私の主戦場が振り飛車にある、というのはもう何度もお話しさせて頂いているが、
具体的に言うと、石田流とゴキゲン中飛車が現在の主力である。
その中でも私の頭を悩ませているのが石田流だ。
この作戦は、私の中で常に滅び、復活し、を繰り返している。
「大駒は近づけて受けよ」とは有名な格言だが、
石田流は最初から飛車が近いため何かと当たりが強く、
成立する作戦なのかどうか、という根幹の部分から否定されるケースも多い。
その中でも、特に困っている分野が、次の局面だ。
初手から
▲7六歩 △3四歩 ▲7五歩 △8四歩 ▲7八飛 △8五歩(下図)
この形は、石田流で唯一角交換型になる変化。
つまり石田流における破調の部分である。
もし石田流がダメになるとしたら、
8割以上の確率でこの出だしだろう。
角交換型に比べ、▲6六歩と角交換を防げる形は、
先手作戦勝ちとは言い切れないが安定感が違過ぎる。
逆に言えば、角交換型を安定的に乗り切れれば、
石田流の根幹が揺らぐ可能性は少ない。
さて、この局面からは
▲4八玉、▲7四歩などが主に指されているが、
今回紹介するのは菅井新手▲7六飛である。(下図:テーマ図)
▲7六飛の狙いは、次に▲6六歩と突こうというもの。
これは前述のように安定的な戦い方が出来るので、
振り飛車に不満は無い。
しかし、この手は従来より、
△8八角成 ▲同 銀 △4五角でダメとされてきたのだ。
ところが、以下の手順が新構想だった。
▲6六飛 △2七角成 ▲7四歩 △同 歩 ▲5五角 △2二銀
▲3六歩(下図)
馬を作らせているのにボンヤリしているような▲3六歩だが、
後手は次の▲6三飛成を受けるのが難しい。
△8二飛の横利きを止めてしまうと、▲2二角成があるためだ。
菅井新手が現れた対局で後手を持っていた谷川浩司九段は△2六馬と指し、以下
▲5八玉 △5四歩 ▲8二角成 △同 銀 ▲6三飛成(下図)
と進行。先手良しとなった。
しかし、私は途中の△2六馬に疑問を持った。
ここは△6四歩と突くべきではないか?
それが今回のテーマである。(下図)
飛車角の焦点に歩を突くのは手筋中の手筋で、
谷川先生が読んでいないはずは無いと思ったが、
いかんせん資料が無い。
よって、例によって自力での解決に精を出す事とする(苦笑)
▲6四同角は△2六馬 ▲5八玉 △9二飛で手が無い。
というわけで▲3八銀とするのが第一感だった。以下
△2六馬 ▲3七銀 △5四歩 ▲2二角成 △3七馬 ▲同 桂
△2二飛 ▲6四飛(下図)
銀で馬を追いかける事で、5三への防御線を崩せる。
よって▲3七銀に△2五馬などなら、▲6四角で良し。
上図はやや先手良しと思う。
ただし、△6二銀や△5二金左のような手を指され、
後手も手段は多いかな?といった感想をもっていた。
しかし、こうした細々とした研究を一人でやっていると、
私の場合、どこかで見落としをしてしまう。
この将棋の場合もそうで、
△6四歩には単純に▲同 飛があるのが私の見落とし。(下図)
本テーマの△6四歩を発想した時から、
「▲6四同飛には△3六馬がピッタリで後手良し」
と思いこんでいた。
6三の成り込みを防ぎつつ狭い馬を世に出す手で、いかにも味が良く
以下▲3二歩はうるさいものの△3三銀で大丈夫。
ところが、△3六馬には次の一手なら初段コースという手筋があるのだった。
下図、▲7二歩が決め手だ。
△3六馬と指した瞬間だけに、▲7二歩が盲点になってしまっていた。
この歩は飛車以外で取ると▲2二角成があるので、△同 飛とするしかないが、
そこで▲6六飛で一丁上がりである(下図)
▲7二歩に気付いたのは、研究を始めて大分経った後の事。
「な~んだ」と自分に呆れたが、研究の先に素晴らしい手筋が待っていた事は嬉しい。
総合すると、私の中で菅井竜也四段新手▲7六飛に対し
角交換から△4五角とする筋は不成立という事になる。
これは振り飛車党にとっては朗報で、
石田流での戦い方が大きく変わる可能性もあるだろう。
ただし、△4五角と打たなかった場合がかなりの難物。
以降も研究を続けていきたい。