西川善司の大画面☆マニア

第199回:サムスン「液晶は有機ELを超えた」、LG「有機ELこそ最上質」。火花を散らす韓国勢

第199回:サムスン「液晶は有機ELを超えた」、LG「有機ELこそ最上質」。火花を散らす韓国勢

 日本での市場シェアはそれほど高くないが、世界市場においてはいまやナンバー1、ナンバー2のメーカーとして知られるサムスンとLG。この両雄は、「仲良くケンカしな」という表現が丁度はまる、あからさまに互いを意識しあった展示を行なうことで有名だ。

LGブース

 この「仲良くケンカしな」事例の記憶に新しいものとしては、2010年頃から始まった3D立体視テレビの方式の対立がある。サムスンはアクティブ液晶シャッター方式、LGはパッシブ偏光方式を採用し、相手の方式の弱点を突き、自方式の優位性を強調する展示をしあって、2010年から数年のCESを盛り上げた。

 世界動向を見極める際には欠かせない2社。今年も「サムスン対LGの戦い」を大画面☆マニアの視点でお届けしよう。

4K薄型TVの最上位として有機ELテレビを掲げるLG

 最も分かりやすく、そして面白かったのは両社の“有機ELの扱い”だ。この連載では何度か紹介しているが、2014年春から夏にかけて、ソニーとパナソニックがテレビ用の大型有機ELパネルの開発製造事業から撤退を表明し、この流れを受ける形でサムスンも撤退を表明。一方のLGは、継続させる方針を打ち出した。

 この流れを受けて今年のCESでは、サムスンブースからは有機ELテレビの試作機展示が無くなり、LGブースでは有機ELテレビを大々的に展示する……という、非常に対極的な構図となったのだ。

 大型有機ELパネルの製造に成功したLGとしては、薄型テレビの本命は有機ELという立場をとり、液晶テレビのラインナップの上位モデルとして設定している。

LGブースの入口には、ブラウン管からのテレビの歴史を解説したパネルを掲げ、最新の4K有機ELテレビの前には美女の姿が

 LGは、昨年まで55型モデルのみだった有機ELテレビのラインナップを、今年からは55型、65型、77型の3サイズ展開へと拡大。

 最上位で最大サイズの77型は、湾曲型の「EG9700」と平面・湾曲トランスフォーム型の「EG9900」の2タイプがラインナップされ、65型は超薄型の「EF9800」、湾曲型の「EG9600」、平面型の「EF9500」の3タイプが登場する予定だ。

 55型は従来通り湾曲型の「EG9600」、平面型の「EF9500」の2タイプを展開。解像度はいずれも4K(3,840×2,160ピクセル)で、有機ELテレビ製品はフルHD解像度モデルを今後は投入しない。

55型、65型、77型の3サイズ展開となるLGの4K有機ELラインナップ
各サイズで平面型、湾曲型がラインナップされる。最大サイズの77型では平面・湾曲トランスフォーム型も用意
77型の平面・湾曲トランスフォーム型モデル。湾曲モード時と、平面モード時
77型の平面・湾曲トランスフォーム型モデル。変形の様子

 LGは「4Kテレビの本命は有機EL」の立場を強めていくものの、液晶テレビの投入をやめるわけではない。今後もフルHD解像度の普及モデルはもちろん、ハイエンドの4Kモデルについても液晶モデルのリリースは続けていく。

 特に4K液晶テレビは、本連載前回で解説した量子ドット技術を適用した広色域モデルに対し、「ColorPrime:Nano Spectrum」ブランドを与えて展開していく見込みで、エリア駆動対応型の直下型バックライトシステムと量子ドット光学シートを画面全域に貼り合わせた高コストで贅沢なモデルとなる。

 ただ、「ColorPrime:Nano Spectrum」モデルの画面サイズをどこまで展開するかはLG自身も決めかねているようで、おそらく有機ELで提供される77型以上の大画面サイズの4Kテレビ製品は液晶で展開するとみられる。

LGは4K薄型テレビ製品として引き続き、液晶モデルにも力を入れていく

 年内に登場すると言われる次世代4Kブルーレイ(ULTRA HD BLU-RAY)は、4K解像度、広色域、ハイダイナミックレンジ(HDR)に対応するといわれるが、この「4K×広色域×HDR」映像を最も美しく表示出来るのは有機ELテレビである……と訴求してくることだけは間違いない。

 価格について聞いてみると、あまり具体的に語りたがらない。これはサムスンの動向を探っているからだろう。ただ、複数の関係者にアタックしてみたところ、77型の有機ELが25,000ドル、65型が10,000ドルになるだろうとのこと。

