写真/佐藤久、撮影協力/OVE南青山

東京の自転車インフラ整備は、ニューヨークやロンドンなど世界の主要都市と比べてはるかに遅れている――。今回の都知事選に合わせて、自転車レーンなどの整備を求め「都知事とつくろう、TOKYO自転車シティ」署名キャンペーンを展開している小林正樹さんに、東京の現状とキャンペーンの目的を聞いた。

(聞き手は田中太郎)

特定非営利活動法人、自転車活用推進研究会(自活研)は、今回の都知事選に合わせて、「都知事とつくろう、TOKYO自転車シティ」署名キャンペーンをウェブ上で展開していますね。反響はいかがですか。

小林:2月3日の時点で、連携サイトと合計して約6400件の署名が集まっています。もう少し多く集まると予想していましたが、都知事選が急に決まり、署名のためのサイトを開設したのが1月16日ですから、時間がなさすぎたのも事実です。それに日本ではまだ自転車レーンを利用したことも、見たこともないという人がとても多いことが影響しているのかもしれません。

 ただ、候補者の方たちに送付した「東京都における自転車活用政策の推進に関する要望書」への回答が6人の方から届いています。いずれも私たちの要望に賛同するもので、「どの候補が知事になっても自転車政策が進む状況を作る」という私たちの目的は達成できそうです。

せめて世界主要都市並みの自転車インフラを

要望の内容は、「せめて世界の主要都市並みの自転車インフラを東京都にも取り入れよう」というものですね。「ロンドンやパリと同レベルの、車道上の自転車レーンを軸とした自転車走行空間ネットワーク」「駅前駐輪場のみならず、街なかに分散設置された多様な駐輪スペース」「(2020年の東京)オリンピック期間中に急増する交通需要にも耐えうる、都心全域を網羅するシェアサイクル(都市型レンタル自転車システム)」――の3つの整備を挙げています。

小林:そうです。中でも、自転車レーンをはじめとする自転車走行空間の整備は、自転車政策の1丁目1番地です。車道の一部を使って自転車レーンをつくれば、自転車が走りやすいだけでなく、歩行者も安心して歩道を歩けるようになります。

ちょうど1年前に自活研の小林成基理事長にインタビュー(「『自転車は歩道を走るもの』という誤解をなくしたい」)させていただきました。もともと道路交通法では自転車は車両であり、車道を走ると定めているのに、自動車の交通量が増えた1970年に緊急避難的に「歩道を通っていい」というルールをつくり、それが今でも“常識”として通用している。自転車が歩道を通っていると、自動車から視認しにくく、交差点などで事故を起こすケースが多いそうですね。

小林:超高齢化社会を迎えるに当たって、自動車に乗らなくなった人たちが安心して歩ける街にするためにも、歩道を歩行者に返すことがとても大事になると思います。

自転車レーンはロンドンの100分の1

小林正樹(こばやし・まさき)
自転車活用推進研究会「都知事とつくろう、TOKYO自転車シティ」署名キャンペーン運営責任者。1970年静岡生まれ、1992年慶応義塾大学商学部卒、森ビル入社。1995から2008まで株式会社オプト取締役CFOとして財務を中心とした管理部門全般、上場準備、電通との資本業務提携などを担当した。2008年に自転車を開発する株式会社イルカを創業、代表取締役を務める

その話、小林理事長とのインタビューの締めの言葉と一緒です(笑)。ところで、署名サイトを見て初めて知ったのですが、海外の主要都市では自転車レーンの整備がずいぶん進んでいて、東京は取り残された感じですね。

小林:そうなんです。ニューヨークが1500キロメートル、ロンドンが900キロメートル、パリが600キロメートルなのに対し、東京はわずか9キロメートルで100分の1の規模しかありません。

 海外の都市ではいずれも2000年代に入ってからどの都市も変わりました。地球温暖化やヒートアイランド、肥満などによる医療費の増大、高齢化の進展などさまざまな観点から自転車に注目が集まり出しました。3つの都市は、市長が替わったことが大きな転機になりました。

 ロンドンでは2008年にボリス・ジョンソン市長が自転車政策を始めたのですが、2012年の市長選の時にサイクリスト4万人が署名して、自転車政策を継続してほしいとはたらきかけました。候補者7人のうち5人が受け入れました。結果として、ジョンソン市長が再選されましたが、たとえほかの候補が当選したとしても自転車政策は進んだと思います。

 この事例を自活研のセミナーで知って、「こうやればよいのか」と学んだことが今回の署名キャンペーンにつながりました。2012年当時は、猪瀬直樹前知事が就任したばかりだったので、「まだ4年先か。2020年の東京オリンピックには間に合わないな」と思っていました。しかし、こういう言い方は失礼かもしれませんが、猪瀬前知事の突然の辞職でチャンスがめぐってきました。猪瀬前知事が辞職願を提出した昨年12月19日の朝に自活研の小林理事長に「やりましょう」と電話をして準備に着手したのです。

そういう経緯があって、自活研の一会員である小林さんが運営責任者を務めているのですね。そもそも自転車に関心を持つようになったきっかけは何だったんですか。

小林: 2004年に結婚して家を引っ越したのをきっかけに折りたたみ自転車を購入して乗り始めたら、すごく楽しいと思ったのと同時に、いろいろな問題点が見えてきました。特に東京は自転車を乗るためのインフラが整っていないことを痛感しました。それで政策に関心を持つようになり、自活研のセミナーなどにも参加するようになりました。

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