この原稿を書く直前、記者は会社の机でコンビニエンスストアで買ってきたおにぎりを食べながら、スマートフォンを眺めていた。見ていたのはFacebookでもTwitterでもない。タレントの出川哲朗さんとウド鈴木さんが出演している「さしめし」という番組。LINEが12月10日から開始した「LINE LIVE(LIVE)」という動画配信サービスの一番組だ。
LIVEでは、著名人やタレント、企業がライブ配信(生放送)形式の映像や番組を配信する動画サービス。LIVEの公式アカウントをLINE内で「友だち登録」しておけば、生放送が始まることをメッセージで教えてもらえ、放送はLINE内でも視聴することができる。LIVE専用アプリもあり、アプリでは皆が番組に対して次々と送るコメントをリアルタイムで見られる。
動画は自社企画で運営し、コンテンツプロバイダーも視聴者も現段階では無料で利用できる。1日3~8本の生放送を実施し、番組は「昼と夜20時以降のスマートフォンのゴールデンタイムに集中させる」(LINEの舛田淳取締役)。
ライブ放送サービスとしては後発
生放送を行う動画サービスであれば、ニコニコ動画、ツイキャスなど既存のサービスがある。動画配信最大手YouTubeにもライブ配信機能は備わっている。一方、後発ながらLINEが生放送という動画配信を手がけるからには、それなりの勝算があるのだろう。使いながら感じたのは、2つの強みだ。
1つめの強さは、「プッシュ」の力だ。生放送が始まる時間には、LINE内で友達からメッセージがくるのと同じように「始まるよ!」とお知らせが送られてくる。スマートフォンにおいては、ほかのアプリでもプッシュ通知はお知らせの常套手段だが、LINE内の通知は他のアプリより“開封圧力”が強い。いつも使っているアプリなだけに、アイコン右上に「赤い数字」が残っているのが気持ち悪いというのもある。
実際、舛田氏は、内部調査データとして、通常のアプリにおけるプッシュ通知より、LINE内における通知の方が開封率が高いというデータをLIVEの発表会で紹介していた。
記者自身も、通知が来るたびについつい開いて見てしまう。たとえ興味がなかったとしても、志村けんさんがいれば思わずタップ。井上苑子さんという知らない歌手がいればタップ。
これが国内5800万人の会員数を誇るLINEの力だろう。ニコニコ動画にしろ、ツイキャスにしろ、まずは“動画サービス”に登録してもらう必要がある。そもそも動画サービスに興味がなければ登録しない。もしくは、登録してまで見たいと思える動画に出会わない限りしない。一方、LINEの場合、LINEを使ってさえいれば、積極的に動画は見ないが、目の前にあれば見る、程度の潜在ユーザーにまでアクセスできる。
当然、LIVEを「友だち登録」するか、LIVEアプリをダウンロードしなければ、プッシュ通知はこない。5800万人のうち、何人がそれをするかという課題はあるだろう。一方、例えば、登録したユーザーにスタンプを配るというLINEの“常套手段”を使えば、一気にユーザーは増えるはずだ。例えスタンプ欲しさで登録したとしても、筆者のような「目の前にあれば見る」ユーザーを少なくとも捕まえることができる。ユーザーが動画というコンテンツにたどり着くまでの距離感が、他の動画サービスに比べて圧倒的に短く、ハードルが低い。
テレビ局も焦り始めた
サービス開始後、すでに視聴者数は5日間で累計1000万人。冒頭の「さしめし」は常時100万人が視聴しているという。この数は、長年視聴者動向をリサーチしているネオマーケティングによると「驚異的な数」だという。「1番組における100万人という数字は、5800万人を母数とした場合、視聴率にして数%程度と小さいが、開始早々にこの数字を獲得できたことは注目に値する。“誰が見たか”分かる数値としての100万人というのも非常にバリューが高い」(ネオマーケティング)と話す。LIVE発表後、ネオマーケティングには、テレビ局からLIVEを脅威と捉え、属性についてや視聴者アンケートについての問い合わせが増えているという。
現在、日本の世帯数は5641万2140世帯(住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数、2015年1月1日現在)。このうち、内閣府の消費動向調査によれば、2015年3月現在のテレビ世帯普及率は97.5%。LINEの国内会員数5800万人という数字は、既に日本のテレビ設置台数を超えているともいえる。つまり、LIVEの「配信力」は、すでにほぼテレビと変わらない、もしくはそれ以上とも捉えてもよいのかもしれない。
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