ホンダが2015年2月13日に発売した新型ミニバン「ジェイド」。1530mmという低い全高が特徴だ

 ホンダが社長交代を発表した。現在の伊東孝紳社長には、社長就任前の、まだ本田技術研究所の社長だった時代にインタビューしたことがある。田中角栄元首相は「コンピューター付きブルドーザー」と呼ばれていたそうだが、伊東社長も同様に、まさに馬力も知性も備えた人という印象をその時に受けた。

 リーマン・ショックの直後に就任し、緊急避難的な対策で会社を再建し、ようやく攻勢に転じたところで見舞われた「フィットハイブリッド」やタカタのエアバッグの大規模リコール。軽自動車スポーツカー「S660」や、スーパースポーツカーの新型「NSX」、「F1」復帰など、自らが撒いた種を刈り取るところまで社長交代はないかなと思っていたが、予想は外れた。外れついでにいえば、次期社長も意外な人物だった。私は別の人物を予想していたが、その人は次の次になるのだろうか。

 さて、今回取り上げるのはホンダが2月13日に発売した新型ミニバン「ジェイド」である。6人乗りの3列シート車でありながら、全高が1530mmと、「フィット」の2輪駆動車(1525mm)並みに低いのが特徴だ。開発担当者によれば「シャークフィンアンテナがあるため1530mmになっているが、車体の実質的な全高を1500mmに抑えることが目標だった」という。つまり、ミニバンでありながら、通常のセダンやハッチバック並みに全高を抑えることを目指して開発したということだ。

 ホンダには、2014年まで生産していた2代目「ストリーム」や、2013年に5代目に切り替わる前の4代目「オデッセイ」といった、全高を1545mm(2輪駆動仕様)に抑えたミニバンがあった。新型ミニバンのジェイドには、こうした低全高のミニバンに乗っていたユーザーを惹きつけたいという狙いがある。

 ジェイドの発売を見ていると、ホンダという会社はつくづく面白い会社だと思う。ある車種の開発責任者が言っていたことを、別の車種の開発者があっさり否定するからだ。ホンダは、2013年に5代目オデッセイを発売した際に、それまでのオデッセイの特徴だった低全高のデザインをやめて、室内空間を重視した全高の高いデザインに切り替えた。また、リアのドアも、セダンのようなヒンジ(蝶番)の付いたドアから、スライドドアに変更した。このとき開発責任者は、「ミニバンユーザーの嗜好が変わり、もはや全高が低かったり、ドアがヒンジ式だったりすると、それだけで選択肢に入れてもらえない」と変更の理由を語っていた。

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 この時の説明を信じれば、もはや背の低いミニバンを選ぶユーザーはいないということになる。それでは、あえて背の低いミニバンを出した狙いは何なのか。ジェイドの開発者に尋ねると「背の低いミニバンの需要はある」という。というのも、5代目オデッセイ発売後も、ストリームや、3代目・4代目オデッセイに乗っていたユーザーが、5代目に買い替えないのだという。こうしたユーザーは、乗用車に近いドライビングポジションや、運転感覚を好んでこうした背の低いミニバンを選んでいたので、背の高くなった5代目オデッセイではニーズを満たせないというのだ。

 ただ、疑問に感じる点もある。5代目オデッセイでは飽き足らないユーザーがいるのが分かってからジェイドを開発し始めたわけではないからだ。ジェイドの日本での発売は2015年2月だが、実は中国市場ではすでに2013年9月から発売している。5代目オデッセイが日本で発売されたのは2013年11月だから、ジェイドのほうが発売は先なのだ。少なくとも、5代目オデッセイとジェイドの開発は同時期に進行していたことになる。つまり、相反する価値観のミニバンの開発が、ホンダの社内では同時に進行していたことになる。ホンダのことを面白い会社と言ったのはこのことだ。

ストリームの後継車ではない

 車体寸法からいえば、ジェイドの4650mmという全長は4代目オデッセイよりも全長が150mmも短く、2代目ストリーム(4570mm)に近い。なので、ジェイドをストリームの後継車種と見るジャーナリストも多いようだ。かく言う筆者もそういう印象を持っていた。ただ、ジェイドの開発担当者は、ストリームの後継車というよりも、4代目オデッセイの後継車種として位置づけているようだ。確かにジェイドの価格帯は272万円からと、2代目ストリームの発売当初の価格が180万6000円からだったのに比べて100万円近く高く、オデッセイの売れ筋価格帯に近い。

 2代目ストリームや4代目オデッセイの1545mmという全高は、ミニバンとしては突出して低い。その全高をさらに削って、車体の実質的な全高を1500mmにまで削った理由は、完全に乗用車と同等のドライビングポジションを実現するためだ。2代目ストリームや4代目オデッセイも、ミニバンとしてはかなり低い全高を実現していたが、それでもセダンから乗り換えるとドライビングポジションがやや高く感じさせていた。これに対してジェイドでは、「セダンから乗り換えても全く違和感のないドライビングポジションを実現した」と開発担当者は説明する。

 ジェイドのパワートレーンは、2013年12月に発売した「ヴェゼル」のハイブリッド仕様と同じ、排気量1.5Lのガソリンエンジンに出力20kWのモーターを組み合わせた1モーターハイブリッドシステム「i-DCD」である。フィットハイブリッドのシステムとも基本的には同じなのだが、フィットのエンジンがポート噴射(燃焼室の手前で燃料と空気を混ぜる方式)であるのに対して、ヴェゼルとジェイドに搭載されているエンジンは、ガソリン直噴エンジン(燃焼室内に燃料を直接噴射する方式)であるのが異なるところだ。直噴では空気だけを燃焼室内に吸い込むため、燃料と空気を予め混ぜておくよりも多く空気を吸い込めるので、出力を高めるのに有利だ。

ジェイドのパワートレーン。1.5L・直噴ガソリンエンジンにモーターを組み合わせたハイブリッドシステム「i-DCD」
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