作りを実践することで、値下げ競争に飲み込まれない優位性を築く考え。そのこだわりは、今回の製品開発のプロセスに読み取ることができる。

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