 ちなみに、4Kの「ColorPrime:Nano Spectrum」液晶モデルは、ほぼ同画面サイズの有機ELテレビに対して約半額くらいになると思われる。

量子ドット技術を適用した広色域4K液晶テレビ「ColorPrime:Nano Spectrum」シリーズの65型。画面サイズで有機ELモデルと被るが、価格は同サイズ有機ELモデルの半額程度になるとみられる
21:9アスペクト、5,120×2,160ピクセル解像度、105型IPS液晶テレビ。これは現行品で「ColorPrime:Nano Spectrum」シリーズではないが、4K解像度以上の液晶テレビは全て「ColorPrime:Nano Spectrum」に置き換わっていくと見られる

「液晶はもはや有機ELを超えた」と、LG対抗メッセージを掲げるサムスン

 対して、有機ELテレビ開発から撤退してしまったサムスンは「技術競争から脱落した」というイメージを避けたいのか、今年のCESでは「液晶こそ4Kテレビの本命」というブラディングに情熱を注いでいる。

サムスンブース

 2015年のサムスンの4K薄型テレビは、エリア駆動対応型の直下型バックライトシステムを採用し、その上で量子ドット技術を適用し、ハイダイナミックレンジ表示にも対応させた「S-UHD」ブランドで訴求される。

 LGの4K有機ELテレビラインナップに対しては、画面サイズの大きさとコストパフォーマンスで対抗する。

 サムスンのS-UHD液晶テレビは、LGの有機ELテレビよりも大きめの78型や88型、そして受注生産モデルにはなるが、105型がラインナップされる。

LGの77型よりもわずかに大きい、サムスンの78型4K S-UHD液晶テレビ。コストパフォーマンスで対抗
これまで84型や85型が存在した市場レンジには88型を投入

 ところで、今回の展示で「ここまでやるか」と驚かされたのは、LGが推し進める「有機ELテレビが最先端方式」というブランディングの浸透に抵抗する目的で設置された、特設展示セクションだ。

 ここでは、「LEDバックライト液晶テレビ」、「広色域LEDバックライト液晶テレビ」、「プラズマテレビ」、「有機ELテレビ」、「S-UHDテレビ」の5種類を同時に展示。同展示セクションの説明スタッフは「一番画質が優れているのはどれでしょうか。有機ELじゃなくて液晶ですよね?」と声を張り上げていた。

展示セクションの一番目立つ中央にには「S-UHD液晶テレビこそが、全てのテレビ方式を超える」というメッセージも

 実際、この展示内容に限っては、S-UHDテレビの表示は広色域でありながらも上品な色あいで、黒のしまりも有機ELと変わらないように見えていた。一方で「LEDバックライト液晶テレビ」、「広色域LEDバックライト液晶テレビ」は黒浮きが強めで、「プラズマテレビ」はピーク輝度が低めで表示が暗く、「有機ELテレビ」は黄色に寄った発色となっていた。

 S-UHDテレビの黒のしまり具合が有機ELと同等に見えるのは、この展示セクションがわざと暗室でなく間接照明を使って薄明るくしていたためだろう。昨年までサムスンも「有機ELが薄型テレビの最高位」と言っていたはずなのだが……。

 まぁ、「有機ELの貶め展示」の是非はともかくとして、薄型4Kテレビにおいて実際のコストパフォーマンス面では液晶が優位なのは確かだろう。

 S-UHDテレビの105型は、平面・湾曲トランスフォーム型でかなりの高額商品なるようだが、それでもLGの77型、4K有機ELテレビの価格と同等かそれ以下になるとみられる。他の画面サイズのモデルについても同画面サイズのLG製4K有機テレビよりは大分安価になる見込みだ。

105型のS-UHD液晶テレビは平面・湾曲トランスフォーム型モデルとして投入される。液晶でも平面・湾曲トランスフォームに対応することをアピールしていた。LGの77型4K有機ELテレビよりも価格的には安価となる見込み。コストパフォーマンスに勝機を掛けるサムスン
サムスンの105型S-UHD液晶テレビ。平面・湾曲トランスフォーム型だ

 LGやサムスンが市場シェアの1、2位を独占する欧米テレビ市場において、この4Kテレビ覇権を巡る戦いはどういう展開を見せるのか。気になるところだ。

 日本テレビ市場においてはサムスンは既に撤退、LGは製品投入を続けているが、有機ELテレビの市場投入戦略に関しては未だ不透明だ。いまや有機ELテレビはLGがオンリーワン的な存在なので、日本でリリースしてみる価値はあると思うのだが……果たして?

