2007年に「iPhone」を発売して以来、破竹の勢いだった米Appleの業績が2016年1~3月期にはいよいよ減収に転じる。スマートフォン用プロセッサ大手の米Qualcommの売上高は既に3四半期連続で減少している。米IT大手の2015年10~12月期決算は、スマホの進撃の終焉とクラウドの高成長とで明暗が分かれた。
売上高(伸び率) | 純利益(伸び率) *1 | 時価総額 *2 | |
---|---|---|---|
Apple | 758億7200万ドル(1.7%) | 183億6100万ドル(1.9%) | 5073億ドル |
Microsoft | 237億9600万ドル(-10.1%) | 49億9800万ドル(-14.8%) | 3826億ドル |
IBM | 220億5900万ドル(-8.5%) | 44億6300万ドル(-18.6%) | 1256億ドル |
Alphabet | 213億2900万ドル(17.8%) | 49億2300万ドル(5.3%) | 4598億ドル |
Intel | 149億1400万ドル(1.3%) | 36億1300万ドル(-1.3%) | 1336億ドル |
EMC | 70億1400万ドル(-0.5%) | 7億7100万ドル(-32.8%) | 472億ドル |
58億4100万ドル(51.7%) | 15億6200万ドル(122.8%) | 2790億ドル | |
Qualcomm | 57億7500万ドル(-18.7%) | 14億9600万ドル(-24.1%) | 634億ドル |
Amazon.com | 357億4700万ドル(21.9%) | 4億8200万ドル(125.2%) | 2213億ドル |
(AWS) | 24億500万ドル(69.4%) | 6億8700万ドル(186.3%) | |
Yahoo | 12億7300万ドル(1.6%) | ▲44億3400万ドル(―) | 253億ドル |
Appleは16年1月26日(米国時間)に発表した15年10~12月期決算に関するプレスリリースで、16年1~3月期の売上高が500億ドル~530億の間になる見込みだと明かした。15年1~3月期の売上高は580億100万ドルであり、前年同期比で見ると10%前後の減収になる。
Appleは15年10~12月期決算で売上高、利益とも過去最高を記録したが、iPhoneの売上高は前年同期比1%増。それが16年1~3月期には減少に転じるもよう。同社は「Apple TV」や「Apple Watch」など新規デバイスの販売に力を入れており、これらを含む「その他プロダクト」の売上高は43億5100万ドルと同62%増加しているが、売上高はiPhone(516億3500万ドル)の1割未満。iPhoneの減速を穴埋めするには至らない。
Apple同様にスマホの波に乗って急成長を遂げていたQualcommは、Appleよりも先に減収に直面した。Qualcommが減収に転じたのは15年4~6月期のこと。それ以来、3四半期連続で減収が続いている。減収率も拡大が続いており、15年10~12月期の売上高は57億7500万ドルで同18.7%減少した。16年1~3月期の売上高見込みは49億ドル~57億ドルで、同20%前後の減収が続く見込みだ。
スマホに関してAppleやQualcommよりもさらに状況が悪いのが米Microsoftだ。同社の15年10~12月期決算では同社のスマホ売上高は同49%減少した。Microsoftは15年7月に、フィンランドNokiaから買収したハード部門(Nokia Devices and Services)で7800人の人員削減を行うなど、大規模なリストラ策を発表している。
Microsoftにとって救いなのは、「Microsoft Azure」の売上高が同140%増加、「Office 365」の売上高が同70%増加するなど、クラウド事業が順調に推移していることだ。Microsoftのクラウド事業は年率換算で94億ドルを突破したとする。
IT企業にとっての「ポストスマホ」は、デバイスではない。スマホに代わって伸びているのは、スマホ向けのサービスや、それらのサービスを支えるクラウドである。特に順調なのが、米Googleの持ち株会社である米Alphabet、米Facebook、米Amazon.comの3社だ。共通するのは各社とも早期にスマホのハード開発や製造販売から撤退し、スマホ向けのサービスやクラウドに特化していることだ。
15年10~12月期に213億2900万ドルだったAlphabetの売上高の89.4%は、Googleの広告売り上げが占める。15年10~12月期におけるGoogleの広告売り上げは190億7800万ドルで、前年同期比17%増加した。AlphabetのRuth Porat CFO(最高財務責任者)は「売り上げの高成長はモバイル検索広告と『YouTube』広告、そして(広告枠を入札を通じて販売する)『プログラマティック広告』が支えた」と説明する。
Alphabetは広告売り上げに占めるモバイル広告の割合を明らかにしていない。それに対して15年10~12月期に前年同期比51.7%という大幅増収を達成したFacebookは、広告売り上げに占めるモバイル広告の割合が80%に達したと公表している。14年10~12月期におけるモバイル広告の割合は69%であり、Facebookはこの1年でますます「モバイル企業」へと変ぼうした。
MSとAmazonのクラウドが「1兆円超え」へ
Amazonの15年10~12月期決算では、クラウド事業「AWS(Amazon Web Services)」が好調だ。AWSの売上高は前年同期比69.4%増の24億500万ドル、営業利益は同186.3%増の6億8700万ドルに達した。Amazon全社の営業利益である11億800万ドルの62%をAWS事業が稼ぎ出す。2015年1~12月期の通年決算では、AWS事業の売上高は78億8000万ドルに達した。2016年度は、Amazon(12月期決算)とMicrosoft(6月期決算)の2社が「クラウド売上高1兆円超え」を実現しそうだ。
Intelの業績もクラウドが支える。同社の15年10~12月期決算では、PC向けプロセッサが中心の「Client Computing Group」の売上高が前年同期比1.2%減の87億5600万ドルだったのに対して、サーバー向けプロセッサが中心の「Data Center Group」の売上高は同5.3%増の43億800万ドルと健闘し、全社売上高は同1.3%の増収となった。
しかしIntelのデータセンター事業には、強力なライバルが登場しそうだ。Qualcommが15年10月に、ポストスマホ戦略の一環としてサーバー向けのプロセッサ事業に参入したためだ。Qualcommはサーバー向けの64ビットARMプロセッサで、Intelの「Xeonプロセッサ」の牙城に挑む。
2016年。ポストスマホを巡るIT企業の競合は、ますます激化しそうだ。
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