向上したLGの有機ELパネルの画質

 さて、ソニー・パナソニックといった日本勢も撤退し、サムスンも断念した大型サイズの有機ELディスプレイパネルだが、LGだけはなぜ開発に成功したのだろうか。

 復習にはなるが、この辺りについても最後に簡単にまとめておこう。

 日本勢や韓国サムスンが開発していた有機ELパネルは、RGB(赤緑青)の各色で発色するサブピクセルを有機EL素材で形成させる方式だった。

 このRGB有機EL画素の形成方式としてパナソニックが開発を進めていたのは「RGBオール印刷方式」。印刷方式は、一度、ドットピッチを決定して印刷ヘッドを開発してしまえば、このヘッドを共用して、画面サイズに依存しない生産が可能であることに未来を見出そうとしていた。

 有機EL材質を蒸着させる方式とは違って、真空環境や高温製造プロセスが不要なので生産工程がシンプルでコスト的に安くしやすいという利点もあった。

CES 2013で公開された、パナソニック自社製造パネルを用いた56型4K有機ELテレビ試作機。色あいが少々おかしかった

 ソニーは、印刷技術と真空蒸着を組み合わせたハイブリッド型形成方式の開発を進めていた。ハイブリッド方式では印刷技術で形成しても問題ないとされる赤色発光層と緑色発光層の形成に印刷技術を用い、印刷で形成すると発光効率や寿命の面で難がある青色については青色共通層として蒸着技術を用いて形成させていた。

CES 2013で公開された、ソニー自社製造パネルを活用した56型4K有機ELテレビ試作機。当時は、画質に関してはソニーのものがパナソニックを上回っていたと思う

 結果論ではあるが、このRGB有機EL画素形成方式は、コストが高くつくわりには歩留まりも上がらず、“価格競争の激しい薄型テレビ向けとして不向き”と判断された。

CES 2014で公開されたサムスン自社製造パネルを使った55型4K有機ELテレビ試作機。2014年時点で、LGは77型までのサイズ展開を予告していたのに対し、サムスンは55型のワンサイズ展開の予告しかしていない
サムスンの有機ELパネルはLGとは異なり、RGBの各色有機材をサブピクセル単位で塗り分けて形成させる高コスト方式だった。RGBが縦方向に並ぶのが特徴的

 では、LGの有機はどうしてこの開発競争に生き残れたのか。

 LGは、最初から製造難度の高いRGB有機EL画素個別形成方式を選択せず、量産性と輝度性能に優れる白色有機EL画素だけを形成する方式を選択したのだった。白色有機EL画素だと白黒映像しか表示出来ないことになるが、これに液晶パネルで使うようなカラーフィルタを貼り合わせてフルカラー表現を行なう。

 実際には、RGBカラーフィルタに加えて、白色光をそのまま取り出す白(W)サブピクセルも確保するのでLGの有機ELパネルは「RGBW有機ELパネル」とも呼ばれる。

 この白色(W)サブピクセルは、主に画素単位の輝度の嵩上げ効能に用いられる。暗色や暗色階調は、この白色サブピクセルを光らせた上で、色味をカラーフィルタを通して取り出すRGBサブピクセルから作り出すのだ。これには階調力表現の向上と省電力性能を両立させる副次効果もある。

 また、黄(Y)サブピクセルを追加したシャープのQUATTRONと同じ理屈の「サブピクセルレンダリング」を実践して、広色域表現や一段上の高解像度表現も行えるとLGは主張している。

LG製有機ELパネルは、白色有機EL画素に赤緑青(RGB)カラーフィルターを組み合わせたものになっている。ただし、白色(W)ピクセルも確保されるので、1ピクセルはRGB+Wの4つのサブピクセルから成ることになる

 実際の今回展示されていた有機ELの画質だが、2年前の最初期と比べれば随分と向上したことを実感できる。

 黒のしまりは原理的に良いのでいまさら言うまでもないが、「発色がとても自然となったこと」、「暗色や暗部階調力が自然になったこと」が進化ポイントとして挙げられる。

 「発色がとても自然」なのは、恐らくカラーフィルタの最適化やデジタル次元でのカラーマネージメントが熟成したためだろう。「暗色や暗部階調力が自然になった」のは、前述したようなWサブピクセルの活用が洗練されたためではないかと推察している。

 LGブースの一角に設けられていた暗室の有機ELテレビ体験コーナーでは、この辺りの表現力を見てもらうために、純色表現、暗部階調表現、暗色表現のデモ映像が流れていたが、かなり良好な見映えとなっていた。

 有機EL画素は、自発光ゆえ、暗く光らせて表現する暗部階調表現、暗色表現がノイジーになりやすいのだが、そうした現象が、今年の展示ではちゃんと克服できていたことに感銘を受けた。

 既に、本連載では、自社開発の有機ELパネル採用を断念したパナソニックが、LG製有機ELパネルを採用して有機テレビの参考出展していることをレポートしているが、もしかすると、この動きは、最新のLGのRGBW方式有機ELパネルに未来を見出せたからこそのアクションなのかもしれない。

今年のCES、パナソニックブースに展示されていたLG製有機ELパネルを採用した有機ELテレビの試作機。画質に関しての評判は非常に高かったようだ

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちら